「介護対談」第17回(前編)石本淳也さん「介護業界は課題だらけ。あらゆることが順調ではないというのが現状」

「介護対談」第17回(前編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと日本介護福祉士会会長・石本淳也さんの対談石本淳也
熊本県八代市出身。西日本短期大学卒業後、特別養護老人ホームに入職。介護職、相談員、介護支援専門員等として勤務する。その後、医療法人財団に入職し、総合相談支援室室長、通所リハビリテーションセンター長に就任。一般社団法人熊本県介護福祉士会会長を経て、2016年6月より歴代最年少で日本介護福祉士会会長に就任。「介護福祉士の未来は介護福祉士自身が切り開く」をモットーに、全国各地での講演に奔走する日々を送る。介護福祉士。社会福祉士。介護支援専門員。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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介護業界は課題だらけ。あらゆることが順調ではないというのが現状(石本)

中村 虎ノ門にある日本介護福祉士会に来ています。石本さんは公益社団法人・日本介護福祉士会会長です。8年間、熊本県支部の会長を勤められて今年5月、会長に就任されて歴代の「最年少会長」として話題です。1971年生まれ、僕と同じ学年ですね。

中村中村
石本石本

石本 同級生ですか。この数年で介護業界のあらゆるところで、団塊ジュニア世代で活躍する人が出てきています。介護業界は全体的にどんどん若返りが進んでいますね。

中村 介護福祉士会は高齢者に近い年配が上層部に揃い、とにかく堅い団体というイメージがありました。今、お会いしたばかりですが、石本さんのようなイケメンで柔軟そうな方が会長とは。驚きです。

中村中村
石本石本

石本 堅いイメージは、おっしゃる通りかもしれません。ずっと大ベテランの方々が中心でやってきた団体なので、それはそう感じるでしょう。会長職は選挙で選ばれるのですが、まず僕が代表選に出馬するまで押し上げてくれた仲間たちの中で、思い切って組織が変わっていかなければ!という意識があったと思う。

中村 50~60代と、30~40代の人間の発想は普通に全然違う。リーダーが若返れば、大きな変革は期待できますね。前例のない44歳の石本さんを立候補まで押し上げ、投票した方々は英断ですね。

中村中村
石本石本

石本 介護や福祉のあり方が、介護保険制度の時代になって大きく変わった。実際に介護業界はお金がまわらない、人がまわらない現状がある。人とモノが不足する中で、介護の担い手は全然いない。優先順位的としてはまず、業界組織の内側から変えます。今までと同じことを継続したところで、介護業界が抱えるたくさんの課題をクリアできない。

中村 介護業界は課題まみれですが、石本さん的には人手不足と、なにが課題と思われているのでしょうか。

中村中村
石本石本

石本 人手不足、それと評価の問題。専門職といえども、専門性が世間になかなか打ちだせていない。まあ、言いだすとキリがないですよ。課題と問題だらけ。あらゆることが順調ではないと思っています。

介護福祉士会と言っても、組織率が他の職能団体と比べると圧倒的に低い(石本)

中村 基本的なことを伺いたいのですが、そもそも日本介護福祉士会とはどういう組織なのでしょうか。組織の名称だけは知っている、という人が多いと思います。

中村中村
石本石本

石本 国家資格である介護福祉士の職能団体ですよ。介護福祉士の資格を持つ人が任意で所属して、専門職としての自己研鑽とか、介護福祉士の職域を守るための政策提言をしたり。介護福祉士が明るく期待感を持って働くことができる業界を作っていこう、という団体ですね。

中村 僕も数年間介護施設を運営していたので、介護福祉士の人たちは何十人も知っていますが、日本介護福祉士会の会員という人には会ったことがありません。「入会しようかな」みたいな話も聞いたことがない。

中村中村
石本石本

石本 残念ながら創設して20年を超えましたけど、現在介護福祉士は全国に約150万人いるのですが、そのうち日本介護福祉士会の会員は4万6000人程度です。組織率が他の職能団体と比べると圧倒的に低い現状があります。

中村 組織率は3パーセント強ですか。圧倒的な低さですね。どうしてそのような状況なのでしょうか。

中村中村
石本石本

石本 大きな課題です。看護師の職能団体である日本看護協会は50パーセントを超えている。現段階では介護福祉士が日本介護福祉士会にメリットを感じないから、その組織率なのでしょう。日本看護協会は政治家をたくさん輩出しているし、力がある。最終的には政策の中にどれだけ自分たちの声を反映できるかということなので、実績が違う。

中村 介護業界は政治に弱いイメージがある。影響力ある政策提言ができる人が見当たらないし、介護報酬減などやられっぱなしというか。2年くらい前から保育の待機児童問題と、介護の問題が時期的に競合していましたが、保育の大きな声に惨敗でした。上層部に力がないですね。

中村中村
石本石本

石本 そうなんです。社会保障は医療系の力でがっちりグリップされているし、介護は力が弱い。理由を考えると介護福祉士に対しても、政策提言の場でも発信の打ちだし方が上手くないと思います。現場だけでなく、それぞれのリーダーシップに問題があるのかもしれません。

中村 そうなると、日本介護福祉士会の最年少会長に選出された石本さんの役割と期待感は、相当に大きい。介護業界、未来の高齢社会を左右する立場にいるというか。

中村中村
石本石本

石本 本当に覚悟を持ってやらなければならないです。やはり今までは予定調和というか。ハレーションが起きず、可もなく不可もなくみたいな。最終的な合意すべきところで「はい」って返事しておけば、自分たちは痛い目にあわないし、責任を問われることはない。事なかれ主義であったことは否定できません。

