高齢者だけの問題ではなく、家庭内の孤立も。求められる誰ひとり取り残さない社会の設計
政府、孤独・孤立対策に本腰
増加する孤独・孤立に悩む人
時代と共に社会が変化し、利便性が向上していく中で過度に合理性が求められるようになりました。それに伴い、人々が自然に関わり互いに支え合う機会が少なくなってきています。
職場、家庭、地域などあらゆる環境で孤独・孤立を感じ、生きづらくなっているのが現代に変化してきています。
2005年にOECD(経済協力開発機構)が行った調査によると、日本では家族以外の人(友人や同僚、その他の人)と交流がない人の割合は15.3%でした。これはアメリカの5倍、イギリスの3倍で、OECD加盟国20カ国の中でも最も高い数値なのです。
「孤独」とは主観的概念であり、ひとりぼっちである精神的な状態を指します。「孤立」とは客観的概念であり、つながりや助けのない状態を指します。
孤独・孤立を感じやすくなった社会の深刻さを浮き彫りにしたのが、新型コロナウイルスです。
新型コロナウィルスの感染拡大が長期化したことにより、生活困窮者や自殺者が増加し、また児童虐待やDV相談件数も増えていることがわかっています。
このような状況を受け、政府は2021年2月内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を設置しました。
これまで10回に渡り「孤独・孤立対策に関するフォーラム」を実施した他、孤独・孤立対策に取り組むNPOに対する約60億円の緊急支援や、担当大臣のメッセージ公表などに取り組んできました。
担当室がインターネットで意見募集をしたところ、対策に関する現状や基本理念などに対し、さまざまな意見が寄せられました。
国民の関心の高さもあり、政府は改めて、孤独・孤立は特定の人の問題ではなく、すべての人に当てはまる問題だということを示しました。
孤独・孤立対策の重点計画を決定
2021年12月28日、政府は「孤独・孤立対策推進会議」の初会合を開き、「孤独・孤立対策の重点計画」を決定しました。
重点計画では、実態把握を早急に行い、24時間対応の相談窓口の整備し、支援情報をSNSなどでタイムリーに発信することを挙げています。
また、人と人とがつながりを実感できる居場所づくりの確保や、孤独・孤立に陥っても支援を求める声を上げやすい社会になるよう、国民一人ひとりに対して積極的な働きかけを行うことを明記しています。
加えて、孤独・孤立対策に取り組むNPOなどの活動を支援し、官・民との連携強化に取り組む方針も示しています。
重点計画に挙げられた施策の実施状況の評価や検証、計画の見直しを含めた検討を毎年行うとしており、状況や世論に柔軟に対応する姿勢であることを強調しています。
家族と同居でも起こる孤独
深刻な「同居孤独死」
現在、同居している人がいるにもかかわらず、死亡から発見まで4日以上経過してから自宅で発見される、「同居孤独死」が社会問題になっています。
監察医事務所の報告によると、東京23区と大阪市、神戸市における「同居孤独死」は、2017〜19年で計552人確認されています。全国的な調査報告ではないため、実態はさらに深刻である可能性があります。
死亡の発見が遅れた原因には、同居人が認知症や寝たきりだったり、家庭内別居、家族や本人が引きこもりであることが挙げられています。
大阪府監察医事務所の報告によると、同居孤独死に至る半数以上が、高齢者が同居するケースであることがわかっています。また、20から60代の勤労世代のみが同居するケースも3割近くいることから、同居孤独死が高齢者だけの問題ではないことがうかがえます。
社会的孤立が孤独死のリスクを上げる
「社会的孤立」とは、家族や地域社会との関係が希薄で他者との交流がほとんどない状態を指します。
独居でも、家族や友人との交流が保てていれば、社会的孤立となりません。しかし一方で、同居する家族がいても、他者との交流がほとんどなければ、社会的孤立に陥ってしまうこともあります。
山形県では、2010〜2014年に、同居家族がいるにもかかわらず孤独死に至ったケースが19例あることが報告されています。
発見が遅れた理由は、引きこもりや不仲による家庭内別居、同居人の死亡、同居人の精神疾患などです。
