皆さんは介護施設の介護士と看護師は仲が悪いと聞いたり、または思ったりしたことはありませんか? 私は施設で働いてみて「仲が悪くて働きにくい」と感じたことがあります。仲が悪いと仕事にも影響が出てしまいますよね。 現役介護士の夫の意見も聞きながら「介護士と看護師のすれ違い」をテーマに、若手介護士または施設に就職を希望される看護師の皆さんの役に立つような記事をお届けしていければと思います。今回のテーマは「受診時の付き添い」です。

更新

頭部打撲は受診です

介護士から転倒の連絡


私の働いていた施設では16時頃に医務室で看護師同士の申し送りを行っていました。
 

看護師3~4人で約130名の利用者をみているため、自分の担当フロア以外も担当することがあります。

その日に変化があったことや情報共有したいこと等を報告し合い、どの看護師でも同様の対応ができるよう申し送りを行っていました。

看護師間での申し送りが終わったら、各フロアの介護士へ申し送りをしにいきます。


ある日の申し送り中に「転倒したので来て下さい」と介護士より連絡が来ました。

連絡を受けた看護師が「利用者の状態は? 傷や出血はありますか?」と問うと「ありません。横になってもらいました。」と返事が返ってきました。「わかりました、みに行きます。」と伝えて看護師全員で現場へ向かいました。

豆知識 看護師の得意科

豆知識

施設で働く看護師は人数が少ないため一人一人にかかる責任が重くなります。病院だと同僚や上司、医者など相談できる人員がいますが、施設だとその場で相談できる相手がいない場合が多く、判断に困る時があります。
そのため、何かあった時は看護師同士で声をかけ合い一緒に状況を把握します。看護師によって臨床経験も違うため、お互いに得意科を知るようにしています。私は脳神経外科と整形外科のある病院に10年働いていたため得意科は脳神経外科と整形外科になります。


私達は、バイタルセット(血圧計・体温計・パルスオキシメーター)を持ち、転倒した利用者の居室へ移動しました。夕飯前で利用者を食堂へ促す時間帯だったため雑踏としていました。

いざ利用者の様子を見てみると

 

利用者は82歳女性、既往に糖尿病・脳梗塞があり後遺症に軽い左麻痺があるが日常生活はほぼ自立が可能な方でした。

廊下に倒れていて自力で起き上がろうとしているところを介護士が発見したため転倒時の詳しい状況は不明。
「ちょっとつまずいたみたい」と申し訳なさそうに話しており、疼痛の訴えはなかったとの報告を受けました。

現在もベッドへ横になっており会話は可能。意識レベルの低下はなく、転倒後のため血圧が高めでしたが問題ない範囲でした。

あとは外傷部位がないか調べて…。

 

利用者の顔を見た時から気が付いていましたが、左前頭部に皮下血種がありました。

確実に頭部打撲をしています。皮下血腫部位にクーリングを開始しながら、利用者に痛い部位を問うが「ないわよ」との返事。四肢の動きにも問題ありませんでした。

受診は看護師に行って欲しい


看護師同士で「受診だね」「頭打っているからね」「抗凝固剤内服中じゃない?受診でしょう」と意見を出し合い、満場一致で受診決定となりました。

介護士へ「頭を打っているため病院へ受診しましょう」と伝えると「え、受診?今から?」と不満そうに言われました。

夕飯時で忙しいのはわかるけど、頭部外傷後の受診は早いに越したことはないのよ。

 

脳内出血を起こしていたら急変の可能性が高くなることを介護士へ説明。
 

介護士から「医師に報告は?」と問われたため「勿論します。受診指示は変わらないと思いますよ。」と伝え医務室に戻り医師へ報告。

医師より受診指示があり、外来の診療時間を過ぎていたため提携病院の救急外来の受診になりました。
 

看護師より「診察まで飲食しないで。内服薬を持参して、受診後の内服薬内容の確認と指示をもらってください。」と伝えると、「薬のことを言われてもわからないよ。医師になんて聞いたらいいのかわからない。専門的な事が必要なら受診は看護師が付き添って欲しい。」と言われてしまいました。

