徳島県の大学生が特養で音楽療法に協力
入居者と楽器演奏や歌、ダンスを楽しむ
8月中旬に徳島新聞にて、県内の大学に通う大学生が特別養護老人ホーム(以下特養)を訪問。音楽療法に協力したとの報道がされました。
特養を訪れたのは音楽学科の大学生で、楽器や歌、ダンスを普段から学んでいる若者です。参加者は孫のような若い世代との交流もでき、音楽療法の協力者としては最適とも言えます。
さらに当日は学生に加えて、音楽療法士で大学の教員であるアメリカ人のマイケル・ローバッカー名誉博士も参加。ローバッカー氏がピアノの伴奏をして歌やダンスに取り組んだりもしました。ソーラン節など高齢者受けの良い曲を選んで演奏し、入居者は和太鼓などを曲に合わせて叩いていたと言います。
今回報道された特養では、すでに20年程前から同大学の学生を受け入れ、定期的に音楽療法を実施しているそうです。現在、音楽療法は多くの老人ホームで実施されていますが、以下では音楽療法のメリット、実施する上での注意点について深掘りしてみます。
音楽療法とは?
音楽療法とは、音楽が持つ特性を生かしたプログラムによるリハビリを行うことです。具体的な実施方法としては、「能動的音楽療法」と「受動的音楽療法」、「個人音楽療法」と「集団音楽療法」などの区別があります。
- 能動的音楽療法・・・参加者が自ら歌をうたったり、楽器を演奏したりすること、および音楽に合わせて体を動かすこと。太鼓やタンバリン、ハンドベルなどの演奏、合唱、輪唱、音楽に合わせて踊ることなど。
- 受動的音楽療法・・・目的に合わせた音楽や演奏を聴くこと。リラックスを目的とする「音楽心理療法」、音楽を聴くことで心身を調整する「調整的音楽療法」、好きな音楽の範囲を広げつつ心の不安を解消する「嗜好拡大法」などがあります。具体的にはプロの演奏家を老人ホームに招いて演奏会を行ったり、若い頃に流行った懐かしの音楽をみんなで聞いたりする、といった内容です。
- 集団音楽療法・・・老人ホーム、デイサービスで一般的に実施されている方法です。共有スペースに多人数が集まって、みんなで取り組む方法です。一緒に歌を歌ったり、楽器を演奏したり、プロの演奏家の演奏を聞いたりします。
- 個人音楽療法・・・個人向けに実施される音楽療法です。寝たきりの方など、集団音楽療法への参加が難しい方を対象に行われます。
音楽療法のメリット、実践方法とは
音楽療法を実施するメリットとは
音楽療法を老人ホーム等で実施することには、以下のようなメリットがあります。
- 生活意欲の向上・・・音楽に触れることで感情を刺激し、前頭葉の活性化させることが可能です。前頭葉は委縮すると意欲低下、怒りっぽくなるなどの傾向が生じますが、前頭葉を活性化させることで気持ちが前向きにあり、趣味や人との交流に積極的になります。
- 身体の運動性向上・・・楽器演奏や音楽に合わせて体を動かすことは、身体の運動につながります。
- 認知症予防・・・認知症予防には2つの動作を同時に行うことが効果的と言われています。歌いながら手をたたいたり楽器を演奏することは、予防効果が高いでしょう。また、昔の歌を聴くことには回想法(昔のことを思い出し、他者に話すことで脳を刺激する)の効果もあります。
- リラックス効果・・・音楽に触れることで、緊張をほぐし、リラックスできます。
- 人との交流促進・・・集団音楽療法により一緒に歌を歌ったり、楽器を演奏したりすることで、老人ホームの入居者同士で交流するきっかけになります。個人音楽療法でも、実施者とコミュニケーションを取れます。
老人ホーム等での音楽療法のやり方・実践方法
音楽療法を実施する場合、入居者の希望、嗜好、心身状態、ADLのレベルに合わせたプログラムの構築が必要です。また、企画・運営する場合、ただ音楽に触れる場を設けるだけでなく、実施手順を考えることも重要になってきます。
