「介護対談」第40回(後編)星多絵子さん「新しい介護報酬の決定前におおよその予想をつけておくべき」

「介護対談」第40回(後編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと星多絵子さんの対談星多絵子
大学卒業後、病院の受付・レセプト点検の経験を経て一般企業に転職。経営に関する知識を取得した後、社会福祉法人の本部で病院や老健の運営に携わる。平成19年からは、それまでの経験を活かし、医療・介護・福祉に重点を置いた会計事務所にて経営コンサルタントとして活動を開始。現在は「お客様の100年経営を創り上げる」を目標にコンサルティングサービス会社「メニースターズ」の代表を務める。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った「貧困とセックス」(イースト新書)に続き、最新刊「絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄」(小学館新書)が5月31日に発売!

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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新しい介護報酬の決定前におおよその予想をつけておくべき(星)

次期改定では高齢者集合住宅が目をつけられていると聞きます。利用者に住宅を提供することで囲い込み、付設事業所によるサービス提供が無駄な介護医療の温床と指摘されています。

中村中村
星

サ高住はとにかく増えています。実際に全然埋まらないところもある。病院は病床が回転しないと、利益がでない。病院母体のサ高住では、とりあえず退院させる場所をサ高住にしたりしています。しかし、そこは目をつけられているようですね。これからは本当に適切な医療介護が提供されているか、という内容が問われてきます。

住宅を提供して囲い込んで第三者の監視がなかったら、付設居宅介護支援事業所が付設事業所を使い、介護保険の満額を使うプランを作るのは普通ですよね。高齢者住宅の付設事業所が減算になるのではと言われています。どう適切かを判断するのでしょう。

中村中村
星

診療報酬ですと、例えば急性期病院で、この指数とこの指数で何点以上じゃないと算定できません、という計算をします。指数をだして、それを満たせるか。だから介護では同じ系列は下げるとか、重篤な方以外は大幅に下げるとか、そういう基準を設けてくるのかなと思います。ケアマネさんも自社サービスのプランを組む上限が決まっています。それと同じような規制が入るのではないかと。

サ高住は国交省が主導していることもあり、不動産業者とか建築屋とか、まったく関係ない業種の人たちが参入している。介護保険のことはわからないし、介護に興味もない人たちがやっているケースが多い印象があります。

中村中村
星

箱物は異業種から参入するケースが多くて、介護についての状況をわかっていない方が経営者だったりする。社会保障審議会の資料もわかりづらいし、さらに厚労省の言葉は独特なので理解しにくい。だから異業種の方が読んでも、たぶんわからない。誰か理解できる人が「こういうことですよ」って、経営者に説明すれば、それだけでだいぶ変わってくると思うのですが。

地域包括ケアシステムに“住まい”という言葉が入ってきているので、高齢者住宅が潰れることはないが、ただ付設事業所はギリギリの点数になる可能性が高いということですね。

中村中村
星

厳しいことになるのがわかっているので、サ高住にかかわる運営者は今からどれくらいの利用率で、どういう症状の、要介護いくつの方が、どのくらいいるのかというデータをとっておいたほうがいいですね。重い人を預かっているようであれば、そんなにひどい減算にはならないことも考えられます。現状を知っていくと後先の対策ができますし。

中小の異業種参入の経営者は、あまりなにも考えていない人が多い。多くの人が来年1月末、超厳しい報酬が決定した段階でパニックになるんじゃないですか。外の利用者を探すしか抜け道はないとなると、もう今から方針転換して営業しないと間に合わないですよ。

中村中村
星

新しい報酬が決定する前の段階、社保審の議論の山場は11月、12月になります。その段階で資料を読み込み、こうなるって予想をつけて動いた方がいいです。利用率が低いところはサ高住にこだわらず、住宅にするとか。いろいろ考えどきかなと思いますね。

厚労省は、可能な限り自立の人を増やしていきたいことを明確に言っている(星)

この1年くらい医療介護関係者は、厚労省の方針である地域包括ケアシステムを構築するためにいろいろ動いています。改めて星さんに地域包括ケアシステムについて伺いたいのですが。

中村中村
星

厚労省は、医療介護は必要になったら使いましょう、ということを徹底したい。公助から共助、自助という流れで、できればいつまでも自立でいて欲しい。地域包括ケアシステムで、可能な限り自立の人を増やしていきたいことを明確に言っています。

医療と介護保険の制度持続のために、無駄な医療介護をとにかく減らしたいわけですね。地域のボランティアやNPOを総動員して、入院や通院、在宅系の介護保険事業所の利用をとにかく減らすという。ただ、普通に考えてお金を払うのに介護職が深刻なレベルで集まらないのに、ボランティアを集めるというのは、もう難易度が高すぎますね。

中村中村
星

私も障がい者や障がい児の施設にボランティアに行ったりします。熱心に自分たちの施設は受け入れますってやっていかないと集まらないでしょうね。事業所はボランティアだけで成り立っているわけでないので、厚生労働省側からすれば、経営努力ということになるでしょう。ボランティアはあくまでも補助的なものです。

まあ、時間の空いている元気な高齢者とかいるのかもしれませんが、ボランティアをやりたいなんて人は、個人的にはあまり聞きません。共働きが一般的になって、みんな忙しい。

中村中村
星

私の住んでいる文京区だと、高齢者の話し相手のボランティアを募集していますね。高齢者の人が引きこもりにならないように、独居高齢者の自宅をまわって、声をかけてという形をとっています。どうしてもカラダが悪くなると、引きこもりがちになる。話を聞いてもらえるだけでも張りがあるようです。

