皆さんは介護施設の介護士と看護師は仲が悪いと聞いたり、または思ったりしたことはありませんか? 私は施設で働いてみて「仲が悪くて働きにく難い」と感じたことがあります。仲が悪いと仕事にも影響が出てしまいますよね。 現役介護士の夫の意見も聞きながら「介護士と看護師のすれ違い」をテーマに、若手介護士または施設に就職を希望される看護師の皆さんの役に立つような記事をお届けしていければと思います。
利用者の様子がおかしい
「介護士と看護師の間には深い溝があるんだよ」
私が特養に勤め始めて間もないころの話。4フロアあり、1フロアあたり11名の介護士が在籍していました。
勤務時間帯が細かくわかれているため、日勤帯では3~4名体制。
一方、看護師は基本的に1フロア1名。日によっては2フロアを1名で担当します。6名在籍しておりシフトを組んで対応していました。
特養での仕事初日。ある介護士(フロア主任)から「ここの施設は介護士と看護師の間に深い溝があるんだよ」と言われました。
深い溝? 何だそれは。隔たり? あぁ、仲が悪いってことかしら…。それもあえて「深い」とね。
その後も数人の介護士から同様の言葉を聞くことがありました。
しかし仲が悪い理由がはっきりと語られない。
同じ職場で働いているのだから、仲良くできればいいのに。日々の業務を行う中で「溝って…」と頭の隅にありながらも理解できずにいました。
介護士からの連絡
ある日の昼食時、介護士から「何かいつもと違う」と連絡があり利用者のもとに向かいました。
86歳女性、脳梗塞の後遺症で麻痺がありオムツを使用している認知症の方でした。食事は半介助で普段は全量摂取されているが「今は活気がなく、食欲もない」と報告を受けました。
バイタル(血圧・脈・体温・動脈酸素飽和度)に異状はみられず疼痛の訴えもなく、活気や食欲がない原因がわかりません。
座っていることが辛そうでした。体の中で何かが起こっている可能性はありますが、バイタルに問題がなく緊急性を要さないため、医師に報告する段階でもありません。
「バイタルに問題ありません。居室のベッドに横になって様子を見ましょう」と介護士に説明し医務室に戻りました。
医務室で利用者のカルテや看護記録を見ると、既往歴に誤嚥性肺炎があり以前も活気がなくなった後に発熱していました。
これから発熱する可能性が考えられます。
理解できない苛立ち
1時間後、再び介護士から様子がおかしいから来て下さいと連絡があり訪室。
利用者は顔色が悪く悪寒が出現していました。肺雑音はなく微熱程度。布団を二重にして保温を開始しました。
私が「悪寒があるから保温して様子を見ましょう」と伝えると、「様子を見ていたら具合が悪くなったんだよ。いつまで様子をみるんだ?」とやや苛立った口調で言われてしまいました。
いつまでって…悪寒が始まって発熱するまでは個人差があるし、はっきりとした期間はわからない。今は次の変化が出るまでは経過をみるしかないのよ。
そこへ年配の看護師登場。私が状況を説明すると、「大丈夫よ。様子を見ましょう」と言い医務室へ帰って行きました。
そうよね、今は経過をみるしかないし、
と私も居室を出ると、介護士たちの苛立った声が聞こえてきました。
「あの看護師はいつも『大丈夫、様子を見ましょう』としか言わない。大丈夫じゃないから報告しているんだろう!」
あれ?何で怒っているの?今は本当に出来ることがないのよ。

しかし、それから30分後に発熱して38.8度まで上昇してしまいました。
悪寒が消失したのでクーリングを開始。医師へ報告、解熱剤と抗生剤の指示を受けて内服。その後、再度発熱はあったが他に症状はなく解熱剤で下降していき、翌日の昼からは食事も普段の半分ほどは摂取できるようになり、無事3日後には普段の活気・食事量へと戻っていきました。
予後
結局、発熱の原因は不明のままでしたが、悪寒・発熱以外の症状がはく内服薬で改善しました
ただ、高齢者は抵抗力が低いため急変する可能性はありますが、今回は通常の発熱時の症状と変わらない経過でした。
幸い、普段と違う状態を介護士が発見してくれたため、その利用者を個別で経過をみることができました。急変したとしても早急に対応ができたと思います。しかし、まだ症状の経過をみている段階での、介護士の苛立ちは理解できませんでした。
看護師同士だと会話に問題を感じません。
でも介護士だと伝わらない?状況の説明不足でしょうか。
どう説明すればよかったのかしら…。介護士と看護師では同じ利用者を見ていても見方が違います。
それは職種が違うから見方が違って当たり前だと思います。介護士がどのような視点で何を見ているのかを知らないと、何がわからないのか理解できない。
介護士とは何ぞや。そこから知っていく必要がありそうです。
振り返り
どこに問題があったのか?
