事業所の7割が介護職不足を実感!「派遣」など非正規活用が進む一方で細かいルールの理解は不十分
採用難しく、介護業界の人材不足はさらに加速
約70%の事業所が「介護職員」の不足を感じている
8月7日、公益財団法人介護労働安定センターは『令和元年度 介護労働実態調査』の結果を公表しました。
調査結果によると、「介護職員」の過不足感を事業所に尋ねる質問では、「大いに不足」が13.5%、「不足」が22.2%、「やや不足」が34.0%となり、不足感のある事業所が合計で69.7%に上ることが明らかになっています。これは過去10年で最悪の水準です。

政府は、介護職員として働く人材を確保すべく、処遇改善や人材育成などさまざまな施策を実施しています。しかし2010年以降、不足感の上昇は右肩上がりの状況で、その傾向を変えられずにいます。
一方、「訪問介護員」の不足感は81.2%で、2018年度の調査結果からほぼ横ばい。依然として8割以上の高い不足感が続いています。介護サービスに従事する従業員全体の不足感は全体で65.3%となり、前年の67.2%から約2ポイント低下したものの、大幅な改善には至っていません。
なお、『介護労働実態調査』は毎年実施されており、2019年度の調査は昨年10月に実施。全国9,126の介護事業所、介護労働従事者2万1,585人から得た回答を基に作成されています。
離職した分の人員を採用で補えない状況
「介護職員」と「訪問介護員」の2職種における離職率は、2018年度と2019年度のどちらの調査においても15.4%となり、横ばいの結果となっています。しかし、2職種の採用率をみると、2018年度では18.7%でしたが、2019年度では18.2%と0.5ポイント低下しました。
離職率が改善されない一方で採用率は低下しているわけですから、現場における人材の不足感が高まるのは当然です。これらのデータからも、介護現場における人材確保の難しい状況が伺えます。
さらに、介護事業所で働く労働者に対して、「労働条件などの悩み、不安、不満など」を尋ねたところ(複数回答)、最多の回答となったのが「人手が足りない」(55.7%)で、2番目に多いのが「仕事の割に賃金が低い」(39.8%)でした。
人手が足りなければ、現在働いている介護従事者への業務負担が否応なしに増えてしまいます。介護従事者にとって介護現場における人手不足は、賃金の低さよりも職場における不安、不満につながっているのが実情なのです。
介護の非正規雇用は増加傾向にある
派遣料金は事業収入の1割近くまで到達
厳しい人材不足状況が続く中、介護事業所では人手を補うために、派遣労働者の受け入れを行うケースが増えています。
『令和元年度 介護労働実態調査』によると、派遣労働者を受け入れている事業所の割合は14.3%。2018年度調査では13.4%でしたから1年間で0.9ポイント上昇。派遣労働者を受け入れている職種としては、「介護職員」が65.1%と最多です。以下「看護職員」(32.0%)、「その他」(11.6%)、「訪問介護員」(8.5%)と続いています。
介護事業の収入に占める派遣料金の割合は平均で8.6%。2018年度の調査結果から1.1ポイント上昇していることもわかっています。これをサービス別にみると、最も高いのは「訪問看護」の15.1%。以下、「訪問入浴介護」の12.5%、「通所介護」の10.5%、「地域密着型通所介護」の10.2%、「訪問介護」の10.1%と続いています。

また、「特別養護老人ホーム」は7.0%、介護付有料老人ホームなどの「特定施設」は8.3%、「介護老人保健施設」は7.7%となっており、全体として施設系よりも在宅系の方が、派遣料金の割合が高くなっています。
訪問介護では半数以上が非正規雇用
人手不足が続く介護現場では、非正規職員の働く割合も増えています。『令和元年度 介護労働実態調査』によると、非正規職員として勤務している介護サービス従事者は全体の43.4%。介護事業所で働く職員の4割以上が非正規雇用となっているわけです。
サービス別にみると、人材の不足感が特に大きい「訪問介護」では、非正規職員の割合は54.9%と半数以上に達しています。職種別でも、「訪問介護員」では非正規職員の割合が全体の70%に及んでおり、ほかの職種と比べても突出して多いのが現状です。
さらに、訪問介護を含む訪問系の事業所では、非正規職員に対して「賞与制度もなく、支給していない」というケースが全体の18.1%と約2割を占めています。非正規職員に「定期的に賞与を支給している」という事業所は全体の29.3%、約3割に過ぎません。
施設系(入所型)の場合だと、非正規職員に対して「定期的に賞与を支給している」という割合は37.8%、「賞与制度もなく、支給していない」割合は10.6%となっています。これも決して望ましい状況とは言えませんが、全体としてみると訪問系より就労環境は良好です。
こうしたデータの比較からも、訪問系の非正規職員が条件面で特に厳しい状況にあることがわかります。
派遣利用は増加…一方で制度の理解にはまだ課題が
「無期転換ルール」は意外と知られていない
現行制度(労働契約法第18条)では、派遣など有期労働契約で通算5年以上働いていた場合、期間の定めのない無期雇用へと転換されることが規定されています。しかし、このことが介護分野ではあまり周知されていないのが現状です。
『令和元年度 介護労働実態調査』によると、介護事業所に対して有期契約労働者の無期雇用転換について知っているかどうかを尋ねたところ、「知っている」との回答は47.3%と半数以下にとどまっています。「知っているが、内容はよくわからない」、あるいは「知らない」との回答は50.7%に上り、雇用する側がそもそも無期雇用転換のことを知らないというケースが多いのです。

提供サービスごとにみると、「知っている」との回答割合は、「施設系(入所型)」で64.3%、「施設系(通所型)」で44.8%、「訪問系」で37.3%でした。「訪問系」が「知っている」との回答割合が最も低いという結果です。
先ほど見た通り、訪問介護などを含む「訪問系」では、ほかのサービスに比べて有期契約労働者(非正規雇用)が多く働いています。にもかかわらず、無期雇用転換に対する理解が最も低いのです。国・行政は、今後さらに制度の周知を図る必要があります。
外国籍労働者の活用にはまだまだ消極的
一方で、近年、介護人材の不足を補う存在として外国籍労働者に注目が集まっています。しかし実態として、受け入れはどの程度進んでいるのでしょうか。
『令和元年度 介護労働実態調査』によると、外国籍労働者を「受け入れている」と回答した介護事業所は、全体で6.6%。「施設計(入所型)」では14.7%、「施設系(通所型)」では3.7%、人材不足が特に著しい「訪問系」ではわずか2.9%のみです。
外国籍労働者の受け入れ割合が低い要因としては、「利用者などとの意思疎通において不安がある」との回答が全体で63.0%(訪問系では63.8%)を占め最多となっています。もし今後、本格的に外国籍労働者を介護分野で活用するなら、政府としては、介護現場における語学の面での不安を払拭できるような施策を強化しないといけません。
人手不足を補う存在として期待もされている外国籍労働者ですが、広く活用されるにはまだまだ課題が山積みです。
今回は介護人材の不足問題について考えてきました。日本では高齢化が今後ますます進み、介護人材へのニーズは将来的にさらに高まると予想されます。
高齢者を支える介護職員の確保と不足する分の補填は、日本社会の大きな課題です。
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2020年9月7日 制定