高齢者は転倒すると1割が骨折する!?大腿骨骨折から寝たきり…も他人事じゃない。冬場に多い事故を徹底検証!
超高齢社会に突入し、高齢者が事故に遭うケースが増えてきました。
これまでこのコラムでは、高齢者の自動車事故や鉄道事故などを取り上げてきましたが、これはつまり、年を取るにつれて判断機能が低下し、若いときなら避けられたような何でもないことでも事故になってしまうということの裏返しでもあります。
実は事故が起きるのは外出時だけではありません。家のなかでもケガをしてしまうことが多く、場合によっては死亡事故につながることも。
これが、いわゆる「家庭内事故」といわれるもの。本来、安全であるはずの自宅が、ときとして事故現場になってしまうこともあるのです。
そこで今回の特集では、家の中でも気をつけたい事故の詳細について、各種データから考察していきたいと思います。
東京都内だけでも年間約5万人が救急搬送。「入院が必要」とされる中等症以上の高齢者も多数!
まず、高齢者の事故の現状について見ていきましょう。高齢者の救急搬送人員は年々増加しており、全体に占める高齢者の割合も高くなっています。

東京消防庁によると、救急搬送された高齢者の人数は2006年から2010年までの5年間で23万5,783人となっています。年度により差はあるものの、年間約5万人が救急搬送されている計算です。

救急搬送直後の初診時の程度を見ると、約4割は中等症(入院の必要があるもの)以上。高齢になるほどその割合は高まり、65歳~69歳では29%に対し、95歳~99歳では56%とおよそ倍になっています。
住宅での事故が約6割。ケガの内容の約8割は「ころぶ」
次に事故が発生した場所について見てみましょう。最も多いのは、「住宅等居住施設」で約6割。新聞やテレビでは屋外での事故が取り上げられる傾向があるため、外出時の事故が多いように思われますが、実はそうではないのです。
発生場所を詳細に見ていくと、居室・寝室が約10万件とダントツに多くなっています。次に階段や廊下・通路、庭等が続いています。住宅内で事故に関連する製品上位は、家具や階段、床・畳となっています。
ケガの内容を見ると、「ころぶ」が約8割。床や畳、家具などにつまずいて、転倒するケースが多い…と考えると、室内のバリアフリー化がいかに大切かということがわかりますね。
ころぶ(103531件) | |
落ちる(14461件) | |
ものが詰まる・ものが入る(3110件) | |
ぶつかる(2483件) | |
切る・刺さる(1704件) | |
その他(3080件) |
転倒した高齢者のケガの状況を見ると、3人に2人は何らかのケガを負っています(出典:平成22年度高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査)。最も多いのが「打撲」で32.3%、次に「すり傷・切り傷」で25.6%となっています。
骨折により要介護状態になる高齢者は約1割。骨折をきっかけに寝たきりになることも
打撲やすり傷程度であれば時間の経過とともに治癒するため、あまり気にする必要はないかもしれません。しかし、先の調査によると、自宅内で転倒した高齢者のうち、約1割は骨折をしているのです(「下半身の骨を折った」と「上半身の骨を折った」の合計)。
骨折をすると、日常生活に大きな支障が出るのは言わずもがな。骨折をきっかけにして、要介護状態になってしまうこともありますし、特に下半身の骨折は寝たきり生活の原因になるため、注意が必要です。
実際、「要介護」と認定される原因の約1割は「骨折・転倒」。健康管理といえば、カロリーや塩分管理などの食生活を中心に考えがちですが、身体機能の維持による転倒防止も大変重要だと言えます。
脳血管疾患(23.3%) | |
認知症(14.0%) | |
高齢による衰弱(13.6%) | |
関節疾患(12.2%) | |
骨折・転倒(9.3%) | |
心疾患(心臓病)(4.3%) | |
その他(23.3%) |
大腿骨頸部骨折者数は年間約15万人も!骨粗しょう症にかかりやすい女性に急増!
高齢者の骨折で深刻化しやすいのは「大腿骨頸部骨折」。大腿骨頸部とは、股関節と膝関節との間の太い骨のうち脚に近い部分、つまり太ももの付け根のこと。大腿骨頸部骨折者数は年々増加し、2007年には14万8,100人も記録しています。

