言葉を教えていないからこそ、“わけ”を考える

名古屋でグループホームを立ち上げたときに、新卒ばかりの6人で1ユニットやってみたんですね。リーダーも置かないで。

その新卒6人の中で、介護のことを勉強してる子は1人しかいません。

周りからは「そんな無謀な」と思われましたが、実験としてやってみたんです。

認知症の方にかかわるのは、僕の友人のグループホームで2日間だけ。

まず前提として、「基本的に認知症のことを一切教えない」、「世の中に出回っている言葉、いわゆる”専門用語”を絶対教えない」状態で始めました。

木曜和田劇場第22回のキャプチャー1

実際にやってみるとわかったことがいくつかあったんですが、その1つが日誌に記されていました。

日誌を読むと、「Aさんが夜中に廊下を“巡回”されていました」って書いてあるんです。

皆さんなら“徘徊”って書きません?

徘徊って言葉を教えていないんで、”巡回”になるんですよ。

さらに素敵だったのが、彼らはそこから「なぜAさんはこんな夜中に巡回したんだろう?」って考えたそうなんです。

「きっとAさんは目が覚めたときが朝で、何か他人様のお部屋を開けながら探してたんじゃないか」と推察していたんですね。

これがもし徘徊だったら、「徘徊という症状が出ている」という判断で考えが止まってしまいます。

木曜和田劇場第22回のキャプチャー2

「何で徘徊してるんだろうね?」という疑問に対して、「脳の病気だからだよ」と結論づける。これで終わりですよ。

決まり事ではない“知恵”を仕事の中で生かす

もう1つ面白かったのは、「決まり事」について。

僕は新卒の子たちに「決まり事で動くな」「必要なことを思い描いて動いてくれ」と伝えていたんですね。

そしたら、「ちゃんと決まり事をつくる」んですよ。

「A勤は何をして、B勤は何をして…」って。

一切つくるなって言ったんですよ。「気づきでやれ」って言ったのに、ちゃんとつくるんですよ。

一人の子に理由を聞いてみたら「漏れがないように」って言うんですよ。

そんなこと言われて、皆さんは信じますか?

僕はその子にこう伝えました。

6人の中でやる人とやらない人が出てきたんだろう。皆の中に「あの人は何もしない」というのがあるんだろう。

だから、やる人とやらない人に分かれないように、必ずやること、決まり事をつくったんだろう。

木曜和田劇場第22回のキャプチャー2

それは「知恵」だよな。

僕は「決まり事をつくるなよ」って言ったけれども、そうしないと6人の新卒者たちで円滑に組織運営ができないから、和田さんに逆らって自分たちで決まり事をつくったんだよな。

それは、素敵な知恵だよな。

…っていう話をしたんです。

新卒の子たちとのやり取りを通して改めて思いましたが、人間にはやっぱり知恵がありますね。

この子たちみたいに、知恵が仕事の中で生かせるような職場にしたいですよね。

決まり事じゃなくて知恵。そうすることが、プロの介護職が本来求められる、クリエイティブな介護につながっていくと思うんです。