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特養で行う夏祭り


特別養護老人ホームは「終の棲家(ついのすみか)」と言われています。

利用者の現住所は施設の住所になり24時間365日施設で過ごします。日常的に外に出ることはほぼありません。見方によってはとても閉鎖的な空間になります。
 

外部からの刺激がない環境が続くと、気持ちが落ち込んだり認知症が進んでしまいます。

利用者が「安全安楽」に施設で生活して頂くためには娯楽はとても重要になってきます。

出来るだけ刺激を感じて欲しいため、介護士は利用者の個々に合った娯楽内容を考えます。

塗り絵、折り紙、カードゲーム、ボール遊び、輪投げ、カラオケ、DVD鑑賞など。お花見や外食も行いますが、行ける方は限られます。そういった行事の中で一番大がかりなのが「夏祭り」です。

全員で運営 


私がいた施設は社会福祉法人です。地域の方々との交流も兼ねて夏祭りは一般公開します。行事委員会が中心となり、夏祭りの日程や内容、外部との連携を行っていきます。

毎年8月の第3土曜日の夕方から2時間程開催します。人手が必要となるため職員は全員出勤となります。日常業務と祭り準備と別れて作業を進めます。祭りは夕方からなので全員残業になります。
 

病院では職場で行事等は行いません。職場での「お祭り」は初めての経験です。

昨年経験した看護師に聞くと「色々出店がでて面白いわよ。職員にはお弁当が出るの。そのお弁当が美味しくって!」とお弁当の話になってしまいました。

弁当を食べるために残業すんのかい?

と心の中で突っ込みながら、看護師の業務内容を問いました。

「医務室に待機していればいいの。何かあった時に対応すればいいのよ」だそうです。

ほんとに?違うと思うが初めてだから、どう動けばいいのかわからない。

とにかく当日は様子を見ることにしました。

豆知識番外編 社会福祉法人とは

社会福祉法人は、社会福祉事業を行うことを目的として社会福祉法に基づいて設立されている法人です。公益性(地域社会のために活動)の高い非営利法人(利益を目的としていない)であり、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ公正に行っています。

福祉を必要とする人々の生活に直結するサービスを提供しているため、設立にあたっては、高い公益性、安全性、非営利性といった条件をクリアしなければ認可されません。たとえば、社会福祉法人が所有する資金は原則として、社会福祉事業以外に使用することができず、株式会社のように出資者への配当等の利益処分は許されません。

また安易な撤退も許されず、解散した場合の残余財産も私人には一切帰属せず、国庫または他の社会福祉法人等に引き継がれます。

*全国社会福祉法人経営者協議会 資料参照


私の働いている施設では、談話スペースで地域の方に開放し、施設主催のお茶会や体操教室を行っていました。委員会や内部研修も活発に行っており看護師からは、急変時やAED指導など定期的に実施していました。

全て職員でやるんだね(当たり前か…)


夏祭り当日。開催場所の1階ロビーと談話スペース、解放された会議室とそれに続く廊下の天井には「祭」と書いた赤い提灯が飾られていました。

それだけでもう非日常的に感じます。会議室では水風船を作ってビニールプールに浮かべたり、輪投げの設置や景品の駄菓子や玩具を並べたり。

談話スペースでは飲み物とかき氷、玄関スペースではわたあめと焼きそばの販売準備をしています。

ロビー中央には和太鼓が設置されており介護士が出し物の練習をしています。
 

全ての作業を介護士が行っていました。

私は想像以上に本格的な祭り仕様に驚きました。
 

看護師も全員出勤しているため日常業務は人手があり時間に余裕があったため、アトラクションを見て回る気分で各作業を見学。

「本格的だねぇ! すごいねぇ!」と声をかけながら見て回りました。
 

フロアへ行くと、心なしか利用者も浮足立ってる感じがしました。

介護士から「今日の夕飯は普段より時間が早いから」と言われました。普段の夕飯は17時30分からですが、祭りの開催が17時から19時までなので今日は16時からになるとのこと。

