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楽しんで欲しい気持ちはわかります

急な呼び出し

 

ある秋晴れの日曜日、お昼のこと。医務室に1本の電話がきました。電話に出ると介護士より「ご飯が詰まりました!すぐに別館に来て下さい!」とかなり焦った声で連絡がありました。

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「直ぐ行きます!」と返事したものの、私は別館がどこにあるのか知りません。連絡を一緒に聞いていた看護師2名に場所を聞いても知りませんでした。とりあえずバイタルセットと吸引機、酸素ボンベを持って3人で医務室を出ました。通りすがりの介護士に「別館ってどこ!?」と声をかけて急いで連れて行ってもらいました。

 

別館は施設の敷地内にある2階建ての建物。走って中に入ると、すぐに人だかりを発見、直行しました。そこには3名の介護士と1名の利用者がいて、車椅子に座っている利用者は顔面蒼白で意識がなく呼吸も止まっているように見えました。

 

私は一瞬「間に合わなかったかも…」と思いましたが、躊躇している暇はありません。介護士に「吸引するからどいて!」と言って車椅子の隣に吸引機を置き「○○さん!聞こえる?ごめんね、吸引するよ!」と、ぐったりしている利用者に声をかけて吸引チューブを口腔から咽頭へ挿入しました。

 

他の看護師は、バイタル測定と酸素吸入の準備、そして吸引しやすいように利用者の身体を支えます。その間も「○○さん!聞こえる?わかる?」と利用者に声をかけて意識状態を確認しながら、介護士に何を食べて詰まらせたか状況確認と経過を聞きました。

 

外食のリスク

 

話を聞くと、今日は月に1回の食事会だったそうです。食事会では、常食を自立して摂取可能な利用者を数人集めて、出前を取って普段と違う場所で昼食を摂るのだそうです。

 

しかし、常食の利用者は減っていたため、刻み食の方も参加するようになっていきました。介護士は固形のおかずを刻み、利用者が食べやすいように介助します。

 

今回はちらし寿司を掻っ込むように勢いよく食べている途中で詰まらせてしまったそうです。普段はゆっくりと食べる方でしたが、非日常的な環境がそうさせてしまったのかと介護士も驚いていました。

 

吸引されたものを見てみると咀嚼されていないものもありました。丸呑み状態です。これでは詰まってしまいます。吸引したことで詰まりが解消し意識も戻りましたが、酸素濃度の値が低かったため酸素吸入を開始しました。

 

医師へ連絡し状況を報告(一時的な意識消失・誤嚥性肺炎のリスクあり・酸素吸入が必要)すると救急搬送の指示があったため、すぐに救急車を依頼し、ご家族へ連絡しました。

 

救急搬送となったこの利用者は、約1週間入院し以前と変わらない状態で退院。処置が間に合ってほっとしました。

 

 

ちなみに、施設の行事で食事会が行われていたことを、看護師は知りませんでした。今回のような事が今まで起きなかったのかはわかりませんが、今後は再発する可能性は充分にあります。利用者は年々高齢になっていきます。認知症が進み、嚥下機能の低下も進みます。事故が起きるリスクが高くなるため、何か対策を検討しなければなりません。

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豆知識 誤嚥・窒息

・誤嚥=食道から胃へ流れるべき食物や水分等が、誤って気管内へ流れ込んだ状態

・窒息=空気の通り道である気道が塞がれる状態。空気を取り込むことができなくなり、極めて短時間でも致命的となる

   

誤嚥による気道内異物や窒息は、乳幼児と高齢者に多く生じます。高齢者は、餅や肉塊などの食物を詰まらせてしまうケースが多いです。また、義歯や薬の包装容器による誤嚥事故(食道異物)の報告も多数あります。

 

脳梗塞や神経疾患の既往がある高齢者では嚥下運動が障害され、飲み込みにくくなっていることも。また咳反射が弱くなっていることも誤嚥や窒息を生じやすくさせています。

 

誤嚥の典型的な症状としては、食事中に激しいむせと咳が生じ、呼吸困難になること。顔面が紅潮し、時に紫(チアノーゼ)になります。重篤な場合は、咳や声も出なくなり、手で首をつかむような形になったまま意識を失うこともあります。その際は急激に口唇や顔色が紫色になっていきます。

