「介護対談」第22回(後編)下沢貴之さん「“デイサービスという要介護者の集まり”にくくられるのが嫌だという人は多い。スポーツクラブ内のスペースには、高齢者デイサービスには行きたくない人たちが来てくれる」

「介護対談」第22回(後編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと下沢貴之さんの対談下沢貴之
1973年青森県生まれ。1993年、社会福祉法人にリハビリスタッフとして入職。2004年に居宅介護支援事業所「かっこうの森」を開設する。現在はデイサービスやサービス付き高齢者向け住宅等の事業も展開している。2015年には、自立・要支援・要介護問わず、デイサービスとスポーツクラブを合わせた施設「ライフジム ニューフィットネス」を八戸市内にオープンした。社会福祉士。ケアマネージャー。介護福祉士。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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「デイサービス」という看板をあげていないライフジムには、高齢者デイサービスに行きたくない人がたくさん来てくれている(下沢)

中村 下沢さんが提案するライフジムは、地域のスポーツクラブ内にあるデイサービスで要支援1、2、要介護1の方々が通う。現段階では監督権のある保険者に介護保険のデイサービスと、一般住民が通うスポーツジムとは別々のエリアに分けられていて無駄が多く、さらに高齢者や一般住民に不利益があるという話でした。後半は、高齢者にトレーニングをさせるコツみたいなことから聞いていいでしょうか。

中村中村
下沢下沢

下沢 10のマシントレーニングがあって、1日でそれを2周くらいします。下半身、胸、背中ですね。まずライフジムはデイサービスという看板をあげていないので、高齢者デイサービスには行きたくない高齢者がたくさん来てくれている。デイサービスって要介護者の集まりに自分がくくられるのが嫌な人は多く、その需要には応えています。

中村 これから団塊世代が後期高齢者になったら、なおさらデイサービスには行きたくないってなるでしょうね。家族が行かせたくても拒絶する人が多いでしょう。

中村中村
下沢下沢

下沢 高齢者とか福祉にお世話になりたくないというのは、それは自分自身のことでもある。例えば日本が40歳定年で、あなたデイサービス行きなさいってなったら嫌でしょう。行きたくない。一般住民、老若男女が集うスポーツクラブなら、腰は軽くなりますよ。

中村 男性のほうが多いでしょう。どこのデイサービスでも、女性は女性同士で喋って楽しそうにしている。片隅で居心地が悪そうなのは男性ばかりです。

中村中村
下沢下沢

下沢 男性が5、6人集まると面白くて、高校生くらいの悪ガキが集まったみたいな感じになりますよ。うちは奥に機能訓練室、休憩室があって、「今、美人の姉ちゃんが来てるぞ。一緒に見にいくか」みたいな。男性同士で女性の話ばかりしながらトレーニングしていますね。

中村 いい話ですね。だいぶ前からアダルトビデオとかを買っているメインは60代男性で、介護業界とか行政は清廉潔白な福祉みたいなのを彼らに押しつけると、大きな反発を喰らいますよ。男性がくだらないエロ話ができる環境作りは大切でしょう。

中村中村

多くの市区町村は、総合事業の単価があまりにも安く事業者が誰も手を挙げないので困っている(下沢)

下沢下沢

下沢 開業して1年でスポーツクラブは会員1000人を超えました。地元は田舎ですけど、人口は24万人くらい。スポーツクラブとしてのブランディングはけっこう頑張って、宣伝しました。逆にデイサービスはまだまだ空きがあって、今のところはトントン程度です。

中村 地方で1000人集めるってすごいですね。スポーツジムは坪あたりの会員数5人が経営の目標値となっていると聞きます。

中村中村
下沢下沢

下沢 うちは200坪なのでその数値はクリアしているのですが、価格が月4800円なんです。設備があってさらにダンス教室とかいろいろ開催して、その値段は日本で最も安い水準なんですよ。一般的には1000人の会員がきて利益がでる価格設定をしますが、適正価格は7000円くらいです。今は価格を下げているので、正直儲かっている状態ではない。

