取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
これからの混合介護の時代、サービスの範囲を明確にしないと、事業所運営ができなくなる
僕は自分でも現場を経験して、取材をしています。個人的な見解では、もう高齢者を筆頭に高齢者家族、行政は介護職に感謝しないとまずいと思いますね。尻叩きや締めつけは完全に限界だし、昨年の有料老人ホームの殺人事件もモンスター家族が引き金になりました。
高齢者でも職員に感謝する年齢層と、そうじゃない年齢層がいます。簡単に言えば戦争を体験している方と、そうでない方ですね。考え方がまったく違う。利用者や利用者家族にアンケートを採ると明確に出ます。
能力の高い良心的な事業所でも、高齢者の過剰な要求にうんざりし始めている。今の状態で高齢者が「俺様は客だ」みたいな態度を貫いて、良いことは何もないですよ。現場が崩壊するでしょう。
食事やサービス内容に関するアンケートを採ると、戦争体験している方々は、「いつもありがとうございます」という内容が多い。食事の味やサービス内容について質問しても、「ありがとうございます」と。戦後生まれの方は、具体的に変えてほしい要望を記入されます。
サービス体験が豊富かどうかってことですね。お金を払っているのでその対価が欲しいというのは、職員を低賃金で働かせている今の介護現場の現状には合わない。職員がついていけない。早急に要求はやめたほうがいい。
そのお客様意識が現場の状況や職員の心境と乖離してしまっていることは確かで、これからはその乖離を埋めていかないとサービスとしては成り立っていかないだろうとは思っています。ニーズと合っていませんね。
高齢者と職員のどちらの立場に立つか。多くのコンサルはその乖離に対して職員を洗脳したり、尻を叩いたりして埋めたがるでしょう。それは無理でしょうね。高齢者が諦めるべきです。
洗脳とおっしゃいましたけど、組織の色に染めやすいのは新卒です。中途は過去の経験がありますから、法人のカラーに染めることは時間がかかる場合があります。介護業界は基本的に中途採用じゃないですか。だから洗脳みたいな手段は馴染まない。考え方を押しつけるって言い方が適切かわかりませんが、経験という過去がある人に押しつけられないですよ。いかに理念に共感してもらうかが大切だと思います。
限界にある職員の立場に立って、業務を合理化、効率化する。同時に高齢者に高くは望ませない。お互い歩み寄って、正常化させるべきでしょうね。家族で読む方もいるので言っておきますが、よほどのことでない限り我慢して、苦情は言わないほうがいいでしょう。
これから介護運営で大切なのは、どこまでをやって、どこまでをやらないかという線引きが必要です。どこまでサービス提供するのかという一線ですね。ここからは自分たちでやってください、と明示していかないと混乱するばかりです。
介護保険制度を十数年やってきた中で、例えば訪問介護は保険外の仕事をサービスでやる部分があります。
それによって職員が疲弊します。どこからはやらない、ってことを明確化することは本当に重要。これから混合介護の時代になるので、一線を超えた場合はお金を払ってもらう。サービスの範囲を明確にしないと、事業所運営ができなくなりますね。
かつてのお泊りデイは業態や制度に課題があった(沓澤)
沓澤さんは介護コンサルということで、精神論や自己啓発みたいなことを推進する人だったら嫌だなと思って来ました。そうじゃなくてよかった。
理念に沿った行動をする、理念の沿ったサービス提供するのは、行動規範の話ですから必要だとは思いますが、大声で夢を語りましょうとか、そういうのは馴染まない。前編でも言いましたように長所進展、自己啓発的な方法が向いている会社はやってもいいとは思いますけど。
第三者が洗脳や自己啓発を推進したら、本当に介護から人が離れるし、業界が分断します。経営者の気質を見ながら、様々な引き出しを持っているってことですね。安心しました。
法人はトップで99.9パーセントが決まりますし、経営者によってカラーが変わってきます。そのカラーに合わせてコンサルティングするのは基本的なことです。
個人的な話をしますが、僕は7年間介護施設(お泊りデイ)運営して、最後はウンザリして逃げました。何をしても順調な運営はできなかったし、大勢狂いましたね。何をやってもブラックから抜けられなかった。
お泊りデイは大変です。業態に課題がありますし、制度にも課題があったと思います。小規模通所の単価が高かった時代があるじゃないですか。それに社会が不景気のドン底で、多くの経営者が介護しか儲かりそうな業種がないとなった。投資も少ないし、投資回収が早いってことで飛び込んだ人が多かった。
実は僕はかかわっていたコンサルがひどかったんです。今思えば、精神論に偏ったムチャクチャな人たち。長時間労働は人が死にます。素人がコンサルに頼る場合、人選を間違えると命を落としますよ。
業務の効率化により、サービス以外の拘束時間を短縮すべき
現在の介護保険は、どの業種を見たとしても、基本的に効率がよく利益が出るのはある一定規模です。一時期、激増した小規模通所は通常の経営セオリーとは反対のものがいいよ、と制度が見えてしまったことが大きな問題点でしたね。
時代やコンサル、お泊りデイというブラックなシステム以前に、介護保険制度に問題があったということですね。本当にそう思います。
家族からすると特養に入れない、それで他の施設に入れるほどお金がないとなったとき、お泊りデイの需要があった。ビジネスモデルとしてはいいけれども、問題点としては小規模だったってこと。小規模だと、少ない人員で運営しないと利益が出ないじゃないですか。
当時のコンサルはブラック労働や職員の限界までの低賃金を推進する人たちが多かった。洗脳して死ぬまで働かせろ、みたいな。地獄のような何年かを過ごし、お泊りデイのシステムだと得するのが高齢者の家族だけってことに気付いた。制度やシステムに問題があることに気付くまでに何年もかかりました。
少ない人員で運営をすると、ある特定の方に業務負荷がかかる。安倍総理は三本の矢で特養の増設を宣言しました。お泊りではこれまで特養の代替としての役割が強かったので、これからなくなるでしょうね。
仮に僕がお泊りデイの経営で混乱の渦中にいたとき、沓澤さんにコンサルを依頼したとすれば、何をしてくれたのでしょう?
