世界一の高齢国・日本。高齢者人口は、いわゆる「団塊の世代」が65歳以上となる今年、約3,186万人となっています。内閣府の推計によると、10年後には高齢者人口は3,395万人に達し、2042年の3,878万人をピークに減少に転じるとされています。
高齢になると、判断能力や運動能力はどうしても衰えてきます。これは致し方ないこと。その事実を受け入れつつも、若いときの自分とのギャップを感じながら生活している高齢者の方はたくさんいるでしょう。
そんな昨今、高齢者が犯罪に巻き込まれるケースが増えています。そこで今回は、望まずとも巻き込まれてしまう、高齢者を巡る犯罪について考えてみました。
2015年9月末時点で被害額は約352億円!振り込め詐欺を中心とした知能犯の割合が急増中!
高齢被害者の割合は増える一方…。高齢者が“格好の的”になっている現状は否めない
警察庁によると、刑法犯認知件数のうち、高齢者が被害者となった件数は、1996年に10万件に達し、ピーク時となる2002年には約22万5,000件を突破しています。
その後、右肩下がりで刑法犯認知件数は減少。
2012年には、10年前の2002年と比較すると、約3分の2になっています。
しかし、高齢者が被害者となった件数は約13万件(2012年)と依然高止まりしており、刑法犯認知件数における高齢者の被害割合は、9.5%(2012年)。
1993年と比較すると2倍以上の割合となっています。
つまり、刑法犯認知件数が減少するなか、高齢者が被害者となる事件の割合が増えているというわけですね。
高齢者を狙うのは知能犯。その手口は振り込め詐欺に集中!?
では、高齢者はどのような犯罪の被害者となっているのでしょうか。被害割合の高さから見ると、知能犯、凶悪犯、窃盗犯、粗暴犯、風俗犯の順となります。
グラフを見ればわかる通り、知能犯の割合が急増しています。2012年は20%超となり、1993年と比較すると約3倍に。知能犯の代表格は、特殊詐欺と呼ばれるものです。
特殊詐欺とは、「面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振り込みその他の方法により、現金等をだまし取る詐欺」と定義されています。
振り込め詐欺がその代表格。報道等で頻繁に耳にするオレオレ詐欺は、振り込め詐欺の一種ですね。ほかには、金融商品等取引名目の特殊詐欺などがあります。これは、未公開株・社債等の有価証券、外国通貨等の売買勧誘をきっかけに詐欺を行うものです。
2015年9月末現在の手口別被害状況を見ると、認知件数1万165件のうち、オレオレ詐欺が4,378件と約45%を占めています。
振り込め詐欺の一種である架空請求詐欺(2,961件)と還付金等詐欺(1,685件)を合わせると、振り込め詐欺で約9割。
振り込め詐欺の深刻さがよくわかります。
特殊詐欺の認知件数は昨年同期と比べて約1割増加となったものの、被害総額は約1割減少しています。
被害額は減っている…けれども、件数は増加!知能犯に狙われる高齢者が増えている!?
なにより驚くべきは、被害額の大きさです。2015年9月末の被害額は約352億円!昨年より約1割減少しているとはいえ、膨大な額となっています。
特殊詐欺の被害者は、70歳以上が約5割です。被害者のうち、女性が約7割となっています。女性の平均年齢が男性より高いことや家事従事者として、主に電話に対応するのが女性であることが背景にあるのでしょうか。
被害件数と比較して、被害額が大きいのは悪質商法です(金融商品等取引名目の詐欺等が当てはまります)。有価証券等を扱うため、1件あたりの被害額が膨らみやすいのです。
東京都生活文化局の調査(都内各区市町村の老人クラブ連合会の会員5,300人が対象)によると、東京の高齢者の約4割が何らかの悪質商法に遭遇しているそうです。
被害額は「10万円~50万円」が24.9%と最も多いですが、100万円以上の高額被害は23.8%。
このうち、500万円以上は6.9%なっています。
高齢者が狙われる理由は「孤独」、そして「無知」
なぜ、詐欺被害に遭う高齢者は減らないのでしょうか?前述の通り、加齢による判断能力の減退が主な原因として挙げられますが、それだけではなさそうです。
理由のひとつが「孤独」です。現代社会は、地域コミュニティが形成されておらず、人間関係が希薄と言われています。特に都市部においては、その傾向は顕著でしょう。
独居老人は増え続けています。被害に遭った高齢者の多くが「親身になって話を聞いてくれた」「親切にしてくれた」と犯罪に巻き込まれたにもかかわらず、犯人を擁護する発言を繰り返しています。高齢者の孤独に犯人がつけ込んでいるのです。
「無知」もまた、高齢者が狙われる大きな要因と言われています。
還付金等詐欺の一例である年金詐欺。
年金機構の職員をかたり、自宅を訪問し、現金を搾取するものです。
この手の詐欺は、年金機構の職員が家庭訪問することはないと知ってさえいれば防ぐことができます。
正確な情報を得ることで、対処が可能なのです。
8割以上の高齢者が考える「自分だけは被害に遭わないだろう」が、実は最も危険!
高齢者の詐欺被害を減らすには、まず防犯意識を改める必要があります。
振り込め詐欺の被害に遭った高齢者に対し、「自分自身が振り込め詐欺の被害に遭う可能性について、これまでどのように考えていたか」質問したところ、「全くない」「ほとんどない」と回答した高齢者が8割以上でした。
「自分だけは被害に遭わないだろう」という油断が詐欺被害に繋がっていると予想できます。
当事者意識が欠如しているのです。
全くない(63.9%) | |
ほとんどない(18.1%) | |
少しある(12.0%) | |
とてもある(6.0%) |
しかし、厚生労働省の資料によると、高齢者の約4人に1人が認知症またはその予備軍と考えられている現在、高齢者本人だけで詐欺を防ぎきれるとはとても言えないでしょう。周囲の人のサポートが絶対に必要です。
詐欺被害の多くがATMや金融機関窓口を利用した送金であるため、金融機関職員等による声掛けが被害防止に役立つとされています。警察では、2009年から全国一斉に声掛けをしており、水際での阻止件数は年々増加しています。
悪質商法の相談窓口として、消費生活センター等がありますが、あまり利用されていないようです。
悪質商法の被害後、「何もしなかった」と回答した高齢者が約半数。
自分にも責任があると思い、相談や被害届の提出を留まるケースが多数あるということ。
統計に出ているのは、氷山の一角と言えそうです。
日々進化(?)する詐欺の手口。防犯意識の向上だけでなく時代に即応した法整備も必要
本人や周囲の協力に加えて、法整備も大切です。
2013年2月には、改正特定商取引法が施行されました。
これは、訪問購入被害に対応してのことで、高齢者の自宅を訪問し、高騰した貴金属を強引に買い取るという手口が横行したため、不当な勧誘行為の規制や書面交付義務、クーリング・オフ等が新たに設けられました。
もちろん、これだけでは十分とは言えないでしょう。私たちにとってなくてはならないインターネット。ネット利用率が高まるにつれて、ネット犯罪も増え続けています。
クレジットカードやネットバンキング等で簡単に決済ができる時代。ネットを使い慣れていない高齢者が詐欺犯罪の餌食になってしまうケースも考えられます。時代に対応した法整備が必要です。
高齢者は今後も増え続けます。加齢により、判断能力が衰えてしまうのは無理のないこと。誰もが年をとるのです。その事実をあるがままに受け入れ、高齢者だけに被害の責任を押し付けず、地域・企業・政府の連帯力を高めることが重要ではないでしょうか。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 5件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定