振り返り

介護士が抱いた不安と不満


私の働いている施設は看護師の夜勤はありません。夜間は介護士のみになります。

夜間に利用者の具合が悪くなると提携病院の救急外来へ、介護士より直接連絡して受診します。

夜間は看護師の付き添いは不可能になります。今回のケースも看護師の付き添いは出来ません。


薬に関しては、外来担当の医師宛てに手紙を書きました。利用者は脳梗塞の治療のため抗凝固剤を内服していて出血すると血液が止まりにくくなります。もし脳内出血を起こしていた場合、状態が悪化しやすくなります。医師により服薬休止の指示が出ることが予測されました。

頭部打撲していると脳内出血を起こす可能性があります。受傷時に症状がなくても数日後から半年後などに症状が出現する慢性硬膜下出血を起こすこともあり、経過観察が必要になってきます。

出血の有無は、頭の中の事なのでCTを撮らないとわかりません。

さっきまでは元気だったのに…。と、急に具合が悪くなる可能性があります。そのため頭部打撲時には受診しCTを撮る事が必要になります。受診・CT撮影は勿論医師の指示ありきです。
 

豆知識 頭部外傷(打撲)について

豆知識

頭部に対し外側から衝撃を受けると障害の程度によって脳に傷がついたり(脳挫傷)、血管が傷つき出血を起こしたり(硬膜下出血・硬膜外血腫)、たんこぶ(皮下血種)、頭蓋骨骨折などを起こすことがあります。脳の中で出血を起こすと出血が脳を圧迫したり、血腫を作り四肢の麻痺や言語障害を引き起こします。場合によっては死に至ることもあるため早めの対応が必要になります。
 

頭部打撲の症状は受傷直後に出るものと、数時間後から数日後や数ヶ月後に出るものがあります。頭を打ってから24時間~72時間は安静にして、症状がでなければ経過観察をします。
 

症状としては、めまい・嘔吐・四肢の麻痺・ボーッとする・頻回にあくびが出る・普段より反応が薄い・寝て起きないなどです。こういった症状が出現した時は救急外来に連絡し受診が必要となります。
 

高齢者は脳が萎縮していることが多く、少しずつ出血している場合では症状が出るまで時間がかかることがあります。

施設での対応としては早期発見のため受診してCTを撮ってもらうよう努めています。

受診すると必ず『頭を打った方へ』と題名が書かれた用紙をもらいます。そこには症状や注意事項などが記載されているため72時間は介護士詰所に掲示し、症状出現時に素早く対応ができるようにしています。その後用紙は受傷した利用者のカルテに綴じ、数ヶ月後まで対応ができるようにしています。

介護士(夫)から見た意見

転倒は介護士の見守りが不完全、マンパワー不足などで起きてしまうことがある。特に急がしい時に起こりやすい。減らす努力はできても完全に防ぐことはできない。

転倒で頭を打っていたら受診はすべきだと思う。そこに異論はない。でも、介護士だけで全ての受診に付き添うのは無理がある。看護師は受診の指示を出すだけではなく、受診付き添いも協力をして欲しい。

どの受診にも言えることだけど、医療的なことは看護師に対応してほしい。全部とは言わないが、医師の説明に専門的な内容が生じそうだと思われるケースなどは看護師に付き添って行って欲しいとは思う。介護士は医療の専門家でもなければ家族でもないので、少々責任が重いなと感じることはある。

まとめ


受診に看護師が付き添えればいいが、人数が少ないため対応しきれないのが現状です。

だからといって何もしないのではなく、少しでも介護士の不安を軽減できるように、個々に合った助言や、必要に応じて医師宛ての手紙を作成するなどして対応すべきと考えています。

薬に関しては、沢山の薬を内服している場合、一包化されていると錠剤がシートから取り出されているため一見何の薬か区別がつきにくい。

しかし、よく見ると錠剤は薬名や記号番号・数字が印字されていて調べると分かるようになっています。薬局から貰う薬剤説明書には各薬の情報が載っているため、介護士用にコピーし、看護師が不在の夜間でも医師の指示で中止薬が出た時は対応ができるようにしていました。
 

「受診付き添いは誰が行くか問題」に関してはケースバイケースになるため、ある程度のルールを作らないと不満が出やすいと思います。

私のいた施設では介護長と看護主任が話し合い、受診時は各長から付き添い者や交代要員の選定を行うことにしました。頭部打撲に関しては医師・看護師・介護士が話し合い、受診することに統一しました。

施設内でしっかりと話し合ってルールを決めることが大切だと思います。