認知症になられた方を”支持”すればええんやな
介護の業界に来たときにあることがあったんですね。
特養の夜勤のときだったんですけども。
どんなことがあったかって言うと、巡視するじゃないですか。
巡視しているときに、ある4人部屋の廊下側にいらっしゃったAさんという方が、「お兄ちゃん、怖い人がいる」って言うんですね。
俺には何にも見えないんですよ。
何にも見えないんですけど、怖い人がいるって言うから、なんとか一生懸命たしなめていたんですね。
その日は帰って家でテレビを観ていたら、今で言う細木数子の番組がやってたんですね。
いわゆる超能力者の番組です。
超能力者って「見えないことが見える」って言うじゃないですか。
なんで超能力者は見えないものが見えるって言ってテレビに出て金儲けできてるのに、うちの婆さんは問題扱いされてんだ。
この違いはなんだって一生懸命考えたんですよ。
一生懸命考えてわかったんです。
なるほどな、テレビに出てる超能力者は向こう側に支持する人がいる。
だからズレが起こんない。
なるほど、俺らも婆さんのことを支持すれば良いと思ったんです。
そして次にまた夜勤に入ったら同じことがあったんですね。
「怖い人がいる」って。
だから婆さんに「Aさん任しとき、俺がやっつけてくるからな」って言ってポンと肩を叩きまして、 廊下に出ました。
耳がどのくらい聞こえてるかわかんないんで、壁を思いっきり蹴って、入っていくときもどんなに目が見えてるかわかんないんで、高倉健以上ばりに入っていったわけですよ。
Aさんに言ったんですね。
「Aさん、大丈夫や、俺、やっつてけてきましたから」て言ったらAさんが俺の両手を握って、「ありがとうございます~」言うて寢られたんですね。
僕ね、それで認知症の世界がガラッと変わっちゃいました。
つまり、脳が病気になるっていうのは、脳が病気になっていない人との間にズレが起こるわけですよね。
そのズレをどっちが含むかって言ったら、病気になった人に「含め」って言っても難しいわけで。
脳が病気になっていない人が”含んでいく”って当たり前のこと。
実はそれは子どもも一緒で、子どもが大人と同じことができなくても大人は怒んない。
大人は「子どもは大人のようにはできない」っていうふうに受け止めができてるから、”含んでいく”。
それと同じで、ズレの修正をどっちがするかっていうことだけだと思うんですけど。
「注文をまちがえる料理店」はまさにそうですね。
ズレが起こっても、そのズレの修正を”客側が”していく。
客側が受け止めて手を差し伸べていくことでズレが起こんない。
そのズレを面白がっちゃおうということだと思うんですけども。