「介護対談」第41回(前編)市川佳也さん「必要な人にだけサービスを提供するという方針転換が始まっている」

「介護対談」第41回(前編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと市川佳也さんの対談市川佳也
ホームネット株式会社株式会社エイプレイス取締役。24時間体制で生活支援を行う緊急通報サービスのパイオニアである同法人の介護事業で先頭に立つ。新宿区、北区、川崎市の3ヶ所に事業所を構え、高齢者が住み慣れた場所で自分らしく暮らしていくサポートを手掛ける。同法人の「チーム型定期巡回」の事例を見ようと全国の事業者からの見学も多い。介護技術研修や資格取得サポートを行い、人材育成にも注力している。定期巡回・随時対応サービスで介護業界を牽引し2025年に向けてさらに注目が集まる。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った「貧困とセックス」(イースト新書)に続き、最新刊「絶望の超高齢社会: 介護業界の生き地獄」(小学館新書)が5月31日に発売!

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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必要な人にだけサービスを提供するという方針転換が始まっている(市川)

市川さんはホームネット株式会社のグループ会社、株式会社エイプレイス取締役介護事業部長で、定期巡回・随時対応型訪問介護・看護を運営されています。この1年間くらいさまざまな医療介護関係者が地域包括ケアシステム構築のために忙しく動いています。まず地域包括ケアシステムについて伺いたいです。

中村中村
市川市川

国は財政状態が厳しく、介護保険の持続が難しい状態です。地域包括ケアは施設や病院ではなく、なるべく自宅に帰ってもらうという厚生労働省による施策で、なるべく地域で支えていきましょうということですね。

公助から共助、自助という流れ。言葉を変えれば、現在、国はもう面倒見切れないので地域でお願いしますという段階で、最終的にはすべて自助で自己責任みたいなことになっていくのですね。

中村中村
市川市川

それぞれの地域で、高齢者が最期まで暮らすことができる仕組みにしていきたいというのが、地域包括ケアシステムです。その中にうちがやっている定期巡回随時対応サービスや小規模多機能型居宅介護など、地域密着型サービスをもっと充実させたい。それが国の考えです。

小規模多機能型居宅介護ができたのが2006年。報酬が安いことからしばらくは全然広がらなかった。地域で高齢者を支えるのは望ましい姿と思いますが、最近になってかなり強引に進めているのは、ついに本腰をいれた制度縮小が始まるということになります。

中村中村
市川市川

自治体による総合事業が始まって、要支援の方は介護保険制度から切り離されました。2025年問題を直前に、財政的に厳しいのでサービスを重点化、集中化して提供するという方針転換です。実際に軽度者を国は自治体に任せました。

介護現場は現状でさえ厳しい中で、さらなる制度縮小は普通に無理がある印象です。それでまわればいいですが、実際どうなのでしょうか?

中村中村
市川市川

中重度者は介護保険制度があるので、現状維持でしょうね。すでに介護保険制度から切り離された自治体による総合事業は、なかなか厳しい。報酬が低すぎて担い手がいない、事業者がいないってところですね。

ボランティアやNPOをフル活用する案ですが、売上が上がらないで低賃金しか払えない事業は、不幸な人を増やすだけなので誰もやりたがらない。手をあげる事業者がいないのは、僕はいいことだと思いました。

中村中村
市川市川

総合事業を手掛ける事業者さんの話を聞くと、採用と教育のコストが捻出できないと言っています。採用、教育のコストは介護保険制度の報酬をもらって、ギリギリまわる状況でした。そこでボランティアを集めろと言われても、集めるコストもかかる、その教育研修もしなくてはいけない。それで報酬は介護保険より圧倒的に少なくては成り立たないと。

我慢しないで欲しいですね。自治体とか議員に陳情して、なんとか楽になってほしい。陳情を聞いてもらえなかったら、担当する高齢者を全員自治体にお返しして廃止するのが賢明ですよ。

中村中村
市川市川

国が想定しているボランティアは無資格者や、後期高齢者手前の現役引退した人たち、前期高齢者です。その人たちが働いてくれることを期待している。ただ、その年代は団塊世代になるので、もう働きたくないという人たちが多いでしょう。

経営的に一つのベッドの回転率を上げていかないとならない(市川)

市川さんは厚労省が提唱する地域包括ケアシステムに、ビジネスとして乗ったわけですね。国が推進する24時間対応の定期巡回・随時対応型サービスを3年前に始められた。

中村中村
市川市川

国は施設から在宅に戻していこうとしている中で、在宅に中重度の方は確実に増えていきます。具体的には老健とか病院にいた人を在宅に戻そうという動きで、介護施設に行かないで自宅に戻るケースが増えている。うちが定期巡回・随時対応型サービスを展開する新宿区や川崎市麻生区は、可能な限り自宅にいたいという本人たちの強い要望を感じます。

今までなら病院に社会的入院や老健でリハビリしていた高齢者が介護施設を経由しないで直行で自宅に戻るわけですね。治療する段階ではない高齢者が入院する社会的入院は、無駄な医療費の温床としてずっと問題視され、介護保険制度が創設された一つの理由でした。介護保険によってある程度は改善していると思いますが、さらに高齢者の入院を減らすことを加速させると。