 

 

窒息が生じた際には、以下の通り早急に気道の異物を除去する必要があります。

 

・指で掻き出す

異物が口の中や咽喉に溜まって、外から見えている場合に行います。口腔内が見える位置に立って義歯を外し、ガーゼを巻いた指を用いて異物を掻き出します。

 

・背部叩打

異物が詰まったり固まったりしておらず、動く場合に有効です。座らせるか横向きに寝かせて、左右の肩甲骨の間を、手のひらの付け根近くで数回叩きます。

 

・腹部圧迫法(ハイムリッヒ法)

腹部の急激な圧迫により胸部(胸郭内)・気道内の圧を上げて異物を吐き出させる方法です。

 

意識がない場合、早めに救急車を要請しましょう。窒息に至らなくても、高齢者の誤嚥には注意が必要です。

 

食物や胃液の気管流入は、肺炎の原因になります(誤嚥性肺炎)。典型的な肺炎の症状(咳 や発熱)が出ないことも多く注意が必要です。

 

また、義歯や薬の包装容器などの鋭利なものは、食道や腸に引っ掛かり穴をあけることがあります。認知症や精神・神経症状を有する高齢者は、予想外の物を口にする場合があるので要注意です。

振り返り

外食を楽しむために

 

私が働いている施設では毎月1回の食事会と年1~2回の外出レクリエーションがありました。以前は看護師も参加していたそうですが、一時期在籍人数が減りレクリエーション等が参加できない状況になり、さらに険悪な状態も重なって連携が滞ってしまっている状況でした。

 

看護師:誤嚥のリスクがある事は行わない

介護士:利用者に楽しく食事を食べて欲しい

 

このような意見の違いがあり平行線のまま経過していました。

 

病院では患者が外食を楽しむためにはどうしたらいいか?という問題には直面しません。外食自体が無いのですから。「外食にリスクがあるから行わない方がいいでしょう。」とも思いません。

 

一方、施設は生活の場です。もしも私がこれからずっと施設で生活しなければならないと言われ、自由に外に出られなくなったら窮屈な環境にストレスが溜まるでしょう。

 

月に1回の外食を楽しく安全に過ごすためにはどうしたらいいのか。

 

リスクを全て回避することができる方法があればいいのですが……。外食のリスクは誤嚥・窒息だけではありません。外出先への移動時の事故や、流行性感染症の罹患、寒暖差による体力の消耗、環境の変化による認知症の悪化などがあります。さらに、天候にも左右されます。看護師という視点で考えるとリスクだらけな気がしてきました。

 

介護士(夫)より

 

外食には看護師の参加はするべきだと思う。誤嚥・窒息時や何か急変があった時等に対応して欲しい。

 

看護師は介護士に比べて人数が少ないが、行事で参加が必要なことを認識して業務調整をして欲しい。利用者も看護師がいるだけで安心感も出てくると思う。

まとめ

 

外食・外出を行うにあたり、「どのようなリスクがあり、そのリスクに看護師としてどう対処するか」を介護士へ伝え話し合いを行いました。年間を通してのルールを決めて、その時々の細かい変更が必要な時は改めて話し合いを行い決めていくことにしました。

 

例えば、年間のルールとして夏の暑い日や雨の日、流行性感染症の時期は外出せず施設内の談話スペース等で出前を取る。流行性感染症時期に施設内で感染の危険が疑われる時は中止。

 

外食時は必ず看護師がポータブル吸引機を持参し参加する。施設内で行う時も食事時に看護師は参加する。

 

参加する利用者は前もって決めるが当日の状態によって参加有無を再検討する、等々。

 

上記以外にも問題が予測されるときは、その都度話し合いを行う必要があります。話し合いを行うことによって介護士・看護師の意見がわかり、どうやって利用者に安心安全に楽しんでもらうかを検討できるようになる。そして実施し利用者に喜んでもらえた時や笑顔が見られた時、連携が取れた一体感をお互いに感じているように思います。