脱・コンビニ経営!小規模事業者に必要な「経営マインド」ってなんだ

おかずクラブ・オカリナさんと介護職の賃金や経営問題を学んでいく「カイゴのおカネクラブ」。前回学んだ介護事業所のスケールメリットを踏まえて、経営拡大について深掘りします。

介護事業経営コンサルタントの小濱道博氏を講師に迎え、「おカネの話が大好き!」なオカリナさんと、小規模事業者に求められることについてお話を聞いていきます。

更新

小規模事業所はコンビニ経営に似ている!?

規模の小さい事業所はどうすればもっと「儲けられる」んですか?

単刀直入ですね(笑)。前回のお話の続きになりますが、利潤を上げるために必要なことはスケールメリットを最大化していくことです。小規模事業所では経営者自身も現場の実務をこなすことが多く、事業の拡大にまで意識が向けられていないのが現状です。

小濱先生

“タダ”でも事業所を引き取ってほしい小規模事業者もいる

スケールメリットの一例として、人材育成があげられます。規模が大きい介護施設ほど職員数も多く人員配置に余裕があるため、各職員のステージに応じた研修・教育に時間をかけられます。時間も費用もかかりますが、スキルアップした職員は業務の効率性を向上させることで、他の職員の教育時間を捻出できるようになります。スケールアップが好循環を生みだす一例です。

特別養護老人ホームの定員規模別利益率を見ても、規模の大きさが収益に直結することがわかります。

出典:『令和2年度介護事業経営実態調査』(厚生労働省)より

小規模事業者にとって、後継者不足も問題のひとつです。介護保険制度の開始からすでに20年が経過しており、当初開設した事業者の多くが引退の時期を迎えています

しかし、事業所内に人材が育っていないために、高齢になっても自身で現場に出ているケースがあります。事業所を売れるなら売ってしまいたい。しかし、もともと10人以下の職員で運営していた小規模事業所に買い手がつくとは考えられません。結局、閉鎖せざるを得ない事業所も少なくありません。

現在、介護業界ではM&Aが活発に行われていますが、小規模事業者が「売り」に出そうと思っても、手数料だけで数百万円の費用がかかるため、「タダでもいいから引き取ってほしい」という小規模事業者が少なくありません。

人材がいない原因は「育てる意識」の欠如

後で困ると分かっていたのに、どうして人を育ててこなかったんだろう…?

さまざまな原因が考えられますが、経営者が現場に出る「コンビニ」的な経営を続けてきたことが大きいと思います。コンビニでは人材育成に時間をかけるのではなく、バイトを次々と雇いますよね?同様のことが小規模事業所でも起きていたと考えられます。

小濱先生

小規模事業所では、人材を育てる意識が希薄で、経営者の「頑張り」で何とか事業を回しているケースが多くあります。

こうした事業所は、経営的に厳しい状況にありながら事業を継続できてきていました。一般企業の多くは開業から2~3年で廃業するといわれていますが、介護事業所の場合は介護報酬という制度によって支えられてきた側面が少なからずあります。

そのため、そもそも事業を継続できるほどの利益が上がっていないにもかかわらず、「使命感」などから続けてきた事業所も多いのです。

しかし、手一杯だからといって人材育成を怠っていると、介護サービスの質が上がらず、利用者も増えず、利益が出ないという悪循環に陥るリスクが高まります。これまでの小規模事業者が辿ってきた負のループだといえます。

社会福祉ではあるが自由競争のビジネスでもある!

ひええ!負のループから抜け出す手はないんですか!?

経営者が介護をビジネスとして見つめ直す必要があると思います。介護保険制度は、そもそも事業者に自由競争をさせて業務を効率化させたり、サービスの質の向上を図る目的で誕生したものですから。

小濱先生

財務省は自然淘汰もやむなしだと考えている

2000年に施行された介護保険法は、それまでの老人福祉法では対応しきれなくなったことで誕生しました。

従来の老人福祉法では増加する高齢者に対応する財源を維持するのが厳しく、サービスの質も業務効率も著しく悪いものでした。

そのため、介護保険法では利用者が事業者を選択できる自由競争の原理を用いて、事業所同士でサービスの質の向上を図る現在の制度が設けられた経緯があります。

財務省が介護事業所の大規模化をうたうのも、こうした介護保険法が施行された当初の理念に基づいているからなのです。つまり、介護事業所は自由競争を強いられるビジネスなのです。

経営が先進的なところは利益がどんどん伸びている!

そうなんだ…。小規模事業所ってなくなる運命じゃないですか…

残念ですが、今後は減少傾向になると思います。しかしながら、小規模事業所としてスタートしても、伸びている事業所があるのは事実です。規模に関係なく、こうした事業所がもっと増えることが大切です。

小濱先生

小規模事業所が経営を伸ばすカギは、人材育成と営業活動です。近年、厚生労働省では、介護事業者に人材育成を促進する施策をとっており、そのためのガイドラインも制定されています。

人材が育てば、サービスの質が向上して、地域の方々に営業するためのセールスポイントになります。これは一般企業が持つべき経営マインドと大きく変わりません。

提供するサービスの質をいかに向上させるか?

なるほど。ということは、サービスが良くなれば、利用者も増えるわけだ!

もちろんです。介護事業所はモノではなくサービスを提供しているわけですから。「サービスの質が良い」と感じてもらうためには、結局人材育成に行き着くわけです。

小濱先生

介護に必要なOJTの考え方

OJTとは、「On the Job Training(オンザジョブトレーニング)」の略称のことで、主に新人社員を職場で育成する方法のことを意味しています。

一般的な企業には広く浸透しており、学生から会社員になると半年から1年といった期間をかけて、さまざまなスキルを身につけてもらうようにトレーニングをしてもらいます。

実際、厚生労働省では在宅介護職員を対象に、実際のスキルや知識をチェックできる「職業能力評価シート」を配布するなど、人材育成の大切さを説いています。

職員がどのように成長していくかのビジョンを事業者が描くことが何よりも大切です。

介護保険事業の料金は全国一律だからこそ、サービスの質の差が事業所の評判を高め、さらなる利用者の獲得につながっていきます。利用者が増えれば、職員を増やす必要性が増し、さらに利益も向上します。利用者が増えて、利益も上がれば、事業所を増やすしかありません。事業者には、人材育成と営業活動に力を入れる「経営マインド」が必要な時代です

現状で複数の事業所を展開している事業者は、全体の66%を占めています。しかし、他に事業所を抱えていない約3割の事業者は、今後非常に厳しい状況を迎えることでしょう。

通所介護事業所の規模別赤字施設割合
出典:『令和2年度介護労働実態調査』(介護労働安定センター)より ※数値はコロナ禍の影響が少ない2019年度を参照

このように、現場でどのようにサービスを提供し、事業を拡大していくべきか本気で考える経営マインドが求められているのです。

経営マインド…!ちょっと難しいけど、おカネがいっぱいもらえるなら必要なことですね!!