介護職員の平均年収は全職種平均より200万円以上も少ない!?「介護職員=低賃金」という一般常識を裏付ける各種データの衝撃!
介護職員のなり手が少ない。この傾向が今後も続けば、確実に介護難民を生み、家族による介護の必要性がさらに高まって介護離職を余儀なくされる人が増える…というなんとも由々しき問題です。
厚生労働省によれば、介護人材は2025年度には237~249万人必要と推計されていて、毎年6万人前後の人材を増員していく必要があります。
しかし、今後、労働力として期待できる年齢層の人口が減少すると見込まれる中、質の高い介護職員をコンスタントに確保していくことは容易ではありません。
介護職には以前からいわゆる3K(きつい、汚い、危険)というイメージがつきまとい、敬遠されがちな業種であることはご存じの通りでしょう。せめて、給与水準が平均的なものであれば一定の求人を見込めるものの、現状そうはなっていません。
厚生労働省の統計によれば、2014年の全産業における平均月給は32万9600円。
これに対して、福祉施設の介護員は21万9700円、訪問介護員(ホームヘルパー)は22万700円、ケアマネージャーも26万2900円と全産業平均を10万円近くも下回っています。
ところが、同じ介護職であっても事業所の規模によって給与水準ならびに離職率の高さに差が見られることがわかってきました。
そこで、今回の特集では介護職員の給与実態にスポットをあてて、今後の人材確保に向けてどのような取り組みが必要であるか考えたいと思います。
人手不足の理由はやっぱり低賃金?介護業界が抱える給与問題を解決する糸口はどこに!?
有効求人倍率は全職種の約2倍!求人を出しても半数しか応募が来ないのが現状…
「介護職の人手不足は離職率の高さにある」というのは、必ずしも正しくありません。
公益財団法人介護労働安定センターによる「2014年度 介護労働実態調査」によれば、介護保険サービスを提供する事業者に「従業員が不足している理由」を回答(複数回答)してもらったところ、「離職率が高い」と答えた割合が17.0%だったのに対し、「採用が困難である」と答えた割合は72.2%にも及ぶことがわかりました。
介護職に従事する人材の不足原因は、離職率の高さよりも、採用の難しさにあることが浮き彫りになったわけです。
有効求人倍率の推移もこの実態を裏付ける結果を示しています。介護関連業種の有効求人倍率は、恒常的に全業種を上回っています。2014年度には2倍を超えてきており、ハローワークに求人を出しても半分は採用できないという状況にあるのです。

介護労働実態調査において、「採用が困難」と回答した事業所にその理由を回答してもらったところ、「賃金が低い」と答えた割合が61.3%と最も多いことが明らかになりました。

低賃金問題は生活レベルや将来の貯蓄に直結するだけに、介護業界への就職を妨げる壁となって立ちはだかっているのです。
キャリアを積んでも昇給しづらい…。介護職員のモチベーションが上がらないのも自明の理?
では、介護職の賃金が低いというのは本当なのでしょうか? 年代別の平均月収を比較した以下のグラフを見ていきましょう。


他業種と介護職員(福祉施設介護員)の給与水準を比較すると、男性は全業種の平均や看護師を大きく下回っているうえ、販売員(百貨店を除く)よりも低い水準となっていることがわかります。
女性の給与水準は販売員よりも小幅ながら上回っていますが、やはり全業種の平均や看護師と比べると低賃金であると言えます。
さらに注目してほしいのが、性別を問わず30代以降の給与水準がほぼ横ばいで、年齢に伴う昇給が見られないということ。30代以降の介護職員の勤続年数が他業種より短いことも影響していると思われますが、原因はそれだけではありません。
介護職の賃金は介護報酬からまかなわれているわけですが、この介護報酬は公定価格であり上限が決まっています。
要介護度に応じたサービス内容と介護報酬が決まっている以上、人件費として捻出できるお金は限られてしまうのです。
これが、キャリアを積んでも昇給が叶わない大きな理由です。
政府は今年の4月から介護職員の賃金を月1万2000円上げる方針で政策を進めていますが、金額的に不十分であるとの声も大きいことは、先日のニュース「介護現場の処遇改善を感じているスタッフは2割弱!?全国労働組合総連合の調査で判明」でも取り上げた通り。
また介護報酬の改定で報酬全体は引き下げられていることもあり、介護職の低賃金問題はそう簡単に解決しそうにありません。
給与は低い、離職率は高い…。介護事業所の中でも特に、小規模施設の運営は崖っぷち!?
介護職全体で見た場合には、他の業種と比べて極めて低賃金であることが顕著になりましたが、今度は介護職の職種による給与水準を比較してみましょう。

