おかずクラブ・オカリナさんと介護職の賃金や経営問題を学んでいく「カイゴのおカネクラブ」。今回は介護職員のスキルアップやキャリアアップについて考えます。
介護事業経営コンサルタントの小濱道博氏を講師に迎え、「おカネの話が大好き!」なオカリナさんと、介護職員はいかに成長して給料を増やしていけばいいのかお話を聞いていきます。
介護職の「低賃金」のイメージはどこから?
看護師時代に介護現場に行ったことがあるんですけど、パートやアルバイトで働かれている方が多い印象でした。
そうですね。全国平均ですと、ひとつの事業所の約30%の人材が非正規雇用だとされています。
介護職は柔軟な働き方ができる?
2022年9月現時点では、介護職は完全な売り手市場になっています。
2022年7月の有効求人倍率(パートを含む)は3.21倍。全産業平均の1.20倍と比べるとその差は歴然です。深刻な人材不足ですが、裏を返せば仕事を得られやすい職種ともいえます。
介護業界では、パートタイムやアルバイトとして働く方々が現場の多くの業務を担当しています。介護職のスキルは汎用性が非常に高く、たとえば介護職の経験がある子育てを終えて働き始めた主婦が、パートタイムの勤務初日から活躍できることもあります。事業者としては非常にありがたい存在です。
一方で、パートタイムやアルバイトとして働く方々の多くはキャリアアップを望んでいないケースが多々見受けられます。パートタイムで働く方のなかには、「130万円の壁」と呼ばれる税制上の計画的な負担軽減を考慮されている方もいらっしゃいます。
毎年12月になると、多くの事業所で人手不足に陥ります。これは年間の収入の調整を12月にされる方が多いことも一つの理由とされていますが、柔軟な働き方を求める方々の受け皿として機能している側面も少なからずあります。
「介護職員=給料が安い」はイメージが先行している!?
むむ!ひょっとして、パートさんが多いことが介護職に対する給与イメージに影響しているのでは⁉
いえ、そんなことはありません。介護職員の賃金に関する調査は、正規雇用者を対象にしています。むしろ統計の''落とし穴''が存在するケースがあります。もちろん高給とは言い難いのですが、改定が進む介護職員の給与は悲観するほどに安いというわけではありません。
厚生労働省の調査によると、全国の非正規雇用の介護職員の平均時給は1,130円(2021年9月時点)。一方、介護事業所の事務職員は990円、調理員は950円、国家資格の管理栄養士でさえ1,080円となっています。
看護師(1,460円)や理学療法士(1,640円)などと比べると不足しているように感じますが、実際には「介護職員の給料が安い」と断言できるわけではありません。
また、他産業の正規雇用者の平均給与の調査には、課長や部長などの管理職の給与も含まれますが、介護職員の場合、施設管理者や大規模事業所の管理職は調査対象に含まれないことがあります。
これこそが小濱先生が指摘する''落とし穴''です。
「介護職=給料が安い」というイメージは、本来は精査すべき現場の介護職員の給与調査の結果が切り取られ、独り歩きした結果とも考えられます。
しかし、給与体系の設計が非常に難しい業界であることは間違いありません。たとえば、介助の質は定性的であるため、個々のスキルの成長度合いを直接的な昇給に結びつけられません。
職員の評価基準は他産業と同様にマネジメント能力です。いかに多くの介助スキルの高い人材をマネジメントできるかが求められています。「介助スキルがこんなに高くなったのに給与が上がらない!」と嘆く現場職員も多く、現場と事業者の認識のギャップが課題となっています。
どこまで本気でキャリアアップを望むか
なるほど…そもそもキャリアアップを前提とした働き方をされている方ばっかりじゃないんだ。
全員が望んでいるというわけではないと思います。まあ、それを言っては全ての職種にも言えることですよね。ただ、給与の背景には「介護職=福祉」という考え方があります。
根強く残る介護職の福祉マインド
介護保険制度が開始される以前、介護は国による公共福祉制度でした。
小濱先生によれば、その名残りが業界に深く根差していて、「給料をたくさんもらうべきではない」という風潮があるのではないかと指摘しています。
たとえば、小濱先生がある精神科医に話を聞いたところ、「介護職の方がうつになる原因の多くが、昇進して主任とか班長になること」と言われたそうです。
人間関係や業務の厳しさだけではなく、「福祉の仕事をしているのに、こんなに給料をもらっていいのか」という罪悪感を抱えてしまう人もなかにはいたそうです。つい5年前まで、このような状況が多くみられたといいます。
また、介護職員がキャリアアップをイメージすることが難しいことも大きな要因ではないかと小濱先生は指摘します。介護事業所の7割は小・中規模事業者ですが、一部の事業所では人員不足に陥ると、経営者自身も積極的に現場で働きます。
経営者自身が現場で働くことで事業所のサービスの質が高まる一方、現場の職員が経営マネジメントを学ぶ機会が減少してしまうといったことも時折見られます。
キャリアを積める事業所を選ぶのもひとつの手
じゃあ、いったいどうすればキャリアアップできるの~!
一つは資格の取得。もう一つは自身で研修に参加したり、思い切って教育に力を入れている事業者を選ぶことですね。
ある事業所では、職員に対してさまざまな講座の受講が義務付けられているそうです。それらの講座では介助だけでなく、現制度の理解や役所対応、人材育成・管理など多岐にわたり、大学のカリキュラムのように自分で選べるといいます。
そういった事業所は、小規模としてスタートしながらも、大きく成長を続けているようです。事業所が拡大すれば、新規の事業所の立ち上げをはじめとした新しい役職のポストが創出されます。介護職が適切にキャリアアップできるような仕組みが作られています。
自身のキャリアとどう向き合うかが、介護職員にとって大切な姿勢だといえるのではないでしょうか。
ICTを使いこなすだけでも段違い!
やった!なんだか希望が見えてきた!!
行政は介護の業務効率化の促進を図っています。介護職もこれまで以上の先進的なスキルが求められるようになると思います。
介護事業の展望
これまでの介護事業では、「労働集約型」を肯定的に捉えていました。しかし、ICTやロボットの導入により、効率的なサービス向上が可能になる時代になりました。新しい介護サービスの発展に寄り、「人を育てる」という発想の事業所が生き残っていくことになるのではないでしょうか。
また、小濱先生は「食わず嫌い」が横行している業界とも指摘しています。ICTに対して一種の拒否反応を起こす方もいらっしゃるそうです。
新しい知識や技術を受け入れることで、煩雑な事務作業などが大幅に削減され、確実に業務効率化が図ることができます。
まずは使ってみて慣れていくという姿勢、新しいことを取り入れていくマインドが大切です。
私も苦手だけど…せっかくだからやってみようっと!