物価高騰で大打撃!介護施設は人件費とどう向き合うべきか?

おかずクラブ・オカリナさんと介護職の賃金や経営問題を学んでいく「カイゴのおカネクラブ」。今回は物価高騰の影響を受けた介護事業所がどのようにコストをカットしていけばいいのかを探ります。 介護事業経営コンサルタントの小濱道博氏を講師に迎え、「おカネの話が大好き!」なオカリナさんと、コストカットに必要な視点についてお話を聞いていきます。

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利益を上げるためにコストカットは基本だが…

最近、食品も電気代も値上がりしていますよね。介護業界にも大きな影響があるのではないでしょうか?

大打撃ですね。食材費やガソリン代などが高騰したために、赤字に転落している施設も少なくありません。コロナ禍での借入金の返済などが始まる施設も多く、業界的に状況はかなり厳しいでしょう。

小濱先生

急激な物価上昇が介護事業者を直撃!

ウクライナ情勢、急速に進行する円安、世界的な原材料価格の上昇によって、国内ではガソリンや水道光熱費、食料品などの物価高騰が続いています。

2022年6月の消費者物価指数は、前年同月比で2.4%の上昇。季節による変動が大きな生鮮食品を除いた消費者物価指数でも2.2%上昇しました。前年同月比の上昇指数が2%を超えるのは、これで3ヵ月連続です。

当然ながら、介護事業所にも影響は及んでいます。福祉医療機構の調査によると、「原油価格や物価高騰による影響を受けている」と回答した社会福祉法人は88.5%に上ります。

そのうち、2022年度上半期のコストが前年度比で5%以上の増加見込みと回答した施設は48.9%になりました。

出典:『2022年度上半期のサービス活動費用への影響の見込み(前年度上半期比)』(福祉医療機構)

一般企業の場合、自社のサービスや商品の価格を上げて対応できますが、介護報酬が制度によって定められている介護事業者は価格に転嫁できません。

そのため、介護事業者からは行政に対して「何らか」の対応を求める声が強まっています。

コストの6割以上は人件費

出口のない議論になっちゃいそうですね…。どうにかならないものなんでしょうか?

サービスの価格を上げられないので、コストカットをするのが定石です。ただ、介護事業所のコストは6~7割が人件費が占めています。人件費をこれ以上削れないのも実情です。

小濱先生

事業経営の基本は「利益を上げる」「コストを下げる」の2つしかありません。しかし、介護事業所は介護サービスの利用料が制度によって定められているため、今回のような事態にあったときはコストをいかに下げるかしか方法がありません。

介護経営実態調査によると、介護事業所でかかっている費用のうち給与費は63.6%と最も高く、典型的な労働集約型になっています。なかでも訪問介護サービスは7割以上という高い比率です。

コストを下げるために人件費の改善に着手することが多くの産業で行われていますが、介護業界は深刻的な人材不足もあり、処遇改善が他産業にも比べ喫緊の課題となっています。給与の低下や人員整理は、職員の不満に直結します。解決策を見出せないという事業者が多いと考えられます。

長期的な視点のコストカットとは?

にっちさっちもいかないじゃないですか。ほかに方法はないんですか?

食材などのコストを少しでも抑えるという方法はありますが、「焼け石に水」なのかもしれません。やはり、職員の方々も満足できるような形で人件費を建設的に見直していく視点を持つことが大切です。

小濱先生

人材育成が介護施設を救う!?