これまで日本介護福祉士会がやってきたことが時代に合っているのか?その検証をしなければならない(石本)

中村 組織の状況がだんだんとわかってきました。四半世紀の運営で組織が硬直化、官僚化しているわけですね。石本さんは選挙で会長に選出されています。どのような選挙があって選ばれたのでしょうか。

中村中村
石本石本

石本 前会長は10年政権でした。まず全国の理事選挙があって選挙権を持つ代議員が各都道府県に割り当てられ、14名の全国理事を選出する。それが一次選挙。そして、選ばれた全国理事から代表理事を決める選挙をする。この選挙権は14名の全国理事と、外部理事で合わせて25票で選挙して代表を選出します。

中村 選挙権を持つ介護福祉士会の上層部は代表を若返らせ、硬直化する現状を変えたいという声が大きかったことになりますね。60代から40代にバトンが渡された、というだけで本当に大きい。英断です。

中村中村
石本石本

石本 詳しくは申し上げにくいのですが、内側には種々の課題があります。まずは体質改善をしなければなりません。今までの歴史や先輩方を全否定するつもりはないけど、これまでやってきたことが今の時代にあっているか、という検証をしなければならない。

中村 日本介護福祉士会は研修など、いろいろ開催されていますが、介護業界の全体の結果を見ていると、ちょっと厳しい。なにも好転していない。

中村中村
石本石本

石本 私は熊本の介護福祉士会会長を8年間勤めました。37歳のときに50代の前会長から引き継ぎました。ポンと丸投げされたので、30代~40代世代のアイディアで組織を運営した。結果としては熊本の会員は2倍に増えました。数字として結果が出たと自負しています。

中村 熊本時代はどのような活動をして、会員を倍増させたのでしょうか。

中村中村
石本石本

石本 ただ研修とか、声を国に届けるための署名とか、それでは面白くないじゃないですか。顔の見える団体運営を心掛けた。熊本には阿蘇もあれば、天草もある。そういう地方にも時間を見つけては足を運び、情報共有したり、飲み会したり。関係性を作りました。流行りのカフェとまで言いませんけど、ざっくばらんに話せる場所というのは作ってきましたね。

都道府県の上層部はまだまだ年配の方が少なくない。響いて欲しい世代への発信ができていないのが問題(石本)

中村 日本介護福祉士会の理想的な役割を簡単にいえば、150万人の介護福祉士全員が会員になって自治体や国の選挙に影響を及ぼすような存在になればいいと。力を持てればいいってことですね。

中村中村
石本石本

石本 道のりは長いですが、最終的にはそこまで行ければ。いろんなところに行くと、お前のところは組織率が悪いって散々言われますよ。どこに行ってもボロクソです(笑)3~4パーセントの組織率しかない職能団体はありえないよって。

中村 では、会員はどうしたら増えるのでしょうか。全国規模なので熊本のようにすべてに足を運ぶわけにはいきませんよね。

中村中村
石本石本

石本 悩むところです。中央である東京のリーダーシップは、末端の会員さんではなく、都道府県の執行部のみなさんを引っ張っていくこととでしょう。足並み揃えて、各都道府県が動くことが大事。まずは各都道府県の介護福祉士会、支部の皆さん方と意識を変えていくってことを、今やっていますね。

中村 意識を変えるというのは、組織の脱硬直化ってことですよね。繰り返しになりますが、なにからなにに変えようとしているのでしょうか。

中村中村
石本石本

石本 例えば、世代批判するつもりはないけれども、おっしゃったように、都道府県の上層部にもまだまだ年配の方が少なくありません。打って響いてほしい若い世代に対する発信力やアイデアに欠けると思います。介護福祉士会の研修の案内を見てもらえばわかるけど、とにかく堅い。

中村 現場の介護福祉士は一般的に忙しい。普通、堅くてつまらない研修に、休みの日に行きたくないですよね。

中村中村
石本石本

石本 やっぱり、ワクワク感がない。そのワクワク感を作っていきたい。働く介護職、介護福祉士自身がワクワクしながら仕事ができるような。また、それを発信できるような団体にしたいという理想はあります。

中村 今は介護カフェとか、すごい人が集まっているじゃないですか。職場だけでは満足できないわけですよね。集客している介護カフェはワクワク感というか、楽しそうなイメージはある。

中村中村
石本石本

石本 二十数年、介護の仕事をしています。やっぱり閉鎖的だし、職場の中だけでの人付き合いで止まっちゃう傾向はある。本来ならば我々は職場の垣根を超え、介護福祉士同士が繋がれるネットワークを提供できる団体じゃないといけない。でも、まだそこは充分に機能していません。現場の方々から求められていることを提供するのは大切でしょうね。

中村 面白そうという発信ができていないので、人が集まらないわけですね。介護カフェを見ていると、介護現場にはやっぱり今のままでは面白くない、職場だけでは完結できないという人が多いことがわかります。堅くてつまらなさそうなのは、確かに時代に合っていません。

中村中村
石本石本

石本 残念ながらその通りで、まずは堅さ、つまらなさを払拭するという発信が大切でしょう。介護カフェは、本来ならば介護福祉士会もするべきことかもしれません。情報の打ちだしも、イベントの内容もカフェの主催者のほうが介護職、介護福祉士たちに共感されていることは事実ですね。

中村 30代、40代が運営する介護福祉士会には期待は大きいですね。後半は話題になった「フジテレビ問題」など、ネガティブなことも質問させてください。引き続きお願いします。

中村中村
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