中村中村
市川市川

よく、これからは死に場所がなくなるみたいな話があります。これから増える高齢者の数に比べ、病院はベッド数をどんどん減らされている。そうすると経営的に一つのベッドの回転率を上げていかないとならない。なるべく短い期間で、どこかに出していかなければならないわけです。それが老健だったり、施設だったり、自宅だったり。そこで本人が希望すれば、自宅にしましょうって流れですね。

それは、死に場所は自宅がいいでしょう。地域が入院病棟みたいなになるということで、それは定期巡回・随時対応サービスは必要になってきますね。

中村中村

24時間、包括報酬なので訪問介護の延長でサービス提供すると、絶対に赤字になる。そこをどう調整して正常化するかです。(市川)

市川市川

定期巡回・随時対応サービスは、中学校圏域に1事業所という想定。全然足りていません。24時間対応なので包括報酬、一カ月いくらという介護報酬です。1回ずつ算定される従来型訪問介護とはシステムが大きく違っています。

まだ全国で800事業所程度。小規模多機能型居宅介護と同じく、まだまだ普及していないと言われています。

中村中村
市川市川

うちは元々、夜間対応型訪問介護の事業所を運営し、グループ会社で高齢者に向けた“あんしんネットワーク”という緊急通報事業をやっています。コールが鳴ったらヘルパーさんが行くという夜間帯だけの訪問介護で、そこにシステムを提供していたこともあり、自社でもやってみようという話になりました。

夜間対応型訪問介護は夕方18時から朝8時までの間に定期的な訪問、なにかあったときに緊急コール。ボタンを押すとヘルパーステーションにつながって駆け付けるみたいな事業です。

中村中村
市川市川

ナースコールは建物内だけど、在宅とヘルパーステーションをつなぐ仕組みを提供していました。定期巡回は先程話しましたが、夜間対応型訪問介護も事業所が少ない。国の思惑ほど事業所数は増えていない。整備は大幅に遅れています。

小規模多機能型居宅介護と同じで、包括報酬が安いから手をあげる事業所が少ないということでしょうか。

中村中村
市川市川

それもあるかもしれませんが、数々の事業所の立ち上げを手伝っている中で、やり方の問題もあると思いました。そのやり方をわれわれで示せば、定期巡回・随時対応サービスを手掛ける事業所がもっと増えていくのではないかと。

運営がうまくいっていない事業所が多いのですね。やり方を示すとは、具体的にどういうことでしょうか。

中村中村
市川市川

経営的にうまくいっていないところは多い。理由は訪問介護の延長で運営するからです。24時間、包括報酬なので訪問介護の延長でサービス提供すると、絶対に赤字になる。人員も足りなくなってしまうし、そこをどう調整して正常化するかです。

訪問介護は訪問毎の報酬、30分や60分とサービス提供時間が決まっている。定期巡回は月ごとの包括報酬だから、5分で帰ってもいいわけですね。理解がないケアマネは訪問介護の延長でプランを組むから、必要以上の要望や要求される。まず、その調整が必要だと。

中村中村
市川市川

介護保険制度は自立支援を謳っていて、本人ができることは本人にやってもらうという考え。できないところだけをサービス提供して、生活を支えていく。そうなるとサービス量をうまく調整していかなければならない。訪問介護の延長だと、どうしてもケアマネの言われるままやってしまうというか。

なるほど。地域包括ケアシステムに必要な地域密着サービスを包括報酬することによって、大きく無駄な介護を省けるわけか。5分のサービス提供で済むところを、高齢者と会話をしたりして30分に引き延ばすのは無駄。施設も同じ。介護は合理化する。会話みたいなことは、また別物として考えたほうがいいですね。しかし、ケアマネがサービスを理解しないで、過剰な要求するのは大問題ですね。

中村中村
市川市川

ケアマネの無理解によって、要望を聞いてしまうケースがある。それは、すごくまずい。定期巡回は利用者さんが在宅で生活できるところを支える。時間を提供しているわけではなく、必要なことを提供している。頭を切り替えてもらう必要がありますね。

やることだけやって、すぐに次に行くというやり方に切り替える必要がある(市川)

訪問介護の延長で時間を提供するという考え方は、長い時間働けば、報酬がアップする。しかし、報酬が決まっている定期巡回は介護を減らしていく、合理化することが大切になってくる。それは今、まさに求められていることですね。

中村中村
市川市川

施設で働くスタッフは部屋に何分いなきゃいけない、みたいなことはない。排泄介助でも食事介助でも、目的が終われば出てくるじゃないですか。なにもなければ、そのまま確認だけ。それが当たり前。今までの在宅介護は時間を費やすという発想になっているのでなるべく、必要なことだけやってすぐに次に行くというやり方に切り替える必要があります。

ケアマネは当然ですが、スタッフの考えを切り替えることが最優先ですね。定期巡回と訪問介護の違いを、スタッフに繰り返し伝える必要がありますね。

中村中村
市川市川

定期巡回は訪問計画を事業者側で決めることができる。そこが訪問介護と違います。だから日々調整しながら、こちらからケアマネに提案しています。看護師が行ったアセスメントを元にして、日々こちらが接しているので、このサービスは減らそうとか、増やそうとか、そういう調整の繰り返しです。

介護サービスの合理化を目指すことで、個別対応もできる。定期巡回がうまくまわれば、在宅介護は大きく変わる可能性がありますね。人手不足対策の大きな起爆剤になるかもしれない。後半も引き続きお願いします。

中村中村
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