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排便コントロール


今回は排便に関するエピソードです。

浣腸に追われる日々


私が施設で働き始めた当初、驚いたことがあります。

それは浣腸を必要としている利用者の多さです。

数字的なことで比べると療養型病棟では25人中3~4人であるのに対し、施設フロア25人中6~7人。約倍の人数です。それがほぼ毎日。


午前中は浣腸処置に時間をとられてしまい他の仕事が出来ません。

他の処置を行って時間が経ってしまうと利用者は昼食のため食堂へ移動してしまいます。午後に行えればよいのですが、午後はレクリエーションやリハビリ、入浴等があります。

浣腸のためにわざわざベッドへ臥床し、オムツ交換を行う時間を確保することは現実的ではありません。
 


病院のように治療や処置が中心の場所ではなく、生活の場である施設では看護師の都合のみではスケジュールを決められません。

レクリエーションを楽しみにしていた利用者は気分を害したり、入浴拒否がある利用者は処置の拒否や不穏が強くなったりします。

そのため、フロアの介護士に本日の日程を聞いて、どのタイミングで浣腸を行うかを決めて実施します。

看護師は浣腸の必要性を調べるために、バイタル・腹部の聴診・打診・触診・直腸診の順に行い、食事量・最終排便量・便の貯留状態や便性状をアセスメントすることが必要です。

 

初めは介護士に依頼されるままに浣腸を行っていました。3日間排便が無ければ浣腸対応者として名前があがります。

でもそうすると毎日浣腸処置に追われる日々になってしまいます。

何故3日?


介護士に質問しました。

「3日も出ないとお腹が苦しいし、浣腸後の便が多くておむつ交換が大変になる」とのこと。利用者によっては便をいじり寝衣やシーツに汚染が広がり一人に掛ける時間が多くなってしまうらしい。
 

豆知識 便秘とは?

便秘は、日本消化器学会では「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。一般的には「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある場合」と言われていて、2~3日に1度の排便でも満足していれば便秘とは考えにくく、個人差があります。しかし、高齢者で認知症がある方には便意自体の認知がなく不快感の有無ははっきりしません。

病院では便秘の患者へはまず下剤を内服してもらい、反応が無ければ最終的に浣腸を行っていました。

出せばいいってもんじゃない


ある日の午後、「便が出ないから浣腸してください」と介護士から連絡がありフロアへ行くと「こっちです。」とトイレより介護士の声がしました。

「便意を訴えたから便座に座らせてみたけど、少ししか出なくって」と説明がありました。私は「少しでも出ていたら浣腸しなくても摘便で出ると思いますよ」と介護士に伝えて腹部を触診し下腹部に張りを認めてから肛門診をしました。

便が確認できたため摘便を実施し、硬便の排出後は自力にて排便。再度腹部を触診すると下腹部の張り感はなくなっていました。


またある日、介護士から「ちょっとおかしいから来て下さい!」と焦った声で連絡がきました。

急変かもしれないと、医務室に居た他の看護師と一緒に急いでフロアへ行きました。居室で臥床している利用者の意識がなく、顔色が良くありません。

呼びかけながら血圧測定を実施。血圧70台です。


直ぐに下肢を挙上しました。数回呼びかけると目を開けて返事をしてくれました。

血圧も再検すると80から90台へと上昇し顔色も良くなってきました。

利用者の意識が戻りほっとしましたが、…何だか臭います。オムツを開けてみると、水溶性の下痢が多量に出ていました。


介護士より「おむつ交換をしようと訪室したら、利用者の変化に気づいたんです。」と言われました。

一緒に訪室した看護師と「これはショック起こしたよね」「そうだね、排便ショックだよ。」と意見交換しました。

担当看護師は他の利用者の受診に付き添って不在のため、介護士に下剤を使用したか聞くと浣腸を使用していたとのこと。


医師へ報告し、この利用者は今後は浣腸禁止となり、下剤服用の指示がでました。

その後、ショックを起こした利用者は、血圧120台まで上昇し、下肢の挙上を解除。意識レベルも普段と変わらず、往診した医師より「受診は必要なし、経過観察を」と指示が出ました。

浣腸を使用して出せばいいってもんじゃありません。

まずは下剤を服用し反応をみましょう。浣腸はどうしても使用せざるをえない場合に限ります。

豆知識  排便ショック

排便排尿をすることで感覚・運動神経の一つである迷走神経が刺激されます。
迷走神経が刺激されることで、血圧の低下やめまいの症状が誘発されます。
副交感神経が優位になる排便時は、肛門括約筋という便を出す筋肉が緩みます。筋肉が緩むというのは、自律神経の副交感神経が優位になっている状態です。

自律神経は交感神経と副交感神経からなります。

交感神経が優位になると、興奮・血圧上昇します。排便により、副交感神経が優位になった結果、血圧が下がりふらつきます。

便秘時、力むと血圧が上がり、排便後、血圧が下がる。結果、迷走神経が刺激されショック(排便ショック)を起こしてしまいます。

高齢者は下剤を使用し下痢を起こすと脱水を起こすこともあるため、使用する下剤は少量からしようするなど慎重に対応しなければなりません。

振り返り

下剤の取り扱い


浣腸ばかり使用していてはいけないと思い、内服薬の下剤から開始して量や種類を変え反応をみて、最終的に浣腸(使用可能な利用者のみ)を使用することにしました。

介護士に伝えると「下剤を追加して直ぐに出ればいいけど」「出来るだけ日中に出るようにして欲しい」「夜勤中に便失禁や便いじりが多いと対応しきれない」「散剤(粉薬)は飲めない利用者が多いから錠剤にして」等、色々な意見が出ました。


下剤の種類は沢山あります。利用者個人によって効果の違いも出てきます。どの下剤を服用したら効果が出るのか、またどの位の量・期間で効果が出るのかを調べていかなければいけません。定期薬の中に下剤が処方されている方もいます。重複して追加処方とならないように利用者の定期薬の下剤を確認しました。

介護士(夫)より


浣腸対応の利用者が多い事には驚いたよ。

詳細は分からないけど、下剤が追加されてもちゃんと服薬出来ていなかったり、排便があっても記録が漏れていたり色々あるから、使用して直ぐに効果がある浣腸を使用していたんじゃないかな。


腹部の張りを確認しないで、ただ下剤を追加する看護師はどうかと思うよ。

トイレに行ける利用者でも、認知症があるから排便があっても覚えてない方もいる。本人の申告だけで下剤を追加すると下痢になったり腹部の不快感から不穏になったりするからね。

まとめ


始めは日中・夜間と時間帯を問わず反応便があったり、下剤を追加し量を増やしても反応が無かったりと介護士・看護師を悩ませました。おむつ交換やトイレ誘導の後に反応便があり再度おむつ交換を行うこともありました。

薬の中で下剤は軽んじている印象がありましたが、下剤での排便コントロールを実施することによって「たかが下剤。ではなくて、されど下剤。」という認識へ変わってきたように思います。


朝、フロアへ行くと、まずは便秘者の確認をして、いつ下剤を追加内服するかを介護士と看護師間で意見交換します。

そうすると実施時にはお互いに声掛けをするようになりました。お互いが協力して業務を行い反応便があると「出たね!良かったね!」と笑顔が生まれスッキリ感が湧いてきます(私だけでしょうか?笑。