グラフを見ると女性で急増しているのがよくわかりますが、女性の方が骨粗しょう症にかかりやすいということが大きな要因と考えられます。
骨粗しょう症は、骨強度が低下し、骨折しやすくなる骨の病気のこと。この病気は、閉経後の女性が罹患する場合が多く、現在患者数は約1100万人(推計値)。国民の約10人に1人がかかっていると言われています。
大腿骨頸部骨折は、自宅での軽い転倒や階段・段差の踏み外しでも簡単に起きてしまうのです。
治療方法は複数ありますが、手術を要するケースがほとんど。しかし、高齢のために手術自体が難しいことも多く、たとえ手術が成功したとしても寝たきり生活を余儀なくされることもあります。
また大腿骨頸部骨折が恐ろしいのは、高齢者が手術を受けた後1年以内の死亡率が約10%と高確率な点。理由はさまざまですが、骨折時の心理的なショックに伴う心肺機能の低下(肺炎)なども影響していると言われています。
自宅での事故原因にはどんなものがある?
これまで見てきたように、たとえ健康診断などで体内は健康だと診断されたとしても、自宅内での事故により要介護状態になってしまうこともあり得るのです。
独立行政法人国民生活センターによる家庭内での日常生活に合わせた「滑り(スリップ転倒)」の実験によると、以下のようなケースが危険だとされています。
- 畳の上に放置された新聞紙の上を歩いた場合
- フローリングの床でワックスや油がついている場合。また、何もついていなくても、フローリングの床でストッキングや木綿のソックス、布底のスリッパを履いて歩いた場合
- カーペットの上に、ナイロン袋が放置されている場合
- ビニタイルの表面に油が付着している場合
ほかに気をつけたいのは、和室と洋室のちょっとした段差。たとえ2~3センチ程度の段差であっても重大事故につながることもあるのです。
危ないのはおもちだけじゃない!?ごはんをはじめ窒息事故にもつながる食品20種をご紹介
転倒以外の事故も見ておきましょう。東京消防庁によると、最も重症度が高いのは、「おぼれ」や「ものがつまる・ものが入る」。これから本格的な冬を迎え、急増する事故です。

「おぼれ」はもちろん、入浴中に起こるもの。寒い日が続くと、あたたかなお湯に浸かり、リラックスしたいと思う高齢者の方は多いでしょう。そんな一番のリラックスタイムで心がけたいのは、浴室や脱衣所、ほかの部屋との温度差をできるだけ少なくすることです。
寒い部屋から浴室に移動すると、急激な温度変化にさらされます。
そうなると、心血管系に大きな負担がかかり、血管が収縮、血圧が急上昇、脳卒中や心筋梗塞の危険性が高まってしまうのです。
高齢者が入浴する時には、家族による見守りを徹底し、長湯・高温浴は避けたほうがよさそうです。
そしてもうひとつ、「ものがつまる」という事故。年末年始には、餅を食べる機会が増えるのが日本人というものですが、毎年、餅でのどを詰まらせ、窒息死する高齢者が後を絶ちません。

実際、東京消防庁のデータを見ると、「ご飯」と「餅」が「ものがつまる・ものが入る」の主要原因になっています。
一般的に高齢者は、噛む力が弱かったり、唾液の分泌量が少なかったりします。
食べ物による窒息死を防ぐには、食べ物を小さく切って、水分をとりながら、しっかり噛むことを心がけたいですね。
高齢者の事故防止には本人の努力だけでなく、サポートする周囲の理解が重要に

高齢者の自宅内事故の防止のためにすべきことは何でしょうか。まず思い浮かぶのは、「住まいを転倒しにくい環境」にすることです。
骨折の原因は、主に「ころぶ」です。独立行政法人国民生活センターは、住環境の整備を奨励しています。以下、室内の整備ポイントを挙げるので、ぜひ参考にしてください。
- 階段に手すりをつける
- 浴室は入り口から浴槽まで手すりをつける。すのこやマットなどの敷物は滑り止めのついたものを使う
- 住居内の照明は明るくし、影ができにくいようにする
- ベッドは、幅はゆとりあるもの、高さは腰掛けて足裏が床につくくらいのものを選ぶ
- 床は磨きすぎない、濡らさない
いくら住環境を整備しても当の高齢者が注意しなければ意味がありません。そこで同センターは、高齢者自身にも注意を呼びかけています。
- 衣類は裾を踏まない長さにする
- スリッパ、サンダルは履かないようにする
- 物をまたいだり、不安定な物につかまったりしない
- 重いものを持たない
- 骨粗しょう症予防のため、適度な運動や日光浴、栄養バランスの取れた食事を心がける
身体機能が衰えた高齢者は、ちょっとしたことで要介護状態になってしまう可能性があります。高齢者自身が事故に備え、生活スタイルを見直すことはもちろん重要です。
とはいえ、それだけでは万全!と言い切れないのも難しいところ。高齢者の生活をサポートする人(介護士だけでなく、家族も含めて)は、高齢者の行動を把握し、事前に予防措置を取れるよう、事故防止に対する知識を蓄えていかなければいけませんね。
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2020年9月7日 制定