「え、そうなの?他にいつもと違うことある?」と介護士に質問しました。
 

介護士の動きについて細かく説明をしてくれたもののお祭り中の看護師の動きについては「医務室にいるんじゃないかな?」と首を傾げながらの返答でした。

何だかここでも介護士と看護師の距離というか、認識の違いを感じてしまいました。

夏祭りは危険がいっぱい


お祭り当日の状況に振り回されながら気が付けば17時、開催時間です。1階ロビーに行くと地域の子供達や一般来客、ボランティア団体の方々で溢れかえっていました。

ボランティアの方々は盆踊りやフラダンス等を披露して頂けるとか。
 

そこへ利用者が(ほぼ車椅子移動)参加していきます。売り子役の介護士は法被を着てもてなしています。

本格定なお祭りで熱気が凄く、驚きました。

熱気?室内なのに暑いね……午前中に雨も降ったため湿度も高い。いかんいかん!これじゃぁ具合が悪くなっちゃうよ?
 

私は室温湿度を確認しエアコンの温度を下げました。

風通しを良くするために天井近くの小窓を解放。売り子をしている介護士に水分補給と交代での休憩を促し、利用者の誘導をしている介護士に利用者への水分摂取を伝えました。みんな作業に一生懸命で汗だくです。

しばらくすると過ごしやすい体感になってきました。せっかくの楽しいお祭りなのに具合が悪くなってしまっては台無しですからね。

医者の出番発生!


様子を見に来ていた委託内科医を見かけたため一緒に巡回しました。一般の来客に交じって歩いていると白衣が目立ち、自分の職場なのにコスプレしているようでちょっとむずがゆい感じがしました(笑)。
 

すると突然前方より「お母さん大丈夫⁉」という声が聞こえてきました。

声の方へ急いで行くと車椅子の利用者とご家族がいました。利用者は咳き込んでいます。
 

ご家族は手に食べかけの焼きそばを持っていたため誤嚥してしまっている様子。

直ぐに内科医が対応したため私は「吸引機持ってきます」と走り始めようとしましたが、医師が「大丈夫、取れたよ」と引き止めてくれました。
 


利用者は肺雑音も無く、バイタルも問題なかったためそのまま経過を見る事になりました。

ご家族には焼きそばは食べさせないよう声を掛けると「大好きだったから食べさせたくて。でもしょうがないですね。具合が悪くなったら大変ですから…」と残念そうに肩を落としていました。
 

ご家族は利用者が普段は極刻み食を摂取していることを知っていたのですが「少し位だったら」と食べさせてあげたと話していました。

今回は大事に至らず、内科医に診てもらうことも出来たため良かったですが、今後同じことが起きないように対策が必要です。

振り返り


今までは施設で行う行事に看護師は参加しておらず、具合が悪くなった時の対応のみでした。

そのため行事に対する情報が少なく、介護士と看護師の協調性などありませんでした。

これでは予防や早期発見はおろか、事後対応のみになってしまい、利用者に不利益です。

行事を行うことによって利用者にどのような影響や変化が起こるのか、医療的視点で関わっていくことが重要です。

介護士(夫)より

一緒に働いている仲間意識を持って看護師も準備段階から行事に参加してほしい。

年一回の行事だから利用者はとても楽しみにしている。食事制限のある利用者にも本人の希望があれば食べる許可を検討してほしい。
 

祭り当日は施設全体が浮足立っている。事故が起こりやすい。

祭りの開催場所だけでなく、フロアにも利用者はいるから、分担してフロアも巡回してほしい。開催場所には看護師の待機場所を確保し対応してほしい。

まとめ


当時は看護師が関与していなかった夏祭りでしたが、数年後には夏祭り委員会が発足され、事務と看護師も参加するようになりました。

日程や開催場所の検討、焼きそば・わたあめ・かき氷等は希望利用者の名簿を作成、医師の摂取許可の確認、看護師の役割表を提示等々、意見を出し合い各部署と連携を取り開催することに。

委員会の議事録を配布し施設職員が準備段階から周知し作り上げていけるように改善。意見がぶつかれば「利用者にとっては何が最善か。どうしたら安全にお祭りを楽しめるか」を意識して話し合っていました。
 

同じ目的に向かって介護士・看護師・他部署と一丸になって取り組む行事は大変ですが、終わったあとに達成感を一緒に感じられ、笑顔で「お疲れ様」を言い合えます。

利用者のための夏祭りですが、介護士・看護師間のコミュニケーション促進にも充分貢献している行事だと思いました。