介護人材不足の深刻化!氷河期世代の雇用促進とキャリア形成が対策の鍵
深刻さを増す介護人材の不足
2040年度末には69万人の介護人材が不足する
介護業界にはさまざまな課題がありますが、中でも政府が喫緊の課題として危機感をつのらせているのが人材不足です。
2021年7月に厚労省が公表した「第8期介護保険事業計画」によると、今後必要となる介護人材は、2025年度末までに約243万人、2040年度末までに約280万人に上ると推計されており、2019年と比べ、約69万人の人材が必要になると述べられています。
2025年度末までには、年間で5.3万人の人材を増やす必要があるとされていますが、近年の介護人材の増加数は1年間で3万人にも届いていません。
また、平均有効求人倍率も年々増加しており、2018年度は3.95倍にまで達しています。これは、求人数4人に対して、応募者が1人しかいない状況です。
超少子高齢化によって働き手が不足していることに加え、ほかの産業と比べて労働条件も悪いことが、介護人材の不足の原因であると考えられています。
すでに国民の4人に1人は75歳以上である社会が訪れており、介護人材不足の問題は早急に解決しなければいけない問題なのです。
厚労省が打ち出している対策
そこで、厚生労働省では介護人材の雇用を促進するために、以下の5つの柱を立てて対策に乗り出しました。
- 介護職員の処遇改善
- 介護職は、他の産業に比べて、月収が約9万円ほど低いとされており、待遇の改善が図られています。今年2月からは介護職員の収入を月額9,000円程度引き上げる措置が取られています。
- 多様な人材の確保・育成
- 若い世代や他業種からの人材参入を促進する対策です。若い世代に対しては介護福祉士修学資金貸付などの支援制度を整備し、介護ボランティアなどを通じて就労支援を行っています。
- 離職防止、定着促進、生産性向上
- 介護ロボットやICT活用によって、介護業務の職員負担を軽減したり、キャリアアップ支援の充実によって、人材の育成と定着を図っています。
- 介護職の魅力向上
- 自治体などが主体となって、テレビや新聞、SNSなどのメディアを活用して介護職の社会的評価を向上するための取り組みを行っています。
- 外国人材の受入れ環境整備
- 特定技能等外国人の受け入れを行うための支援制度や環境整備を推進しています。
政府は、こうした柱に沿って、さまざまな施策を打ち出しています。例えば、今年度は多様な人材の確保・育成の一環として、「介護助手等普及推進員」という事業をスタートさせる予定です。
介護助手とは、主に身体介護を伴う周辺業務などのサポートを行うスタッフです。就労するにあたり、特別な資格は必要ありません。
その介護助手希望者と介護事業所の双方に働きかける役割を担うのが、「介護助手等普及推進員」で、人材の発掘と雇用の斡旋を行います。
資格が不要であることから、現役世代は勿論のこと、現役を引退したシルバー世代の活用も視野に入れた施策となっています。
就職氷河期世代が介護人材不足を解消できるか?
介護業界の人手不足に就職氷河期世代が注目される理由
これまで介護人材の確保は、若い世代や他産業からの参入、現役を引退した世代の活用に目が向けられてきました。その中で、新たに注目されているのが「就職氷河期世代」です。
就職氷河期世代とは、バブル経済崩壊後の雇用環境が厳しかった1993~2004年頃に、学校を卒業した世代を指します。当時は新卒の求人倍率が1倍を切ることもあり、正社員雇用が進みませんでした。
そのため、自分の意思に反して、現在も非正規雇用で働く人が少なくありません。
政府の統計によれば、就職氷河期世代1691万人のうち、非正規雇用者は366万人となっています。そのうち、正規雇用を希望しながらも非正規雇用で働いている人は42万人に上り、同世代の非正規雇用者の11%を占めています。
国税庁の2020年民間給与実態統計調査によると、非正規雇用の平均給与は176万円。正規雇用の496万円と比較すると320万円もの差があります。
賃金が低いうえに雇用が不安定なため、家庭を築くことができないといった問題もあります。
政府は2019年から「就職氷河期世代支援プログラム」を策定し、就職氷河期世代に向けた、集中的な支援を行っています。
前述した正規雇用を望む非正規雇用者や、長期に渡って就労していない引きこもりの人を中心に、就職や社会参加を促す施策です。
例えば、中央省庁や自治体では、就職氷河期世代に向けて国家公務員や地方公務員の中途採用枠を設けたり、就職氷河期世代を採用した企業に対して助成金を出したりといった措置を取っています。
政府の施策として就職氷河期世代の参入を促進
就職氷河期世代の支援策の中でも大きな柱の一つになっているのが、資格取得などを促進する就労支援です。中でも医療・介護分野での資格取得は、期間短縮などの優遇措置を講じています。
例えば、介護の基本的な知識や技術を学べる資格である「介護初任者研修」の受講期間を、3ヵ月から2ヵ月に短縮するという取り組みが行われています。
介護初任者研修は、2013年に新たに誕生した、介護業界でキャリアを積むための入門的な資格です。研修を受けることで介護業界での就職が有利になるばかりでなく、施設によっては待遇面でも優遇されることがあります。
介護人材不足の対策と、就職氷河期世代の支援策は別の政策でしたが、政策同士を合わせることで、介護業界の人材不足解消と求職者への雇用促進という相乗効果が期待できるのです。
就職氷河期世代の定着を目指す
キャリアアップ助成金の活用
就職氷河期世代の支援プログラムによって、正規雇用者が徐々に増加しています。
例えば、厚生労働省ではハローワークに専門窓口を設けて、就職氷河期世代を対象とした求人枠を約5万人に拡大することに成功しています。
さらに安定雇用を図るためのキャリアアップ支援策も実を結んでいます。
有期雇用者を正規雇用に転換すると事業者に助成金が支払われる「キャリアアップ助成金」事業では、2020年度に3万4,804人の就職氷河期世代の正規雇用を促進しました。
これらは全産業の数値ではありますが、介護業界でも非正規雇用者は約4割を占めています。政府の就職氷河期世代支援の施策が介護業界に広がっていけば、介護人材不足の解消につながっていくでしょう。
介護業界に定着させるにはキャリアパスの形成が鍵
介護人材不足の解決に向け、確保した人材をいかに留めておくかも重要なポイントです。
介護業界の離職者数のうち、勤続3年未満の介護職員は61.2%を占めており、確保した人材の定着に課題を残しています。
近年、人材の定着という点で、キャリア形成が重視されています。
キャリアアップの機会への満足度を上げるために、東京都では「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」を設けて、キャリアの段位が上がるごとに手当が支払われるなどの優遇措置を取っています。
このような、キャリアを段階的に積んでいける仕組みを「キャリアパス」と呼び、一般企業では離職を防止するための有効な手段として広く取り組まれていますが、介護業界ではあまり受け入れられていないのが現状です。
深刻な介護人材不足の対策として、就職氷河期世代の人材を確保しても、すぐに退職してしまったら意味がありません。参入促進だけを目的にするのではなく、介護職に就いた人のキャリア形成を支援していく体制づくりが重要なのです。
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2020年9月7日 制定