近年増加しているマダニ媒介性ウイルス感染症「SFTS」
SFTS感染者の大半が60~80代
国立感染症研究所は6月23日、ダニの一種であるマダニが媒介する「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の症例の概要を発表しました。
SFTSは2013年3月4日に、感染症法において全数把握対象疾患に指定されています。指定後の症例数は、前回公表時の4月29日までの数から10例増加し、合計で517例となりました。
近年、マダニに噛まれてSFTSを発症する人が増えています。国立感染症研究所によると、SFTSの感染者数は2013年当時は40名でしたが、2019年には102人まで増加したとされています。6年間で2倍以上も増えていることがわかります。
マダニは西日本を中心に全国各地に生息しているので、誰にとっても他人ことではありません。特に発症例が多いのが高齢者で、感染者の年齢の中央値は75歳。大半の感染者が60~80代だと言います。
例えば、2020年5月1日、佐賀県嬉野市に住む80代の女性がマダニに左足の内ももを噛まれ、SFTSを発症しています。
また、2013年以降、SFTSによる死亡例が全国で66件確認されていることから、「ダニに噛まれたくらい…」といった油断は禁物だと言えます。
SFTSは発熱や消化器症状をもたらす
SFTSとは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規のウイルスによって生じる感染症です。2011年に中国の研究者らによってその存在が発表されました。
SFTSウイルスに感染すると、6日から2週間の潜伏期間を経て、下記の症状が生じます。
SFTS の主な症状
- 発熱
- 食欲低下
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
- 頭痛
- 筋肉痛
- 失語
- 意識障害などの神経症状
- リンパ節腫脹
- 皮下出血
- 下血
致死率は6.3%~30%と報告されており、主にマダニよって媒介されますが、感染者の血液などに接触することで人から人へ感染した例もあります。
予防には、マダニに噛まれないことが重要です。マダニは日本でも草の茂った場所多く生息してます。草むらで作業する場合は、長ズボンと長袖を着用し、肌が露出するサンダルのような履物は避けるようにしましょう。

マダニは春から秋にかけて増加する
高齢になるほど重症化のリスクが高まると考えられている
SFTSは、大半の感染者が中高年以上であり、高齢になるほど死亡率が高くなる傾向があります。
山口県立総合医療センターの論文によると、2015年3月11日までにSFTSを発症した国内患者の内訳は、症例数110人のうち32人が60代、29人が70代、32人が80代となっています。患者のほとんどが60代以上であることがわかります。
さらに発症後の致死率をみると、60代は15.6%、70代は27.6%、80代は43.8%と、年齢が上がるごとに上昇していました。
また、厚生労働省によると、中国で行われた研究でもSFTSの患者の年齢層は30~80代で、全患者の75%が50歳以上です。
そして、日本におけるSFTSの患者の年齢層は5~90歳で、全患者の約9割が60歳以上、死亡者は50歳以上です。
このことからも、高齢者はSFTSにかかりやすく、重症化しやすいことがわかります。
高齢になるほど注意が必要だと言えます。

25℃前後の頃に活発になるマダニ
マダニは気温が25度前後の頃に活動が活発になると言われています。
落ち葉の間や草の先端などで、哺乳動物が通るのを待ち伏せしています。
そして、動物が近くを通ると飛び移り、皮膚に口器を埋め込ませて吸血するのです。一旦取りつくと数日、長い場合は10日以上離れません。
マダニはダニの中でも大きく、吸血前の全長は3~8mmほど。吸血後は体が膨らみ、元の100倍以上の体積に膨張することもあります。
患者の発生時期はマダニの活動期と一致しており、主に春から秋にかけて活動量が多いとのことです。
12月~2月の冬季にも発生することもありますが、いずれも九州地方の症例です。
また、全体的な傾向として西日本地域に集中して感染者が発生しており、特に愛媛県や宮崎県、高知県で多数の患者が報告されています。
マダニとSFTSウイルスの関係性については、まだ未解明の部分が多いのですが、ウイルスの生息には気候風土が関連していると言われています。
そのため、東日本地域では比較的感染のリスクは少なく、西日本地域にウイルスを持つマダニが多く生息していると言う専門家もいます。
SFTSには対症療法しかない。農作業や庭仕事中はマダニに要注意!
SFTSには有効なワクチンや治療法がない
SFTSはマダニ媒介性感染症ではありますが、ネコや犬といった伴侶動物から人に感染し、発症後、死亡するケースも報告されています。
さらに、中国や韓国では感染患者から医療従事者に感染するケースも報告されており、SFTSはマダニだけではなく、感染した動物や人からの感染も懸念されています。
人から人への感染が起こり得る以上、社会全体での感染を防ぐ努力が欠かせません。
特に、職業関連の感染予防は早急に取り組むべき課題です。
しかし、現時点ではSFTSに有効なワクチンや治療薬がないことから、医療的には症状を緩和するなどの対症療法のみが施されます。
日本では、SFTSが全数把握対象疾患に指定されてから約7年も経過しており、治療薬やワクチンの早期の開発が望まれます。
高齢者に発症や死亡例が多いというSFTSの特性を踏まえると、高齢化が進む日本において、治療薬やワクチンの必要性はさらに高まっていくでしょう。
長袖や長ズボンで肌を守り、明るい色の服でマダニを見つけやすくする
ワクチンや治療薬が開発されてない以上、現時点でSFTSから身を守る最も有効な方法は「マダニに噛まれないこと」です。
マダニはシカやイノシシ、野ウサギといった野生動物が出没する環境に多く生息しています。郊外地域だと民家の裏庭、畑、あぜ道などにもいると考えられ、農作業や庭仕事をする場合は注意が必要です。
マダニから身を守るには、腕や足、首の露出を減らすことが大切です。
首にはタオルを巻き、シャツの裾はズボンに入れ、農作業や草刈りの場合はズボンの裾を長靴に入れましょう。
また、服についたマダニを見つけやすくするために、明るい色の服を着るのが望ましいです。

家に戻ったら、上着や作業着は屋内に持ち込まないようにします。服にマダニがついていたら、ガムテープで取り除きます。さらに入浴時に、体のどこかにマダニが付いていないか確認しましょう。
今回は、マダニによるSFTSの感染に関する問題を考えました。
マダニに噛まれないようにすることが第一ですが、もし皮膚にマダニがついてるのを見つけたら、そのままの状態で受診し、適切な処置を受けましょう。
自分の手で取ろうとすると、マダニの口器が皮膚中に残り、化膿する危険性があります。
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2020年9月7日 制定