訪問介護、人手不足で無資格者でもサービス可能に!ヘルパーの待遇改善が危機的状況を救う
厚労省、新型コロナ感染拡大で訪問介護に特例
無資格でもサービスができるように!
厚生労働省は2020年4月27日、訪問介護サービスについて、新型コロナの影響により人材を十分に確保できないときは、ホームヘルパーの資格(介護職員初任者研修修了)を持っていない職員でもサービスを提供できる、との規定を明らかにしました。
ただし、サービスを行えるのは介護経験者であることが条件です。
3月時点では、無資格の職員が訪問介護を行えるケースとして、通所介護(デイサービス)が機能しなくなり訪問による介護ニーズが拡大した場合、あるいはホームへルパーが発熱により休む必要が生じた場合、などが例示されていました。
今回新たに提示されたのは、3月に示されたケースにとどまらず、「新型コロナの影響によってヘルパーを確保できない状況であれば、幅広く認める」という内容です。
今回の厚生労働省による判断の背景には、新型コロナ感染拡大以前から続いている「訪問介護における人手不足」という本質的な問題が影響しているといえます。
有効求人倍率13.1倍!深刻な人手不足が続いている
介護分野ではあらゆる職種において人手不足の状況が続いていますが、訪問介護は特に深刻です。
厚生労働省の調査によると、2018年度における訪問介護員の有効求人倍率はなんと13.1倍。同時期における全業種の平均値は1.46倍でしたから、それよりも約9倍も高い数値となっています。

また、厚生労働省のデータによると、ホームヘルパーの勤務形態は約2割が正職員、約1割が常勤非正規職員、そして約7割が登録型となっています。
このうち、ホームヘルパーの大半を占める登録型については、全体の6割以上が50代以上で、37%が60代以上となっています。
現状においてホームヘルパーの多くが中高年以上の年代であり、今後年齢によって辞めていく人が多くなると、ますます人手不足になると予想されます。
ホームヘルパーを取り巻く状況
「介護職員初任者研修」取得で身体介護が可能に
そもそもホームヘルパーの資格である「介護職員初任者研修」とは、これから介護職としてのキャリアを積もうとする人が、最初に取得する資格です。
資格取得までの研修を通して、介護の理念や高齢者への接し方、利用者の個性を尊重することなど、介護の基本を学ぶことができます。
老人ホームなどで簡単な介助・補助作業を行うだけなら無資格でも行えますが、ホームヘルパーとして着替えや食事、排泄などの介助をする「身体介護」を行うには、最低でも介護職員初任者研修の資格取得が必要です。
今回の特例では、無資格者でもサービスが行えるよう認められました。人手が足りない状況であるとはいえ、サービスの質が低くなってしまわないか懸念されます。
採用難の理由は「賃金の低さ」
介護労働安定センターの「介護労働実態調査(2013年度)」によると、介護事業所に介護職員の定着率について尋ねたところ、「施設の定着率は低くない」と認識している介護事業所は全体の約7割に上っています。
離職率が高いことが人手不足の直接的な原因ではないようです。
では、人手が足りない理由は何でしょうか。介護職全体の人手不足の理由を尋ねるアンケートでは、最多回答は「採用が困難」であり、採用が困難な理由をみると「賃金が低い」が最も多い回答となっていました。

また、先ほど見た通り、介護職の中で訪問介護だけが突出して有効求人倍率が高い状況が生じていました。なぜ訪問介護だけそのような事態が生じているのでしょうか。
その最大の要因は訪問介護における「介護報酬の低さ」です。介護報酬とは、介護事業所のサービス提供体制や利用者の状況に応じて、厚生労働大臣が定める基準によって算定されています。
介護報酬は3年ごとに改定が行われていますが、訪問介護については2015年の改定で基本報酬が4%減らされ、2018年度の改定では「生活援助」サービスのほとんどが減算されました。
こうした介護報酬の減算化は、ホームヘルパーの賃金減に直結します。賃金が少なければ、当然ですがその職に就きたいと考える人は減ってしまうわけです。
「最後の砦」である訪問介護を全力でサポートする必要がある
社会保障費用抑制のために「生活援助」を規制
訪問介護の報酬が改定ごとに減らされている理由は何でしょうか。
訪問介護には「身体介護」と「生活援助」があります。身体介護は着替えや排泄介助など利用者の体に直接触れて行うサービスのことです。一方、生活援助は、掃除や調理、洗濯など家事の面で利用者をサポートするサービスを指します。

現在国は増え続ける社会保障費を抑えるために、少しでも費用削減の余地がないか検討を続けていますが、近年そのやり玉の1つに上がっているのが「訪問介護の生活援助」です。
生活援助は利用者の家事支援が主な目的ですが、数年前から財務省などで「本当に介護の仕事といえるのか」「介護のプロが行うべき業務なのか」という疑問の声が上がっています。
財務省による「不当・不必要な生活援助が行われていた可能性がある」との指摘に基づき、2018年10月から「生活援助を多く盛り込んでいるケアプランの届け出義務化」の制度が施行されるに至っています。
この制度施行が介護現場に与えた影響は大きいものでした。
「ケアマネジメントオンライン」がケアマネージャーを対象に行った調査によれば、ケアマネ届け出義務化制度により、「ケアプラン作成時に、約6割のケアマネが生活援助の回数に配慮するようになった」との実態が明らかにされています。
「危険手当」を求める要望書も提出される
新型コロナの感染拡大により通所介護の利用が難しくなったこともあって、訪問介護への需要が増加しました。しかし訪問介護の現場では、国の姿勢に疑問の声も上がっています。
先述の通り、近年訪問介護は介護報酬の面で軽んじられてきました。そんな中で、新型コロナにより通所介護の休止が相次ぐと、国はただちに訪問介護で代替するよう呼びかけているわけです。
賃金を安くさせられ、それゆえに極度の人手不足に陥っている訪問介護事業所に対して、感染リスクが高まる中でさらに多くのサービスを提供するよう求めるのは、過酷な要求であるといえます。
現場で働くホームヘルパーが「国は冷たい」と感じるのも無理はないでしょう。
新型コロナに対する「最後の砦」ともいわれる訪問介護ですが、その崩壊を防ぐには、まずは待遇を改善する必要があります。4月下旬、訪問介護事業所を運営するNPO法人から「危険手当」を求める要望書が政府に提出されました。
新型コロナが猛威を奮う中、最前線で戦っている業種の一つである訪問介護。今後の政府の対応が注目されます。
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2020年9月7日 制定