おかずクラブ・オカリナさんと介護職の賃金問題を学んでいく「カイゴのおカネクラブ」。第4回のテーマは介護職の給与を決める経営サイドである事業所の実情について考えます。
介護事業経営コンサルタントの小濱道博氏を講師に迎え、「おカネの話が大好き!」なオカリナさんと、みんなが聞き辛いお金のお話を聞いていきます。
介護職の給料は事業者が独自に決めている
そもそも介護職の給料ってどうやって決められているんですか?
世間的にはそれほど知られていないのかもしれませんが、一般企業とまったく同じです。経営者がその事業規模に合った給料を決めているんですよ
調査で指摘される介護事業所の賃金体系
現行の介護保険制度の前は、1963年に老人福祉法が制定されており、「老人福祉制度」と「老人保健制度」に基づいて介護サービスが提供されていました。
三菱総合研究所では、厚生労働省からの委託を受けて、『介護事業所におけるモデル賃金体系に関する調査研究』を実施しました。その結果の内容をまとめます。以下のような介護事業所の賃金体系の特徴が浮かび上がってきました。
介護事業所の賃金体系の特徴
・事業所ごとに独自の賃金体系を設けている
・基本給が低く、手当が多い
・事務職や介護職、看護職など職種によって給与が異なる
賃金体系とは、従業員や職員の給与を決めるための仕組みのことで、賃金表や昇給表などを指します。
一般企業などではこうした制度を設け、定期昇給などの仕組みをつくって従業員にも共有されています。
調査で指摘される介護事業所の賃金体系
じゃあ、それぞれの介護事業所でもしっかりと昇給の仕組みは決められているけれども、職員が知らないだけということ?
そうとは限りません。というのも、この調査は比較的規模の大きな事業所が対象になっているからです。小規模な事業所では、経営者が独断で給与を決めているケースがほとんどです
一方、介護事業所は賃金体系が複雑化しており、職員にまで共有されずに経営サイドだけが把握しているケースもあるようです。介護事業所の規模を示す一つの区分である従業員数を比較すると、19人以下の小規模事業者は全体の56%に及びます。
小規模介護事業所は、いわば商店街にある小さな個人商店のイメージです。最低賃金といった基準はもちろんありますが、従業員に支払う給与は、事業で得られた利益を基に支払える範囲になります。個人商店がコンビニエンスストアのような利益構造を作り出すことが難しいように、小規模な介護事業所にも同様のことがいえるのです。
スケールメリットがもたらす事業所の利益
やっぱり小規模事業所のほうが給料って低いんでしょうか…?
一概には言えませんが、やはり規模の大きい事業形態に比べれば低くなりやすいですね。なぜなら、介護事業所の経営は「スケールメリット」が重要だとされているからです
介護事業所の収益は規模で決まる
スケールメリットとは、企業規模の拡大によって得られるさまざまな効果を指す和製英語です。規模が大きくなることで、経済生産性の向上や知名度が上昇し、利益の拡大に直結します。スケールメリットを享受できることは、データからも判明しています。
例えば、通所介護の赤字施設における規模別割合をみると、小規模(定員18人以下)と大規模(定員19人以上、月当たり利用者数901人以上)では、小規模の方が約12ポイントも多いことがわかります。
また、財務省の資料によれば、通所介護の月当たり利用者人数が901人以上の場合の収支率は6.4%。それに対し、同300人以下の場合は-1.8%になっています。
このように、介護事業所の場合は規模によって利益が大きくなるスケールメリットが顕著に表れています。介護事業に収支率は、定員や利用者数が担保している面も少なからずあります。
収支率の高い企業の方が給料が高いのは当然です。そのため、介護職員の給料を上げるためにも事業所の規模を拡大できるかどうかがカギを握っています。
このような動きを鑑みて、政府は介護事業所の「大規模化」を促進する意向を示しています。財務省は業務効率化という観点からも、介護事業所の経営規模拡大を訴えており、今後は新たな加算も含めて検討すべきだと主張しています。
現在、介護業界では大企業によるM&Aが活発化していますが、それ以外にも小規模事業者による「協働化」も進めています。
2022年4月から始まった「社会福祉連携推進法人制度」もその一環です。小規模事業者が連携して、介護職員の研修事業などの費用負担を軽減するような形式です。
例えば、有名な講師を呼んで勉強会やセミナーを開くのに10万円かかるとしましょう。これを1つの事業所で行うと10万円かかりますが、10の事業所が連携すれば1万円で済みます。このように連携して経費を抑えることで、経営の安定化を図れるようになりました。
小規模事業者は人材不足で規模の拡大ができない
…つまり、小規模な事業所でも、将来的に規模を拡大できれば職員の給料も上がるってことだ!
理論的にそういうことです。しかしながら、小規模事業所は慢性的に人材不足に陥っているので、規模を拡大できないといった事情があります。
介護業界では長らく人材不足が叫ばれています。どこの事業所でも人材を確保するのが精一杯で事業を拡大するための人材育成まで手が回っていません。
『介護労働実態調査』によると、人材不足を感じている事業所は、60.8%に達しています。
中でも深刻なのは人材の高齢化です。例えば、訪問介護員は4人に1人が65歳以上となっており、さらに有期雇用者も約25%となっています。つまり、高齢のパートタイムが多く、将来的に後継者となる人材が不足しているのです。
好調な小規模事業者が規模を拡大しようにも、別の事業所を任せられる人材がおらず、現状維持を選ばざるを得ないという事情もあります。
職員のスキルアップと人材育成がポイント
そんなぁ…どんなに頑張っても給料が上がらない可能性もあるってことですか?おカネいっぱいほしいです…
(笑)。そんなことはありませんよ。資格を取得すれば、規模に関係なくほとんどの事業所で「手当」がもらえますのでご安心を。ただ、ひとつ考えていただきたいのは、職員も一般企業と同様だということ。個々人がステップアップのためにより大きな事業所へ転職することもお給料を上げる基本のひとつです。
将来的なステップアップを考える
介護事業所には、さまざまな手当がありますが、なかでも規模に関係なく設けられているのが「資格手当」です。ステップアップできる資格は、介護福祉士や社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)などが一般的です。
資格 | 業務内容 | 勤務先 |
---|---|---|
介護福祉士 | 身体介護、生活援助、 現場マネジメントなど |
特別養護老人ホーム、 老人保健施設など |
ケアマネージャー | ケアプランの作成、 給付管理など |
居宅介護支援事業所、 特別養護老人ホームなど |
社会福祉士 | 高齢者や障がい者への 支援・相談援助 |
福祉事務所、 社会福祉協議会など |
資格手当によって支給される金額は事業所によって異なりますが、少なくとも昇給につながることは確かです。
介護職員は地域にとどまって支援を続けたいと考える人が多い一方で、転職してステップアップを図るという意識が他産業に比べて薄いともいわれています。
また、各事業所では長く在籍してくれる人材育成の視点が大事になります。そうした人材を活用して事業規模を拡大できれば、職員の給与も上がり、さらに新たな人材を確保しやすくなります。つまり、根本的なマインドの変化が必要なのです。
ただ待っているだけじゃお給料は上がらない。地道に努力を続けていかなくちゃ!