今回、看護師からの「大丈夫」という言葉には「今は熱が出るまで、もしくは次の症状が出るまでは対応することがない。このまま様子をみるしかない。」との内容が含まれていました。
介護士側からすると同じ内容で受け取ってもらえていないかもしれません。
看護師は利用者の状態をみて医師に報告する必要があるか、医療的介入を行う必要があるかを判断します。
発熱の場合は、医師への報告または受診の目安は38.8度以上の熱、水分が摂れない時、熱以外の症状(意識低下・嘔吐・咳・排尿がないなど)が出現した時です。
ただし、高齢者は体の機能が低下していて症状が出にくい。さらに認知症で症状を自覚し訴えることができないケースが多いため、早期発見が難しくなります。入居者の日常の状態を知っている介護士からの「いつもと何か違う」という報告は看護師にとってとても重要な情報になると私は思います。
豆知識 発熱について
施設で、医療介入が多い症状は感染症による発熱です。
感染症とは細菌やウイルスなどの病原体が体に侵入して起きる病気です。病原体が体に侵入すると体は熱を出して病原体を弱らせます。熱は病原体やウイルスが発しているのではなく、体が出しているのです。
熱が出るときに悪寒が現れた場合は保温し、逆に熱が出きって熱い場合は冷やし(クーリング)ます。
高齢者で最も気を付けるのは脱水です。水分が足りないと汗もかけず熱がこもりやすく熱が出ている期間が長くなります。こまめな水分摂取が必要です。経口摂取補水液など少し塩分が含まれるものが良いでしょう。
しかし、嚥下障害がある利用者に対しては飲水時に誤嚥する可能性が高いため注意が必要です。
高齢者は抵抗力や基礎体力が低いため症状が出現したときに重症化しやすくなります。さらに、慢性疾患や認知症があるため個別の対応が必要になります。
高齢者の発熱時の適切な対応を行うために、症状や経過のパターンを知っておくことは大切なことだと私は思います。
介護士(夫)からの意見
何故、「大丈夫」という言葉に介護士がイラついたのか夫に聞いてみた。
『大丈夫=通常の利用者の状態』であって、通常と違う利用者は、はっきり言って大丈夫ではない。しかし、看護師は大丈夫と言う。介護士の「大丈夫って何が?」という反応は当たり前じゃないか。しっかりとした説明が欲しい。
普段と様子の違う利用者の、いつ症状が悪化するかわからない状態で経過をみているのは不安だ。すぐに医者に往診してもらうか、病院に受診するかして欲しい。
日勤帯で様子をみて夜勤帯で受診になるケースがある。夜勤はスタッフが少ないため受診に人員を取られると個々人への負担が大きい。人手がある日勤帯に出来るだけ対応が済むようにして欲しい。
夜間の症状変化に対しての情報も申し送りがないと不安だ。
とにかく説明が足りない。発言や態度が上から目線に感じてイラッとする。
やはり視点に違いがあった
夫婦だからか言葉に遠慮がない。
でもこれくらいハッキリと言ってくれたほうがわかりやすいかも知れません。この記事を読んでくれている看護師の方の中にはハッとされた方もいるのではないでしょうか。
看護師同士だと症例に対し理解しているから細かい説明が必要なくなります。救急対応時に長い説明をしていると対応が遅くなり命にかかわるため、普段からできるだけ短い会話で済むようにしています。だから他の職種に人にとっては言葉が足りなくなってしまう。
さらに看護師は、曖昧な返答をしてしまうと医師を困らせてしまい患者の命にも大きく関わってしまうため物事をハッキリと伝えます。その表現や言葉が「気の強い人」や「威圧的・偉そうな人」ととられていると思います。
看護師は介護士から威圧的に見られやすいことを念頭に置き、介護士に伝わりやすい言葉や態度で接することが必要だと気が付きました。
まとめ
私はこのケースをきっかけに看護師の発言は誤解されることが多いことを知りました。
利用者に何かしらの変化・症状が出現した時に、今後どの様な症状の変化が考えられるか、どのタイミングで医師に報告が必要になるのかや、受診になる可能性などを介護士に説明するようにしました。
次回も引き続き看護師と介護士の視点の違いについて、具体例を挙げて説明していきたいと思います。

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