昭和の時代は普通に地域で、そういう付き合いはありました。強引に古き良き時代に戻したい、みたいな意向があるのかな。東京は高齢者が目くじら立てて「保育園建設反対!」とかやっているし、まあ普通に無理でしょうね。

中村中村

ボランティアを活用して、なんとかなるのは介護度が軽い方(星)

星

地域での会話は少なくなっています。思惑通りにいくかどうかは、ボランティアさんの質と量にもよる。独居高齢者の世帯数は飛躍的に増えていて、ある程度の人数が集まらないと、一人の方の比重が大きくなる。負担になって嫌になって辞める、ということは人数を集めないとありえます。

地域に行政が介入して変わるかどうかか。ポイントは高齢者が数少ない市民の善意を感謝するかどうかですね。若い世代を苦しめる「保育園建設反対」的な意識を変えられるかどうか、まあ、それも無理そう。介護事業所はあまり関係ないですね。

中村中村
星

介護事業所も、総合事業ではボランティアの活用を求められています。私の行ったところは地方だけど、ボランティアはけっこう来ていましたね。高齢者と障がい児を一緒に集めている共生型で、夏休み期間中に特に学生のボランティアがきていた。子供たちの相手をしていました。

介護事業所が意識高い系な若者に対して、PRが上手だったんでしょうか。もう若者はみんな介護や福祉から離れてしまって、意識高い系は最後の砦です。介護事業所はなんとか彼らを幻滅させずに繋ぎ止めてほしいし、意識高い系の若者も広い視野をもって、自分と同じ意識高い系以外の様々な人と接触してほしい。地域包括ケアシステムでのボランティアは、どうなるか問われますね。

中村中村
星

ボランティアを活用して、なんとかなるのは介護度が軽い方。介護度が重い方の介護報酬は、また別の話。要介護認定までは必要ない。でも、ちょっと弱ってきた人に対して介護保険ほどではないけど、ちょっとした支援が欲しいという。話し相手とか、買い物同行とか。軽度の人は介護保険になるべく携わらないようにというのが狙いですね。

市民の善意でなんとか乗り切ろうという思惑ですね。ボランティア前提の総合事業の経営はやっていけるのでしょうか。

中村中村
星

工夫次第でやっていけます。先日、見学に行ったのが学校のような施設で、認知症高齢者はチャイムが鳴ってテーブルに着く。プリントが解けなくても、規則正しい生活を送ることで予防することが狙いでした。事業所が高齢者のお世話だけをする、そういうことがこれから厳しくなるってことですね。

自分が住んでいる自治体の経営状況は知っておいたほうがいい(星)

地域を活性化させて予防しよう、それが地域包括ケアシステムの一つの狙いなわけですね。悪くいえば、軽度高齢者の制度切り捨て。

中村中村
星

軽い方はなるべく国の保険でなく、市区町村の保険に移していく流れになっています。ただ市区町村の保険だと、その自治体の財源によって提供できるサービスの違いがでてくる。住んでいる地域によって当たり、外れが生まれる。それは問題ですね。

これからは財源がある自治体に住んだほうがいいですね。様々なことが自治体に流れているので、もはや金持ちの家に生まれたか、貧乏人に生まれたか、そのくらいの違いがあるじゃないですか。

中村中村
星

自立で介護の必要がない方は、どこに住んでも大丈夫だけど、ちょっと弱くなってきた。介護保険に申請しなくてはという方は、やっぱり自分が住んでいる自治体の経営状況は知っておいたほうがいいです。財政力指数という数字があります。自分が住んでいる自治体で検索をかけると、出てきますよ。

財政力指数ですか。自治体の財政状況を現す数値があるんですね。

中村中村
星

1以上であれば、すごく優秀。私の実家のある市は0.98なのでほぼ1です。若い世帯が多いのと、商業施設が多いから。別の市は工業地帯なので1.2と高いですが、実は医療は医師が足りていません。財政力指数と医療者、介護者の数みたいなものは調べておいたほうがいいでしょうね。

財政状況は公立小中学校や要介護認定などにも影響するので、これからどこに住もうか考えている人は確かに知ることは必須ですね。貧乏な自治体に住んでしまうと、生活に直撃する事態にもなりかねません。

中村中村
星

財政破たんした夕張は、市立病院から診療所に変わりました。病院は20床以上で診療所は19床以下のものです。ダウンサイジングして診療所にしました。残った旧夕張市立病院の病床は、老人保健施設になった。診療所になると医師と看護師の配置がグッと下がるので、規模縮小になります。そういう状況は、これから介護業界でも起こりうるでしょう。

財政の厳しい自治体でケアプランを作るのは、ケアマネは大変でしょうね。選択肢がないわけだから。来年4月からは財政インセンティブも始まるし、もうメチャクチャにならずに平穏にまわることを願うばかりです。

中村中村
星

具体的なことは、まだ明確ではない。何人をどこまで改善したかとういう明確な基準をもって、いくらお支払しますってインセンティブがあればいいけど、統一基準の議論はこれから。本当は要介護3が妥当なところを、いい部分ばかりを見て2とか1とかつけられるケースが増える可能性はありますね。

自治体による要介護認定の出し渋りは、なんとか回避してほしい事態です。事業者も市民もみんな心配しています。今日はありがとうございました。

中村中村
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