皆さんは介護施設の介護士と看護師は仲が悪いと聞いたり、または思ったりしたことはありませんないですか? 私は施設で働いてみて「仲が悪くて働きにく難い」と感じたことがあります。仲が悪いと仕事にも影響が出てしまいますよね。 現役介護士の夫の意見も聞きながら「介護士と看護師のすれ違い」をテーマに、若手介護士または施設に就職を希望される看護師の皆さんの役に立つような記事をお届けしていければと思います。

更新

服薬管理

病院とは勝手が違う


施設の看護師の仕事は利用者の健康管理です。その一つに服薬管理があります。

私は施設で働くまで「服薬管理」とは「医師から処方された薬を間違う事なく利用者に内服してもらう」事だと思っていました。結果的にはその通りなのですが、実際の仕事内容は複雑でした。
 

利用者は慢性疾患を抱えている方が殆どのため、皆さん多くの薬を飲んでいます。

私の働いている施設では、毎月内科医師と精神科医師の回診があります。利用者の体調変化がなければ前月と同じ薬内容の処方箋が出ます。

看護師は処方箋の内容に間違いはないか確認をして提携薬局へ提出します。薬局から薬が届くと、専用のカートに薬をセットしていきます。


一人一人の薬が多いため科ごとに一包化しています。内科・整形外科・泌尿器科・精神科…と二重三重と重ねた薬包をホチキスで留めて、朝・昼・夕・眠前(漢方や糖尿薬等は食前)と分けて服用する日にちを記入。カートにセットした看護師とは違う看護師がセット内容に間違いがないか確認(ダブルチェック)をします。

大量の薬を仕分ける


対象者は約130名。以前は90日分を一度に処方していましたが、あまりにも数が多く間違いも多発するため60日分へ減らしました。

それでも薬包が届くと机に薬の山が出来上がっていました。


各フロアの担当看護師が中心となり、手の空いた看護師が手伝いながら作業を進めていきます。

作業中は私語厳禁ですが声出し確認をするため各自がブツブツ独り言を言っている異様な光景になります(笑)

介護士の力を借りざるを得ない




投与時は入居者の名前と日付け、いつ服用する薬(朝・昼・夕・眠前・食前・食後)なのかを確認し内服してもらいます。次に薬を飲み込んだかを確認します。開封後の薬包も残薬が無いか確認してから捨てます。

とにかくすべての行動に確認を行います。それでもミスは起こってしまいます(薬に関する事故報告書は多い)。
 

看護師が日勤帯しか居ないため看護師が投薬するのは昼食時のみです。朝・夕・眠前は介護士にお願いしています。そのためフロアへ運ぶカートは夕・眠前・明朝分の薬になります。

施設によっては全ての投薬を介護士が行う所もあります。施設の看護師の仕事内容に「服薬管理」とあっても、実際の内服対応は介護士が中心となっています。そのため、看護師と介護士との連携が重要になってきます。

異変に気付く


ある朝、前日渡した薬カートをフロアから回収するときに新しい薬袋が一緒に置かれていることに気が付きました。

介護士へ問い合わせると「昨夜、気が付いたら置いてあった」との返答があり、袋の中は薬シートがまるまる残っている状態でした。
 

昨日居た看護師に確認すると、「退勤直前に薬が届いたからフロアへ渡し『飲ませてね』と介護士へ伝えたのよ。何で飲ませてくれてないのかしら⁉」と驚いていました。

一体何が起こっているんだ?

介護士の言い分


私はもう一度フロアへ行き、昨日の夜勤者へ状況を確認しました。

介護士曰く「昨日夕食時に看護師が来て『薬が出たから飲ませてちょうだい』と言って薬袋を置いていった。何の薬なのか、いつ飲ませるのか分からなかった。

食事介助や誘導で忙しい時間帯に、説明もなしに置いて行かれると困るよ。そんな状態で渡されても無責任に飲ませられない。」とあきれ顔で言われました。

…ごもっともです。

再度看護師に『飲ませてね』以外に説明したか問うと「袋を見れば飲み方は書いてあるでしょ?」と、こちらもあきれ顔。

…あー、うーん。そうだけどねぇ、施設の看護師としては無責任な対応ですよ。


結果的には大丈夫だったけど…


詳細を調べると、薬が処方された利用者は一昨日から微熱があり、昨日回診時に医師へ報告。

尿路感染症を繰り返している方だったため、「今後も熱が継続するようなら抗生剤の内服を開始をしましょう」と指示が出て処方された抗生剤でした。
 

微熱が出ていたため、夜間も検温し平熱に落ち着いていたとの記録あり。

医師へ報告すると、「多剤耐性菌になるとよくないし、抗生剤の服用はぜずに経過を見ましょう」と指示がありました。

私は一連の内容を看護記録へ記入しフロアの介護士へ記録内容を伝えました。
 

結果的に抗生剤の服用は必要なかったため事なきを得ましたが…。

豆知識 多剤耐性菌とは

多剤耐性菌とは、細菌のうち、変異して多くの抗菌薬(抗生剤)がきかなくなった細菌のことです。

なお、耐性菌・多剤耐性菌については、1970年以降、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が広がっており、2000年代に入って多剤耐性結核菌など、さまざまなものが全国に広がっていることが知られています。