音楽療法の実践例(当日のプログラム)を2つご紹介しましょう。
実践例①
- はじめの挨拶
- 実施者が落ち着いた楽曲を演奏、参加者に聞いてもらう
- 参加者からのリクエスト曲を募り、演奏する
- 参加者に曲に合わせて歌ってもらう
- 参加者にタンバリンやカスタネットなど簡単に扱える楽器を演奏してもらう
- 音楽に合わせて体操
- おわりの挨拶
実践例②
- はじめの挨拶
- 日本人の誰もが知っている定番曲、季節の曲をピアノの伴奏に合わせて歌う
- 参加者からのリクエスト曲を募り、演奏する
- 音楽に合わせて体を動かす
- 落ち着いて聞ける曲を演奏し、参加者に聞いてもらう(クールダウン)
- おわりの挨拶
実施する上でのポイントとして、先述の「能動的音楽療法」と「受動的音楽療法」のどちらもプログラムの中に取り入れること、が挙げられます。両方を行うことで、より大きな効果が得られます。
音楽療法には注意点も。音楽療法士という専門職もある
音楽療法を実施する上での注意点
音楽療法を行うに当たっては、以下の点を注意する必要があります。
- 参加者の聴力の確認・・・高齢になると聴力が低下してしまい、聞き取りにくい音も生じます。特に高音が聞こえにくくなる傾向があり、聴力が弱っている人の場合、高い音ばかりの音楽だとほとんど聞き取れず、むしろストレスになる恐れもあるので注意が必要です。参加者の聴力を事前に確認し、聞き取りやすい曲を選ぶのが望ましいです。
- 参加者の趣味・嗜好に合わせた選曲・・・音楽の趣味・嗜好は人によって異なりますが、共通して好まれるような曲を選ぶことが大切です。また、重要なのは参加者が楽しめるかどうかなので、実施者側・スタッフ側が好きな曲を選ぶのは控えましょう。
- 実践中の反応を見る・・・音楽療法を行っている最中に、参加者の反応をチェックしましょう。疲れが出ていたり、体調が悪そうであったりすると、休憩をとる等の対策をとる必要があります。
- 演奏者・スタッフも楽しむ・・・運営する側である演奏者・スタッフも一緒に楽しむことで、場が盛り上がり、参加者もより楽しくなります。
音楽療法士になるには
音楽療法の専門家である「音楽療法士」という資格もあり、「一般社団法人日本音楽療法学会」が主催するもの、「全国音楽療法士養成協議会」が主催するものの2種類があります。
日本音楽療法学会が認定する音楽療法士の資格を取得する場合、手順は以下の通りです。
- 全国各地に18校ある大学・短大・専門学校が受験認定校。こちらに入学
- 必要単位を取得。
- 年1回開催される音楽療法士試験を受験。筆記と面接があります。
全国音楽療法士養成協議会の音楽療法士の資格は、全国音楽療法士養成協議会が認定する養成校を卒業すれば、認定称号を得られます。どこを卒業したかによって、以下のような違いがあります(卒業にあたって所定の専門教育科目の単位取得が必要です)。
- 専修・・・認定校の大学院修了者
- 1種・・・認定校の大学卒業者
- 2種・・・認定校の短期大学卒業者
大学に入学する必要があるため、介護職として勤務しながら資格取得するのは難しいと言えます。しかし社会人入学という方法もあり、選択肢の一つとして覚えておいても良いかもしれません。
今回は、徳島県の大学生が音楽療法に協力しているとのニュースを皮切りに、音楽療法の内容やメリット、注意点などについて考えてきました。音楽を楽しみながら心身機能の維持・向上を図れる音楽療法は、高齢化が進み老人ホームも増加しつつある中、今後ますます重要度・注目度が高まっていくのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定