中村 1000人集まってギリギリだったら厳しいですね。デイサービスの利益を見込んで値を下げたわけですね。

中村中村
下沢下沢

下沢 そうです。介護の利益は要支援2の人が来て一般の6人分、要支援1の人で3人分くらい。介護のほうの利益をあてにしていた部分はあります。介護の収入をスポーツクラブにまわし、会員価格を安く。それで人が集まるみたいな計画だったのですが、若干現実は違いました。

中村 ますます高齢者と職員が行き来するライフジムを実現するしかないですね。職員の兼務ができないってことは、今はシフト表を完全にわけているってことですね。

中村中村
下沢下沢

下沢 デイサービスは高齢者5人に職員1人って決められている。でも現実的には要支援の高齢者は黙っていてもやれる。15人に1人くらいでも問題ないんですよ。さらに、自立になっても通えるから、そのあとの行き場もあるので利用者にとっても事業者にとってもいいし、税金ではなく実費になるので行政にとってもいいと、提案はしているのですが…。

中村 総合事業で要支援1、2の予防事業の権限は、都道府県から市区町村に移っています。地域のよってのバラつきが懸念されていますが、予防事業をどう運営するかは市区町村がすべて決めることができる。

中村中村
下沢下沢

下沢 地元はもう先月から総合事業になっています。でもなにも動きはなくて現状維持です。ライフジムは地元じゃなくて他の市町村からいくつかオファーはあって、大体3割減でやりませんか?みたいな内容です。多くの市区町村は総合事業の単価があまりにも安く、事業者が誰も手を挙げないので困っているみたいですね。

中村 介護報酬はただでさえ安いと言われているのに、さらに3割下げて公募しても誰も来ないですよね。総合事業は混合介護前提だから、規制緩和の個別対応は必須ですよ。市役所にはコンサルのような知識、行動が求められている。

中村中村

混合介護が始まるこれからは、介護事業者が一般の収益事業に参入するべき(下沢)

下沢下沢

下沢 僕は介護現場で働いてきた人間が収益事業に参入する手伝いをしたいんですよ。介護保険が始まってから、介護に他産業からばかり来ている。保険会社、電気会社とか。それがすごく悔しいなっていうのがありまして。

中村 保険会社、電気会社だったらお金があるからいいけど、居酒屋とかラーメン屋とか、そういう介護の“か”の字も知らない人が膨大に入ってきましたからね。普通、ありえないですよ。

中村中村
下沢下沢

下沢 介護現場の人間は低賃金だからお金がない。自分の施設を作りたくてもお金がないから隙間ができて、お金がある人が介護に流れてくる。そこには知識も技術もまったく関係なくて、もうずっと違和感があった。

中村 介護職、介護福祉士の体質もあるんじゃないですか。独立するって意識がある人が驚くほど少なくて、他産業の人たちに荒らされまくっても下沢さんみたいに違和感を唱えないじゃないですか。僕もおかしな業界だなと思ってみていますよ。

中村中村
下沢下沢

下沢 介護は箱物が基本なので、お金が大事。だから介護職はなかなか独立できない。僕は20代後半からすごく独立したくて、悩んで悩んで、悩みまくりました。お金がなくて独立できないストレスが相当でしたから。だから混合介護が始まるこれからは、介護事業者が一般の収益事業に参入することが肝です。介護事業者とか介護職の頑張りが地域の総合事業の成功を左右しますよ。

中村 介護報酬だけでは生活ができないレベルまで行きそうなので、介護事業者や介護職の一般事業への進出は必須な雰囲気がありますね。いち介護職員だった下沢さんは30歳で独立されている。どういう経緯があったのでしょう。

中村中村
下沢下沢

下沢 私の場合は地主さんを探しました。当時、施設をやりたくてもお金がない。なんとかならないかなって悩んでいる時期に、地元にアパートがボンボン建った。大手から中小までたくさん。そのアパートが埋まらなくて空室って看板だらけになって、あれ、と思った。建設会社と自分が繋がればグループホームができると、ひらめきました。

中村 なるほど。13年前になると2003年ですか。介護保険が始まったばかりの時期で、あらゆる施設がまだまだ足りないという状況ですね。

中村中村
下沢下沢

下沢 2ユニット、18部屋のグループホームをやりたかった。アパートより収益上がるからって、介護職の名刺をもって不動産屋を一軒、一軒まわったんですね。グループホームをやらせてほしいって。29歳のときですね。18部屋をすぐに埋めますからと。