感染経路は、手などについた細菌が、何かのきっかけで口などから入って感染します。

健康な方にとっての多剤耐性菌については、感染力や病気をおこす力は、耐性菌ではない細菌と同じです。したがって、一般的には健康な人の体のなかに入ったり、皮膚や粘膜の表面についたりするだけでは、すぐに病気になるわけではありません。

では、どのようなことが問題になっているのか。

体の抵抗力が落ちているときなどには、多剤耐性菌による感染症にかかることがあり、この場合、抗菌薬(抗生剤)がきかないため、治療が難しくなります。

膀胱炎や肺炎などの感染症にかかって、抗菌剤(抗生剤)などの治療をしてもよくならない場合は詳しい検査をする必要があります。詳しい検査ができるところは、専門の検査機構などに限られています。主治医が詳しい検査が必要だと考えた場合に検査をします。

多剤耐性菌に有効な消毒方法は、腸管出血性大腸菌(O-157など)やサルモネラなどの食中毒をおこす菌と同じように、加熱やアルコール系などの一般的な消毒薬が有効です。

*厚生労働省HP「多剤耐性菌について一般の方向けの情報(多剤耐性アシネトバクター、NDM-1生産多剤耐性菌についての情報です)」資料参照


施設に入居している方は高齢で抵抗力が低い方が多いです。軽い感染で症状が出て悪化しやすいため、よく抗生剤を使用しますが、今後抗生剤の効果がないケースが増える傾向が予想されます。

症状を繰り返している方や症状の変化を観察し、医師への情報提供を行う事が大切です。
 

そのためには利用者の一番近くにいる介護士からの情報提供が必要です。

適切な情報を得るためには、看護師から介護士への適切な情報提供も必要です。普段からの連携が必須だと思います。

振り返り

薬の説明はしっかりと


今回、私は看護師が臨時で処方された薬を介護士へ丸投げしていたのではないか?と思いました。

相手が看護師だった場合は同様の対応をされたとしても、不明な内容を調べたり、服用前に利用者の状況を医師へ報告し服用の有無を問い合わせることもできます。
 

しかし、他職種の介護士に服用を依頼する場合は、薬の用法・容量・医師指示の内容等を申し送る必要があります(勿論、看護師同士でも必要です)。

薬袋を見れば用法・容量は書いてありますが、ただ見ればいいという事であれば看護師は必要なくなります。

なぜ施設に看護師がいるのか、必要とされているのか。そこを考えて行動する責任があると私は思います。
 

薬を渡された介護士は、「忙しい時間帯にやってきた看護師に説明もなしに薬を渡された」という認識になります。

実際に投薬を担当する介護士が不安になるのは当然だと思います。

「不安だから飲ませなかった。」

「不安だけど看護師が言ったから飲ませた。」

個人での対応が違っても仕方がありません。根本的には看護師の説明不足が原因です。

介護士(夫)より


薬に対しての看護師への不満は沢山あるよ。

いくら薬内容の説明をされたとしても、作業中に早口で口頭だけで終わっていたら、仮に言われた介護士が理解できたとしても、直接聞いていない介護士が投薬介助を担当していたら判断に困るよね。

介護士はそれぞれ業務の担当を分けて作業を行っていくことが多いから、誰が見ても分かるようにしてもらわないと。
 

食事時の投薬は介護士が主に担っているから、利用者がどんな形状の薬を何錠服用しているかは把握している。

突然の変更や増量・減量があると、内容が間違っているんじゃないかって疑う。

それを調べることに時間を割くことは難しい。不安と不満で看護師に対しての信用がなくなるよ。

まとめ


薬さえ介護士に渡しておけば投与してくれるという看護師の行動は不適切でした。

今回の件で改めて「服薬管理」に対して対策を介護長も交えて検討しましました。

各フロアに、投与が必要な利用者名簿を作成しました。内容は、日付・朝・昼・夕・眠前・食前のチェック欄と変更等の記入欄、ダブルチェックした看護師と投薬した介護士のチェック欄のある表になります。

看護師がその表と一緒に薬カートをフロアへ持参して当日の夜勤者に直接渡し、そこでも看護師と介護士間で薬の間違いはないかチェック。

その時、変更があれば看護記録の印刷を渡し申し送りを行います。
 

お互いに時間がかかる作業となりますが、精神的な不安はなくなり、その場で意見交換もできて投薬ミスも減りました。

作業が浸透するまでは時間がかかりましたが、慣れてくると掛かる時間も短縮していき会話も増えて、お互いの関係性も良好な方向へと進みました。


 何事も新しい取り組みを創めると抵抗があります。その都度意見を聞き、説明しました。全てを納得したとはいきませんが、お互いの歩み寄りは増していると思いました。