第2回で指摘した通り、

介護事業所ではサービス充実のために、ほとんどの施設・事業所で介護職員を基準人数より多く配置しています。これは、利用者にとっては良いのですが、コスト管理という点だけから見れば「余剰」という位置づけになってしまいます。

こうした問題の解決策として、小濱先生が挙げているのが人材育成による業務の効率化です。

かつて介護業界では、「職員の多さ=サービスが手厚い」を売り文句に業務を継続してきた経緯があります。当時の考え方が定着したまま事業を継続しているので、人材育成をどうすれば良いかが分からず、適切な視点を持つのが難しいという現状もあるといいます。取り組まれていますが、まだ十分進んでいるとは言えません。つまり、多くの事業所で、スキルアップとキャリアアップ(昇給も含む)が有機的に結びついているとまでは言えないのです。

また、小濱先生は中小・零細事業者には人材育成という視点が欠落しているとも指摘します。

現在、行政の主導のもとに介護職員のキャリアアップ制度の構築が取り組まれていますが、一向に進んでいません。キャリアアップ制度には人材評価の基準や育成計画の作成が重要なポイントになりますが、ほとんどの事業所が未着手という状況です。シルバーサービス振興会の調査によると、育成計画を策定していない事業所は63.9%に及び、研修指導にあたっての評価基準も57.6%が使用していないことがわかっています。つまり多くの事業所で、スキルアップと昇給を含むキャリアアップが結びついていません。

出典:『介護事業者(介護職)の現場での課題対応力強化に向けた調査研究事業』(シルバーサービス振興会)

人手不足といわれる現状は、これまで人材育成を怠ってきた「しわ寄せ」とも考えられるのです。

介護報酬は2024年にもっと下がる?

先生、厳しいお話が続き、耳が痛いです…

そうですね。でも、一般企業ではごく当たり前の視点が介護事業者には欠けていたという見方ができることも事実ですので、改善できる見込みがあるということでもあります。スキルの高い人材が増えれば、それだけ業務も効率化できますし、人員を基準より多く配置する必要もありません。
もちろん業務への貢献には給与アップで答えなければ人材流出となるので、給与アップにも必然的につながります。いい循環をどう発生させるかが課題です。

小濱先生

介護報酬は、3年に一度行われる『介護経営実態調査』を基に決められています。実は2015年の介護報酬改定まで介護業界の利益率は8~10%にまで達していましたが、他産業の中小企業では2.5~3%でした。そこで財務省が主導となり、一般企業並みの利益率になるよう介護報酬が引き下げられたという経緯があるのです。

2024年に行われる介護報酬改定では、すべての事業所に決算書の公表を義務づけ、さらに介護報酬が引き下げられる可能性も取り沙汰されています。そうなれば、よりシビアにコストを見直す必要が生じるでしょう。さらに、介護報酬が引き下げられるかもしれない、とも言われています。そうなれば、よりシビアにコストを見直す必要があると思います。

2024年介護報酬改定の方針

次回の介護報酬改定で大きなポイントになっているのは「サービスの質の向上」「人材配置の効率化」です。政府はICTの活用によって業務の標準化を進める方針で、小規模事業所に対する報酬のさらなる引き下げも視野に入れています。

意識改革がコストカットに繋がる!

ちょっと明るい未来が見えたと思ったら…やっぱり介護事業者さんは人件費を「どうにかするしかない」ってこと!?

その通りです。現在のように基準よりも多い人員配置で業務を続けるのがより難しくなることでしょう。一方で、働き手としては「引く手あまた」の状況です。

小濱先生

介護職は完全に売り手市場!良い事業所が選ばれる時代に

介護職の有効求人倍率は3.9倍と高い水準を維持しています。ヘルパーに至っては14.92倍と完全に売り手市場です。

人手不足が主な要因ですが、介護職を志す人からしてみれば就職先の選択の自由度が高いともいえます。

つまり、今後は介護人材もより良い職場へと転身することもできます。例えば、業界最大手のある法人では、スキルの高い人材を育成し、基準よりも低い人員配置を実現することで、介護職への給与アップを積極的に行っています。それだけでなく、人員の研修には半年~1年をかけて人材育成に力を入れているのです。

これからの介護事業所には、人材に選ばれる努力も求められることになると思います。さらに過熱していくかもしれません。

なるほど!これなら職員もスキルアップを目指していけますね!おカネを生むのはやっぱり人材ってことだ!私も頑張るぞー!