厚生労働省がケアプランのデータ連携に予算要求。AIによるプラン自動作成も実用段階に
ケアプラン共有でケアマネの仕事が効率化される
厚労省がケアプランデータ連携システム構築の予算を要求
2020年9月25日、厚生労働省は介護業界の負担軽減のため、次の項目を「緊要な経費」として2021年度予算で要求する方針を打ち出しました。
- 介護サービス事業所と居宅介護支援事業所との間でのケアプラン共有システムの構築
- 介護サービス情報公表システムの改修
現行の制度では、紙でのやりとりやFAXが多く、無駄な作業時間が発生していることが以前より指摘されてきました。オンラインでのデータ連携によってケアプランの共有が実現できれば、介護現場での書類削減や書類作成の効率化が期待できます。
また、ケアプランデータ連携システムでは、居宅介護支援事業所でのケアプラン交付、介護サービス事業者側の実績報告など、双方のデータのやり取りが円滑に進むことが見込まれます。
ケアプランとは介護サービスの計画書
「ケアプラン」は、要介護認定を受けた人の生活状況や介護の目的、要望などを基に、利用する介護サービスやその利用回数などを定めた計画書のことです。介護サービスを利用する際には、必要となる書類の1つです。
ケアプランは利用者本人が自ら作成することもできますが、担当のケアマネージャーが代わって行うのが一般的です。
2018年には、財務省が提案した「ケアプランの有料化」が検討された経緯があります。ケアプランを有料化すればケアマネの業務内容の評価機能が高まるうえ、介護給付が抑制できます。そのため社会保障費の削減につながると考えられていました。
しかし、大阪社会保障推進協議会の調査によると、ケアプラン作成業務を担当するケアマネの約90%が有料化に反対。

厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会においても、「セルフプランが増え自立支援につながりにくくなる」「利用控えが生じる」という意見があり、ケアプランの有料化は見送りとなっています。
AIの活用は実用化を目指す段階に
AIがケアプランの作成を助けてくれる
近年、「AI(人工知能)」が多方面で活用されています。人が直接作業をすることなく、さまざまな仕事をこなす能力を持つAIは、介護の分野でも実用化が進んでいます。
ケアプラン作成においても、2018年にAIを使用したケアプラン作成支援サービス「MAIA」が登場。利用者の情報を入力するだけで、自動的におすすめのケアプランを提案してくれる機能を備えています。
MAIAが提案するプランは、「日常生活動作の改善度合い」などの容態予測もできます。しかし、ケアプラン作成時にケアマネが行うプロセスをすべてAIがこなせるわけではなく、利用者の要望や目的を把握したうえでの判断までは不可能です。
つまり、ケアプラン作成でのAI活用は、ケアマネにかかる負担の軽減に有用ではありますが、最終的にはケアマネの判断が必要不可欠です。
AIの実証実験はすでに行われている
前述のMAIAは、あくまでもケアプラン作成補助に便利なAIでした。次のように、さらに一歩踏み込んでケアプランにAIを活用しようという自治体の動きもあります。
宮崎県都城市
パナソニックが開発したケアプラン作成機能とIoTモニタリング機能を持つソフトウェアを使用し、4名の在宅⾼齢者を対象に、在宅⾼齢者のケアマネジメント」の質向上を⽬的とした「デジタル・ケアマネジメント」による効果検証を3ヵ⽉間実施しました。
その結果、4名すべてに「状態が改善傾向」という良好な評価が出ました。つまり、適切なケアプランとIoT技術を活用したモニタリングが、高齢者本人とその家族のQOL向上に効果的であると確認されたのです。
福岡県福岡市
「要支援」の利用者のみを対象にAIを使ったケアプラン作成のシステム構築に乗り出しています。このシステムは、過去のデータや行政データを学習させたAIに症状改善や重症防止につながる事例を解析させ、利用者の年齢や健康状態に応じてサービス候補を提示するというものです。
要支援の段階で最適なプランを作成して「要介護」への移行を予防につなげるほか、ケアマネの業務効率化と負担軽減を図る狙いもあります。
このように一部の自治体では、AIを活用したケアプラン作成の実証実験がすでに行われているのです。
AIで広がるケアマネの可能性と今後の課題
要介護認定にも活用できる可能性がある
介護サービスを利用するには「要介護認定」が必要ですが、この要介護認定もケアマネの仕事のひとつです。利用者の状態からどのような介護が必要なのかを認定するため、要介護認定には時間と手間がかかっていました。
そこで、福島県郡山市ではNTTデータ東北と共同で、2019年12月にAIの言語処理能力を導入した要介護認定事務の実証実験を実施。作業効率化と認定精度を高めることを目的に、AIに要介護認定で必要な認定調査票の確認作業を行わせました。
その結果、学習データ追加などによりAIの精度向上が見込めました。さらに、最大70%の人的コスト削減が期待できるという一定の効果が確認できました。
NTTデータ東北では、今年度中にAIを導入した認定調査票確認作業サービスを全国に提供予定。AIを導入すれば、1週間~10日ほどの時間短縮が望めるということです。
一方でケアマネジメント自体には公平性の課題も
効率化や負担軽減などが求められる一方で、ケアマネジメントの公正中立性の確保にも懸念点があります。
医療経済研究機構の調査によると、過去1年間に「法人・上司からの圧力により、自法人のサービス利用を求められたことがあるか」という質問に対して「よくある」または「ときどきある」と回答した人は25%に上りました。

「自立支援が必ずしも目的とは言えない、利用者や家族から求められるままのサービスを調整した」と回答した人も「よくある」「ときどきある」が23.5%を占めていました。
「周囲でそのようなケースを見たり聞いたりした人」の数を含めると、半数以上が「ある」と回答しています。利用者に最適とは言えないケアプランを作成しているケースは、決して少なくないのです。
介護の現場やケアマネの負担が増える状況下で、作成されるケアプランの内容までにはなかなか踏み込めていないのが国の実情ではないでしょうか。介護サービスの根幹といえるケアマネジメントそのものについても、今後考えていく必要がありそうです。
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2020年9月7日 制定