まず業務改善に着手しますね。小規模の事業所が疲弊する理由として、夜勤があるので人員が必要。でも人員を入れすぎても、人件費で経営がおかしくなる。サービスを提供する以外に拘束される時間を圧縮します。営業とか書類作成とか、バックヤードの業務を効率化しますね。
書類の効率化は、本当は国が率先してやるべき重大なこと。長年放置して、効率化以前に意味のない人材確保にお金を使ったりして、つくづく呆れました。
最近だったらタブレットを使うとか。介護現場で疲弊する原因のひとつには、「転記」が多いこと。同じものを2枚も3枚も書くってことは誰が見ても非効率で、一つに入力しただけですべてに反映されるようなシステムを提案しますね。
代わりに考えてくれるだけで、ありがたい。零細経営者が現場に入ったら、もう忙しくてツールを探す時間もない。労基法では36協定で残業月45時間ですが、現実的に月20時間くらいに収めないと普通に継続できないですよね。
労働時間の短縮は根本的な問題で、事業所を大型化していかないと実現しません。小さければ小さいほど、長時間労働になります。今の状況ならば小規模事業所を通常規模、大規模にしましょうという提案がトレンドになっています。
小さな事業所は、地域に必要とされる地域一番店にしていく(沓澤)
小規模で業務過多になるのは仕方のないこと。19人以上の通常規模を目指すといっても、資金的にも労力的にも大変なことです。
介護保険制度が始まって、しばらく小規模事業勝を地域にドミナントするビジネスモデルが流行しました。いくつも展開する事業所を一つにして、40名、50名定員にすることが今の流れです。資金的にすぐにはできないですけど、時間をかけてそちらに持っていきます。
お金がある人は引っ越しをする。ほとんどの人はお金がないけど、どうするのでしょう。
お金をつくりに行きます。稼働率が低くてお金がないのであれば、稼働を上げる。そうでなければ、他にお金を取れるものを探す。金融機関から借りることができるのであれば、融資を受けての新しい店舗を提案するし、投資がかからないもので例えば訪問系の事業所を付設しましょうとかですね。
複数店舗を運営しているのであれば集約、1店舗ならば19人定員まで拡大か。1店舗レベルの零細事業者は船井総研のクライアントにはいないでしょうが、今は小規模の零細事業者が最も苦しいですね。
今までの介護事業者は商店街の八百屋さん、魚屋さんみたいな状況で、経営も得意じゃないよという方が多かった。しかし、小売業でたとえると近くに大きなスーパーができてしまったと。それによって潰れているところが出てくるけど、消費者にとってはそれがプラスになっている。
仮にシャッター商店街になっていたとしても、その中でまだまだ営業を続けている店も各商店に必ずあります。
それは独自の長所があるからで、そういう小さな事業所を見捨てるわけではなく、地域に必要とされる地域一番店にすると。売上規模としては地域一番ではないかもしれないけど、狭い範囲でいうシェア率で一番を目指します。地域一番店として成り立たせるようなコンサルティングは、船井総研の最も得意とする分野です。
商圏で1番、最低でも3番くらいにいないと商売にならないというのはよくわかります。我々、ライターもまったく同じなので。でもセミナーにくるような経営者では、なかなか無理でしょう。
まず指標にするのはシェア率。そのエリアで要介護認定を受けている方のうち、何パーセントをお客さんとして確保できるか。訪問介護であれば、訪問介護を使っている方のうち何パーセント確保できているかですね。大きなエリアでは確保できないので、範囲を狭めます。
船井総研では一番店の定義を明確にしていて、商圏26パーセントのシェアを目標にするようですね。
事業所半径500メートル以内で、例えば訪問介護を使う要介護者の26パーセント以上を確保できているかどうか。力があれば1キロ圏内とか、どんどん範囲が広がっていきます。
どうすれば一番になれるのでしょうか。介護保険で業種が決められているし、一番になれと言ってもなかなか厳しい。
船井総研では差別化8要素と呼んでいるものがあります。まず立地、規模、ブランド力。ここは簡単には変えられない。次からは努力でなんとかなるのですが、商品力です。商品力を介護で具体的にいうと、認知症の受け入れが得意とか。困難ケースを受け入れるとかですね。商品力があった上で、営業力になります。そして価格力、販売(営業)力、サービス力 、固定客化力となります。
今までやってきた経験や実績、利用者を踏まえて、その経営者の得意分野を伸ばしていくわけですね。なるほど。これから始まる混合介護でも秘策があるようで。今日はありがとうございました。