中村 お金もない介護職員が、休日に建物を建ててくれと不動産屋をまわるってすごいですね。行動力がありすぎる。

中村中村
下沢下沢

下沢 休日を全部潰して動きました。なかなか決まらなくて盛岡とか北上まで範囲を広げて。それで1年くらい動いて、ようやく話に乗ってくれる不動産屋が見つかった。それまでも話はたくさんあったけど、本当にお金がないとなると、みんな出してくれない。手持ち資金は支援者にとっては保証金でもありますが、私を図る覚悟の金額でもあるので、ゼロとなると信用されないわけです。

中村 箱を建てるとなれば何千万円ってお金が動くので、そう簡単にはいかないですよね。1年をかけてグループホーム事業に乗ってくれる大家を探したわけですね。アパート経営より利回りがよかったと。

中村中村
下沢下沢

下沢 こっちは家賃を一括で払うので空部屋のリスクがない。利回りはいいでしょう。それで13年前に創業しました。僕は介護現場でずっと働いていたので、地域のネットワークはあるし、順調に埋まりました。

介護の経験を生かして、どんどん外に出たほうがいい。そうしないと生き残れなくなる(下沢)

中村 それが現在経営されている株式会社リブライズですか。グループホーム、住宅型有料、サ高住、訪問介護事業所と総合介護法人です。ホームページには「いち介護職員が設立した会社です」と書いてあります。順調だったのでしょうか。

中村中村
下沢下沢

下沢 創業4年目にグループホームが地域密着型になった時期が転機でした。グループホームは土地の安い隣の市に建てたんです。土地が安いからどんどん競合するグループホームが建ち、それで地域密着型になったときに他市からの受け入れが禁止になって、高齢者に対する施設数が一気に増えた。

中村 供給過剰は手を打たないと潰れちゃいますね。

中村中村
下沢下沢

下沢 ヤバイってなって有料老人ホームを建てました。介護事業は来てくれた人にいかに待ってもらえるかが大事で、断ると次に行く。まず有料老人ホームに入ってもらって、待機してグループホームにという流れを作りました。なんだかんだで、法人は利益で続けて、設備投資を続けています。

中村 ライフジムがうまくいけば、介護の入口としてジムに相談って流れができる。そうすれば、病院に営業に行かなくてもよくなる。混合介護をキッカケに予防をキーワードに介護保険外に出て行きたいし、他の介護職や介護福祉士も外にでて欲しいってことですね。

中村中村
下沢下沢

下沢 介護の経験を生かして、どんどん外に出たほうがいいでしょうね。そうしないと生きていけなくなると思う。だから今こそ介護福祉士が運営をできるような、起業できるような仕組みは欲しい。「僕は将来的にこういう企画があるんだ」っていう介護職、介護福祉士に投資したいですね。

中村 総合事業でどうなっちゃうの?って人は多いです。話は戻りますが、総合事業のキーポイントとなる保険者は、なぜ介護保険料を削減するという案を立ててもダメなのでしょうか。お互いが得するのに。

中村中村
下沢下沢

下沢 今、交渉している行政に関してはダメですね。でも市長が、僕が出演したテレビ番組を見てくれたという話が入っているので、少し期待しているんですけど。

中村 しかし担当者によってバラついて市民の提案を無視するとか、地方公務員ってそんなに偉いんですかね。総合事業が始まったばかりの大変な時期に、マジで勘弁してほしい。無駄を続ける理由をその担当者に説明してもらわないと納得できないし、説明責任はあるでしょう。たくさんの介護関係者が危機感を持って、地域のために頑張っているのに。

中村中村
下沢下沢

下沢 そのお話はノーコメで(笑)。とりあえず今は他の市区町村でも、日本のどこでもいいので、兼務を認めてもらえるライフジムを1カ所やりたい。やらないとわからないことは多いし。

中村 じゃあ、市区町村の方々は下沢さんの会社まで連絡を。削減率は応相談ってことで。今日はありがとうございました。ライフジムの成功を祈っています。

中村中村
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