中でも高齢者世帯においては、発見が遅れると、同居者全員が死亡という最悪の事態になることもあるそうです。
厚生労働省が発表している自殺者の統計資料によると、年齢とともに「孤独感」を理由にした自殺者数が増えていることがわかっています。前期高齢者(65〜74歳)では、「孤独感」を理由に自殺した割合は、男性で3.0%、女性で2.7%でした。
しかし、後期高齢者(75歳以上)になるとその割合が増え、男性で4.4%、女性で3.5%となっており、およそ1.5〜2倍になっていることがわかります。
社会的孤立は、独居・同居にかかわらず起こる可能性があります。特に高齢者に対しては、同居人の有無にかかわらず、社会的な孤立から孤独を感じていないかどうか周囲が気を配り、個々に合わせた対応が必要なのです。
孤独を声に出せる環境と支え合う気持ちを
孤独問題の先進国イギリス
世界に先駆けて孤独・孤立の問題に向き合ってきたのが、イギリスです。
イギリスでは、「孤独は現代の公衆衛生上、最も大きな課題のひとつ」として、2018年に世界で初めて「孤独担当大臣」を設け、国を挙げて孤独対策に取り組んでいます。
英国家庭医学会によると、孤独は、肥満や1日15本の喫煙以上に体に悪いといわれています。
孤独な人は、社会的なつながりを持つ人に比べ、天寿を全うせずに亡くなる割合が1.5倍に上がるという調査結果も発表されました。また、孤独で生じる経済的損失は、約4.8兆円に達するといわれています。
イギリスでは、大工作業、音楽、スポーツなどどんなことでも良いから「人と集うこと」が推奨されています。
その中で特に注目されている対策のひとつが、「メンズ・シェッド(男たちの小屋)」です。
定年退職した男性たちが大工仕事を一緒に行い、テーブルやベンチを作ります。完成した作品は、公園に設置したり、学校へ寄付したりすることで、誰かに喜んでもらえるという実感も得ることができるそうです。
地域のメンズ・シェッドに行けば、そこに自分の居場所があり、同じくDIYに興味を持つ他の人との交流が生まれ、コミュニティができるという仕組みは、孤独解消につながったと高く評価されています。
他にも、コーヒーショップの同じテーブルに、知らない人同士が囲む専用席を設けたり、高齢者向けの慈善団体が週に1度、30分間電話で高齢者と他愛もない会話をするといった取り組みが行われています。
イギリスの事例を見ると、お金がかかるものばかりではないことがわかります。孤独にならないために人々が互いを認め、支え合う気持ちが大切なのです。
個に寄り添い、誰ひとり取り残さない社会を
孤独・孤立は、高齢者だけの問題ではありません。
20〜30代の若年層でも2人に一人が「日常的に孤独を感じている」というアンケート結果があるほど、私たちの身近に潜む問題です。
また、5〜6割以上の人が、新型コロナの流行をきっかけに孤独を感じることが多くなったと回答していることもわかってます。
孤独・孤立は、いつでも誰にでも起こりうる可能性があるし、そこに至る背景や置かれる状況は多岐に渡り、またその感じ方や捉え方は十人十色です。
独居であっても、家族や地域とつながりが十分あれば、孤独・孤立を感じない人もいます。問題とされているのは、「精神的な孤独」や「望まない孤独・孤立」です。
「人間関係の貧困、困窮」ともいわれる孤独・孤立は、痛みや苦痛を伴い、健康面や経済的困窮への影響も懸念されます。先に触れた「孤独・孤立対策の重点計画」では、行政を中心とし、官・民・NPOなどが連携して解決を目指すと表明しています。
そして、孤独・孤立の問題が顕在化する前に、幼少期から共に生きる力を養うのと同時に、助けを求める声を上げやすい社会と、その声が正しいところに届く社会構造を目指すことが求められています。
重点計画で表明している「孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会」は、SDGsが目指す「誰ひとり取り残さない」という原則にも通じるところです。
マニュアルに沿った一辺倒の施策ではなく、きちんと個に寄り添い、誰も取り残されることのない社会をつくるという共通の目標を持ち、一丸となって取り組んでいくことが、孤独・孤立問題を解決する近道なのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定