増加する検挙数に占める高齢者の割合、主な犯罪は「万引き」
高齢者の犯罪検挙の割合が増加
警察庁は7月21日、2020年版警察白書を公表しました。
それによると、2019年における全刑法犯の認知件数は約74万8,000件で戦後最少を更新する一方で、高齢者が検挙される割合は前年からさらに増加。
検挙人員数全体の22%、およそ5分の1が高齢者です。
高齢化の進展によって高齢者人口が増える中、高齢者による犯罪の割合が増え続けています。
刑法犯として検挙される高齢者の割合は、1989年当時では全体の2.1%に過ぎませんでした。高齢者が罪を犯すというケースは極めてまれだったわけです。
ところが1990年代以降、高齢者が検挙される割合は次第に増え続け、2019年時点では全体の22%を占めるに至りました。
実は高齢者の検挙人員数自体は、2010年代以降、わずかながら減り続けてはいます。ところが、若い世代の検挙人員数は大幅に減少し続けており、高齢者の減少幅が若い世代よりもかなり少ないのです。
そのため、検挙人員数全体に占める高齢者の割合が年々増え続けるという状況になっています。法を犯す若い世代はどんどん減っているのに、高齢者世代はなかなか減らないというのが実情であるわけです。
では、高齢者はどのような犯罪に手を染めているのでしょうか。
高齢者の犯罪の半数が万引き
警察庁のデータによると、高齢者が最も多く検挙されている犯罪は「万引き」です。
2019年度において万引きで検挙された高齢者の数は2万2,267人で、高齢者の総検挙者数である4万2,463人の半数以上を占めています。

さらに「万引き」のみの検挙数でみても、全体の40.2%が高齢者です。
ほかの犯罪と比較すると、高齢者の検挙割合は「暴行」では全体の16.1%、「殺人」では18.3%、「脅迫」では18.4%、「占有離脱物横領(誰かの忘れ物を、勝手に自分のものにする行為など)」では17.9%。いずれも1割台となっています。
万引きというと、10代の青少年が犯しやすい犯罪、というイメージを持つ方もいるかもしれません。ところが実態としては、高齢者による犯罪が全体の約4割も占めているわけです。
年齢を重ね、分別があるはずの高齢者が、なぜこのような行為をしてしまうのでしょうか。さらに高齢者は、その再犯率も高い傾向にあることがわかっています。
万引きを繰り返してしまう高齢者
高齢者は再犯率が高い
もともと万引きを含む「窃盗」は、再犯率が高くなっています。
法務省の「再犯防止推進白書2019」によると、「障害・暴行」の罪により刑務所に入所し、出所後2年以内で再入所した人の割合は15.4%でした。
一方、「窃盗」の場合、2年以内で刑務所に再入所する人の割合は22.9%。「窃盗」は、「障害・暴行」より7ポイント以上も再入所率が高いのです(いずれも2017年のデータ)。
対象を高齢者に絞ると、刑務所に再入所する割合はさらに高い傾向にあります。
同資料によると、2017年において高齢者が出所後に2年以内に再入所した割合は22.3%。全世代における同割合は16.9%ですから、それよりも5ポイント以上も高くなっています。
高齢者はほかの世代に比べて、再び罪を犯して刑務所に戻る人が多いわけです。
窃盗における再犯率の高さ、そして2割強の高齢者が出所後2年以内に刑務所に戻っているため、窃盗(万引き)によって捕まり刑務所に入った高齢者が、出所後に再び窃盗で捕まるというケースは相当数あると考えられます。
高齢者の万引きの動機は「生活困窮」が3割
万引きを行う最大の原因とされているのが、経済的な問題です。
東京都の万引きに関する有識者研究会が作成した資料『高齢者による万引きに関する報告書』によると、65歳以上で万引きを犯した人の約8割が無職で、万引きをした動機・原因として最多だったのが「生活困窮」(33.3%)でした。

さらに法務省の調査によると、高齢者の万引き犯が盗んだのは約7割が食料品で、被害額は「1,000円未満」が4割、「3,000円未満」が7割。男性の過半数、女性の約8割が犯行動機を「節約のため」と答えていました。
高級品・贅沢品などではなく、経済的に苦しいがゆえに食品類を万引きしているのが実態なのです。
また、高齢者が万引きをする原因としては「社会的孤立」も考えられます。万引きに関する有識者研究会の報告書によれば、65歳以上の万引き被疑者のうち、「独居」が56.4%と過半数を占め、「交友関係を持つ人がいない」が46.5%を占めていました。
同報告書では、日常生活の中で社会的な関係性を持てないことによる孤独や不安、ストレスの増加などが引き金になって、万引きのような問題行動につながるのではないかと指摘。社会からの孤立を、高齢者による万引きの主要因のひとつとして位置づけています。
高齢化で万引きがさらに増加する可能性も
認知機能の低下も原因のひとつ
高齢者による万引きの原因としてほかにも指摘されているのが、認知機能の低下です。
万引きに関する有識者研究会の報告書によると、万引きの被疑者となった高齢者に「周りの人から物忘れがあると言われるか」と尋ねたところ、「はい」と回答した人は35.2%に上っていました。
65歳未満の被疑者に同じ質問をしたところ、「はい」と回答した人は23.9%。被疑者ではない一般の高齢者の場合だと、「はい」との回答は11.2%にとどまっていました。
これらの結果を踏まえると、万引きをする高齢者の中には、認知機能の低下が犯行の原因となっていたケースがあるとも考えられます。
認知症を発症する高齢者数は、将来的にさらに増える見込みです。
九州大学の「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」によると、認知症の高齢者数は今後も全国で増え続け、2025年には推計で675万人(人口の19.0%)、2030年には744万人(20.8%)、2060年には850万人(25.3%)に上ると推計されています。

万引きに認知機能の低下が影響しているとすると、認知症の発症者数がさらに増え、万引きをする高齢者がさらに増加することが考えられるでしょう。
マイバッグによる万引き増加も懸念されている
買い物時に使用する「マイバック」の普及が、万引き増加の懸念材料として指摘されています。
今年7月から、レジ袋の提供が有料化されました。それに伴い、買い物時にマイバックを持参することがスタンダードになりつつあります。
しかし最近、このマイバックを利用した万引きが増えているのです。
レジ袋を使用する場合、「レジ袋に入っている商品は清算済み」と判断しやすいですが、マイバックはわかりにくいところがあります。
例えば、買い物中に万引きした商品をマイバックに入れて、あたかも清算済みの商品であるかのように店の外に持ち出すというケースも起こり得るわけです。
認知症のある高齢者の場合は、本人に犯罪の意思がなくても、マイバックに商品を入れたまま清算を忘れ、退店してしまう恐れがあります。
こうした中、自治体の中には、マイバック利用時のルールをつくる動きも出てきました。福島県では「買い物中は折りたたむ」「レジが済んでから使う」などマイバッグのルールを周知し、ポスターも製作して啓発に取り組んでいます。
高齢化が進む中、認知機能の低下した方への対策という視点も入れたうえで、このような自治体によるマイバックのルールづくりの重要性は増していくでしょう。また、各店舗で万引き防止策を考えるのはもちろんですが、行政側にも適切な対応をお願いしたいところです。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 14件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定