注目される介護職の賃金アップ
新首相が就任会見で言及
2021年10月4日、岸田文雄新首相は自身の就任会見で「新しい資本主義の実現」を政策目標に掲げ、「成長」と「分配」を強調しました。
重点的な成長戦略として「科学技術への投資」「地方のデジタル化促進」「技術流出などを防ぐ経済安全保障」「社会保障や税制を整備する人生100年時代の不安解消」の4つを挙げました。
対して、分配戦略では「働く人への分配機能の強化」「中間層の所得拡大と少子化政策」「公的価格の在り方の抜本的な見直し」「財政の単年度主義の弊害是正」の4つを重点政策の柱にすえています。
中でも、「公的価格の在り方の抜本的な見直し」については次のように述べています。
この発言を受けて、介護業界では賃金アップに関する何らかの政策が打ち出されるのではないかと期待感が高まっています。
10月15日現在では、まだ衆議院選挙の結果は明らかになっていませんが、仮に岸田政権が継続することになれば、遅かれ早かれ議論が開始されることでしょう。
介護職の賃金は上昇している
一般的に介護職の賃金は低いと言われています。
『令和2年賃金構造基本統計調査』によると、「介護支援専門員(ケアマネージャー)」の所定内給与額は25万9,700円、「その他の社会福祉専門職業従事者」は24万1,700円となっています。
一方、「看護師」は29万6,900円、「准看護師」でも26万5,500円。
他の職種と比較すると、介護職はやや低いと言えるでしょう。
しかし、介護職の給与は改善傾向にあります。『令和2年度介護労働実態調査』では、介護職の2020年度の所定内賃金は、24万3,135円で昨年度より8,696円の増加。また、賞与も62万6,094円で昨年度より2万6,588円増加しています。

また、正規雇用職員への賞与支給割合は、労働者の78.2%。調査を開始した2016年度から比較すると約8%増加しています。処遇改善加算などの対策が講じられたこともあって、近年介護職の賃金は上昇しているという事実があります。
賃金に対する不満の構造
賃金アップでも待遇への不満は多い
それでも実際に介護職員として働いている人は、賃金に対してあまり満足していません。
『令和2年度介護労働実態調査』で「現在の仕事の満足度」を調査したところ、賃金について「満足」と回答した割合は7.6%、「やや満足」と回答した15.6%と合わせても23.2%にとどまっています。

これは「教育訓練・能力開発のあり方」の18.7%に次ぐ低さとなっています。最も満足度が高い「仕事の内容・やりがい」は「満足」「やや満足」の合計が53.7%なので、その差は歴然です。
職種別に見ると、一般的な実務にあたる「介護職員」が17.7%と最低。最も賃金への満足度が高い「サービス提供責任者」(30.3%)と比較すると、12.6ポイントの差があります。
不満を溜めやすい有期雇用者
中でも、賃金に対して強く不満を抱いているのがパートやアルバイトなどの非正規雇用を指す「有期雇用者」です。
先述の『介護労働実態調査』では、「(満足の割合+やや満足の割合)-(やや不満足の割合+不満足の割合)」で計算される「満足度D.I.」を計測しています。
この指標を見ると、「有期雇用者」はすべての介護職種において、マイナスになっていることがわかります。
『令和2年賃金構造基本統計調査』のデータによると、非正規雇用の「その他の社会福祉専門職業従事者」の1時間当たり所定内給与額(時給)は1,318円。
1日当たりの所定内実労働時間は5.3時間で、実労働日数は13.8日です。
これらを計算すると、1ヵ月当たりの給与は9万6,399円になります。
あくまで参考の給与ではありますが、先に紹介した正規職員の24万1,700円と比較すると、大きな差があります。
介護職におけるパート・アルバイトの割合は全体の約25%。
処遇改善加算などによって正規職員の平均賃金は全体的に見れば上昇しているものの、非正規職員は政策による恩恵はそれほど受けていません。
そのため、パート・アルバイトなどの職員たちは賃金に対する不満を溜めやすいと言えるでしょう。
今後取るべき対策
相談窓口があると不満を和らげる
こうした介護職の不満を和らげる効果があると考えられているのが「職場内での相談窓口(以下、相談窓口)」です。
『令和2年度介護労働実態調査』は、相談窓口の有無による不満の差を比較しています。
「仕事内容のわりに賃金が低い」という不満を抱えている割合は、「相談窓口あり」の場合は32.9%なのに対し、「相談窓口なし」は44.8%。
11.9ポイントの開きがあります。

また、賃金だけでなく「精神的にきつい」でも同様に相談窓口の有無で11.9ポイントの差があることがわかっています。
他方、「特に悩み、不安、不満などは感じていない」という割合では、「相談窓口あり」では14.4%、「相談窓口なし」は7.1%と2倍以上も相談窓口ありの場合の値が高くなっています。
単純な賃金アップだけでなく環境整備も大切
相談窓口の他にも、「雇用管理責任者」の有無も介護職員の不満に影響を与えていると考えられます。
雇用管理責任者とは、介護事業所において、働きやすい職場づくりを自主的に進めていく人員です。主な仕事は雇用管理の改善への取り組みや、介護職員の相談対応など。厚生労働省では、こうした人材を育成するための講習も実施しています。
雇用管理責任者がいる事業所では、取り組みとして「賃金水準を向上させている」と回答した割合が42%に上るのに対し、いない事業所は32.7%にとどまっています。
その他「能力や仕事ぶりを給与に反映する」「キャリアに応じた給与体系を整備している」などの項目で、雇用管理責任者がいる事業所の方が10ポイント以上も高いことがわかりました。
こうした各事業所での取り組みを推進し、環境を改善していくことで、賃金への不満も軽減することにつながります。
新内閣による賃金アップが実現すれば喜ばしいことではありますが、処遇改善加算のように正職員や有資格者ばかりが優遇されるような制度では、根本的な解決にはなりません。
介護職が抱えている不満の現状に合わせた対策が求められます。
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2020年9月7日 制定