東京都が独自の賃上げ施策を発表
賃上げ額は月1~2万円
政府は2024年度の介護報酬改定で、介護職に対する月額6000円の賃上げを決めました。賃上げの取り組みそのものは評価されていますが、その金額の少なさには業界団体から不満の声があがっていました。(第1342回参照 )
そこで東京都では、独自の賃上げ支援策を打ち出しました。
小池都知事は、2024年1月4日に行われた新年のあいさつの中で、介護職の支援として月1~2万円の賃上げ方針を表明。東京の物価や住宅費を考慮した施策の実施を明言しました。
ケアマネジャーにも支給
この施策は、2023年10月に発表された「介護報酬改定等に関する緊急提言」を先行して実施するものとしています。
具体的には「居住支援手当」を新設し、最大で1人あたり月2万円を支給します。対象となるのは都内で働く約16万8000人の介護人材で、居住支援手当を設けた介護法人に支給されます。
その特徴は、都内で働く介護職員のほかに、国の施策では冷遇されてきたケアマネジャーも含まれる点。勤続年数が5年以内の介護職員に月額2万円を、6年目以降の介護職員やすべてのケアマネに月額1万円が支給されるという制度です。

東京都が支援を強める背景
東京都は家賃や物価が高い
介護事業所の収入は、政府が支払う介護報酬に大きく依存しています。介護報酬は介護サービスに要する平均的な費用の額を考慮し、地域ごとの人件費の地域差を調整するため、地域区分が設定されています。そのうえで、地域別・人件費割合別(サービス別)に1単位当たりの単価を決定しています。
これまで政府は、施設の減価償却費・物件費に明確な差は見られないと説明してきました。そのため、介護報酬には土地代などが反映される居住費が考慮されてきませんでした。
しかし、東京都は独自の調査によって、居住費には明らかな地域差があると主張しています。例えば、特養における建設費。東京都の平均(1平米単価)は34万6000円ですが、愛知県は31万3000円、大阪府は31万2000円となっています。建設費が高ければ、それだけ土地の取得費用などが高くなり、物件費が経営を圧迫します。
もちろん土地代が高くなれば、家賃にも影響します。1坪あたりの平均家賃は東京都府中市で7,393円なのに対し、愛知県名古屋市は4,680円、兵庫県西宮市で5,625円と、東京都の家賃が相対的に高いことがわかります。
また、消費者物価指数も東京都の23区部は105.5を超えているのに対し、名古屋市は99.2、大阪市は100.3。東京都は居住費だけでなく物価も割高です。
そのため、こうした格差を埋めるためにも東京都の介護職員に対しては独自の支援が必要だとし、今回の支援策を決定したのです。
ケアマネジャーが含まれた理由
国はこれまで、資格更新制の導入や研修の強化、主任介護支援専門員制度の創設、試験の受験要件の見直しなどにより、介護支援専門員の資質や専門性の向上を図ってきました。
その一方で、介護職員に対する処遇改善加算について介護支援専門員を対象としてこなかったため、その専門性に見合った給与となっておらず、介護職員との給与差が縮小しています。
介護職員とケアマネジャーの給与差は、2012年度には5万7,117円でしたが、2022年度には2万4,395円にまで縮小しています。
そのため、ケアマネジャーに対する魅力が相対的に低くなっており、都内で勤務するケアマネジャー数は介護ニーズが高まっているにもかかわらず横ばいとなっています。
このような背景から、今回の居住支援手当でケアマネジャーへの待遇改善に乗り出しているのです。
介護職員への直接的な影響は?
事業者からは評価と懸念の声が
今回の東京都の施策については、賛否両論の声があがっています。
専門家からは「大胆な決定で効果的」という声があがる一方で、近隣の自治体からは「賃金格差の拡大」を懸念する声も聞かれます。
例えば、東京都と隣接する千葉県北西部の自治体では、生活圏が東京都とほぼ同じで、駅が一つ異なるだけで自治体も変わります。そのなかで東京都では2万円給与が高くなるとなれば、千葉県の介護職員が都内の施設に流出する可能性も否めません。
また、同一法人内でも都内と他県をまたいでいる場合、職員間での不公平感が生じるため、法人内での調整が必要になる可能性もあります。
一方で東京都と同様に手厚い支援をほかの自治体が行うのは財政的にも困難だという声もあります。
東京都と千葉県の歳入額(2021年度)を比較すると、東京都は7兆4,250億円、千葉県は2兆5,386億円。その差は約5兆円にも上ります。
自治体の規模によって住民サービスの質が変わるのは当然ですが、生活圏が重なる隣接自治体では、その格差によって深刻なダメージを受けるリスクもあるのです。

必ずしも給与が2万円アップするわけではない
ただし、今回の東京都の手当は事業所が介護職やケアマネジャーの給与に「居住支援特別手当」を設けた場合、都に申請することでその分の給付金が事業所に支給される形式です。
具体的な申請方法(事業所向け)や、支給可能時期はまだ明らかになっていませんが、個々の実際の賃上げ額はサービスの種類や事業所によって異なると考えられます。
そのため、必ずしもすべての職員の給与が1~2万円アップするというわけではありません。事業所が手当を設けない場合は、当然ながら職員の給与に反映されないからです。
とはいえ、国の処遇改善だけでは不足感が否めないため、各自治体で支援を強化するのは介護職にとってもプラス。今後、こうした動きが全国に広がりを見せるかもしれません。
自治体によって金額は異なるかもしれませんが、介護職の賃金に注目が集まることは悪いことではありません。さらなる支援の拡大を期待しましょう。
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2020年9月7日 制定