常勤の場合、ケアマネージャーは26万2900円と介護職内では水準が多少高くなっていますが、それでも全産業の平均と比べると低いものです。施設介護員とホームヘルパーは月給22万程度で同レベルの水準となっています。
しかし、施設介護員に比べてホームヘルパーは負担が大きいことが多く、給与面での不公平感を感じやすいと言えます。
ホームヘルパーは一人で各家庭を訪問して要介護者やその家族と向き合わなければならず、家庭によるホームヘルパーへの要求度の違いや容態が急変したときの対応など、プレッシャーが大きくのしかかります。
にもかかわらず、給与面での差が見られないのであれば、ホームヘルパーの人材不足が特に深刻化している現状もうなずけます。
さらに、訪問介護事業所(ホームヘルパー)の規模別の給与水準の比較を見てみましょう。

訪問介護事業所の延べ訪問回数別の介護職員(常勤換算)一人当たりの給与は、規模が大きな事業所ほど高くなる傾向が見てとれます。
この傾向は、通所介護(デイサービス)や介護老人福祉施設(特養)などの他のサービス事業所でも同様です。
これは規模の大きな事業所ほど経営の効率性がよく、利益率が高いため、人件費にまわせる費用も高くなっているものと推測されます。
事業所の規模による給与面での差は、離職率にも反映しています。

介護事業所の規模別に離職率を比較すると、規模の小さい事業所ほど離職率が高くなっています。
これは、小規模な事業所ほど給与水準が低いこと、交代要員がいないことで休暇の取得が難しいこと、人間関係のトラブルが発生したときに退職という選択肢を取らざるを得ない場合が多いことなどが原因に挙げられます。
この現状が変わらない限り、中小規模の事業所における人材不足はさらに深刻さを増すことになるでしょう。
施策に頼るだけでなく、事業所単位で生産性を上げる努力も大切に
介護職は敬遠されがちな職業であることは否めませんが、その一方でやりがいを感じて職を希望する人が一定数いることも確かです。
介護職員の新規採用を増やすためには、こうした人が経済的にも精神・身体的にも安心して働ける環境を整えることが不可欠です。
そのためには、給与水準の引き上げと労働環境の改善を進めることが重要になってきます。
4月の介護報酬の改定では職員の賃金や職場環境の改善を条件にした加算金が1.65%(約784億円、月1万2000円)上乗せされることになりましたが、給与水準を引き上げは一律にということではなく、質の高いプロを重点的に昇給対象に据えることが必要なのではないでしょうか。
現在も、職員をレベル認定する「キャリア段位制度」が導入されていますが、評価者が施設内部者であるなど客観性に乏しい面があります。
こういった制度をブラッシュアップしながら拡充を図り、やる気も能力もある介護職員の賃上げを実施しやすい環境整備が必要だと思われます。
一般的に規模の大きい介護事務所の経営効率は高く、給与水準も高いことから、小規模事務所の合併や経営統合などを推し進める施策も必要になってくるでしょう。
また、すぐには難しいかもしれませんが、利益を生むためには生産性を上げる必要があります。
1回の訪問で介護と関連する医療を同時にできる新たな仕組みを構築するなどの抜本的な改革が必要な時期にきているのかもしれません。
より専門性を身につけてサービス(医療行為を含む)を提供できる人材が活躍できるような体制が整わないかぎり、賃金アップはもちろん介護職全体の社会的地位の向上など図れないのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定