サービス付き高齢者住宅の実際
サービス付き高齢者住宅(サ高住)は有料老人ホームと違い、賃貸住宅です。生活相談や安否確認などがセットになっており、介護が必要になった場合は外部業者と契約してお世話をしてもらうことになります。
この形態の難点は、形式が賃貸住宅であるということから、あまり行政の目が届かないという点。許認可制ではなく、あくまで届け出制を取っているのです。
入居者はサ高住での生活に満足している!
サービス付き高齢者住宅協会(サ住協)が行ったリサーチによりますと、サ高住に入居している方の満足度は高い値を示していることがわかりました。

約11%の方が「大変満足している」、57%の方が「満足している」と回答。入居を継続し、サ高住を終の棲家として終世を過ごしたいと考えている人も57%、ここにも満足度の高さがうかがえます。
必要なタイミングでいつでもお世話を受けられる点、生活に困ったことや不便なことがあれば相談ができ、一緒に解決してくれるサービスがあるという点などが、なにより心理的な充実感につながっているようです。
「困ったときはいつでもすぐに助けてくれる」と考えることができることは、大きな安心をもたらします。
これまでできていたことが徐々にできなくなる高齢者にとって、充実したサポートが受けられるというのは非常に大きなことなのです。
今現在はお世話やサポートを必要としていない状況でも、老いを目前にして自立が困難になってきたときに、誰かの手が差し伸べられる環境にいることはとても心強いことです。
こうした点から、サ高住にはある程度の満足度があり、社会的意義もあるものと考えられます。
過剰なサービスが様々な問題を引き起こす
そんなサ高住なのですが、外部の介護サービスを受ける上でそのサービスが過剰に提供され、必要のないお世話まで行われているのではないか、という問題が浮上しています。

特に、大阪府が発表した報告書において、サ高住などの入居者に関する介護費が過剰に支給されている懸念が生まれたのです。それによると、サ高住における区分支給限度額に対する利用割合は、平均86%という結果に。
お世話が過剰に行われると、さまざまな問題が発生してしまいます。例えば、自分でできることを介護士が行うことによって、高齢者の自立を妨げてしまうという問題。
身の回りのことが自分でできなくなった高齢者に対して、お手伝いをしてあげることはとても重要なことなのですが、過剰にやってしまうことで自立を妨げてしまうのです。
これは、寝たきりなどにつながってしまい、事態をより悪化させてしまうため、あくまで機能回復や自立へのサポートをメインにすべきなのです。
介護報酬が国の財政を圧迫
そして、サ高住の過剰なサービスは、もう一つの問題を浮かび上がらせます。それが、介護報酬の負担増加です。
我が国の財政が悪化し、介護報酬が9兆円を超えた今、介護保険料を余分に支払っている余裕はどこにもありません。サービスに対しての対価ということで、正当な報酬を受け取っていると業者は主張するかもしれません。
ただ、サ高住で行われている過剰なサービス「囲い込み」は国の財政を悪化させ、利用者の自立を阻害してしまうという可能性がある点は無視できません。とはいえ、混合介護が解禁されているわけではなく、業者も保険料内の決められたサービスしか提供できていません。
それほど悪徳なことをしているわけではなく、単純にお世話が過剰に行われ、適正報酬よりも多めのサービス利用料が支払われているという状況なのです。
サ高住を利用している高齢者の中には生活保護受給者がおり、それが財政を圧迫する一因になります。高齢者間は格差が激しく、高齢で貧困、親族からの支援も期待できないとなれば役所が手を差し伸べるより他はないかもしれません。
しかし、家賃や光熱費、医療費や介護費などがすべて公金で補助され、自費で支払わなくて良いとなると、そこではモラルハザードの問題も考慮しなくてはなりません。
サ高住の廃業は軒並み増加!
過剰なサービスが提供されがちでありながらも入居者満足度がとても高いサ高住、その数を増やし続ける一方で、廃業する施設も増えています。
2011年から2015年の5年間で、125件ものサ高住が廃業の届け出を出していると国土交通省の調査によってわかりました。

施設を建てる計画だけはできたものの、オープン前になんらかの計画が破綻して施設を開くことができなかったり、サ高住ではなく有料老人ホームに形態を切り替えて運営することになったりなど、理由はさまざまです。
中には純粋にサ高住としての運営に支障をきたし、財務が悪化して廃業に陥ったケースもあり、その場合問題となるのが利用者のゆくえです。もうその施設には住んでいられないとなれば、住み替えることになります。
また新しい施設を探して住み替え、そこに慣れて生きていくというのは、前の施設を終の棲家にしようと考えていた高齢者にとっては大きな負担になるものです。
数としては、入居前の廃業が51.2%で64件ですので、約半数が入居者に迷惑をかける前に何らかの事情で廃業したものと考えられます。
しかし、業態を有料老人ホームにチェンジしたところが34件、それ以外が27件になっており、この27件が住み替えを余儀なくされたものだと考えられます。
住み替えは入居者にとってたいへんな負担になるものですが、現状では国も廃業の詳細をつかみきれていないところがあり、早急な実態把握が求められます。
現状改善には国の施策を待つしかない!?
サ高住には国からの補助金が出ています。
10年間運営を続けなければ、補助金は返却しなくてはいけないというルールもあるのですが、破産してしまった場合には返還のしようがありません。
廃業が増え続ければ、それだけ補助金の無駄遣いも増えます。
そして補助金は税金ですので、サ高住の運営には使われているのは、わたしたちの血税だという点も忘れてはなりません。
では、より良質なサ高住を生み出し、そして運営していくためにはどのような方法を考える必要があるのでしょうか。
例えば、現在のサ高住は届出制だということに着目し、これを許認可制に改めるという施策が挙げられます。
自主的に届け出るだけでなく、ちゃんとしたサ高住の運営ルールを設け、国がもう少し率先してサ高住の質をコントロールしていく必要もあるのではないでしょうか。
介護というサービスが保険という税金を使ったシステムで成り立っている以上、完全に市場原理に任せてしまうのは大きなモラルハザードと格差をもたらしてしまう懸念があります。
富裕層がお金を使って質の高いサービスを受けるのは自由ですし、そうした資産家の高齢者にはどんどん良質なサービスを受け、経済を回してもらうことはとても大切なことです。
一方で介護保険という公的資金が入っている以上、一般の高齢者を市場原理に支配された状態の施設に任せきるのは必ずしも得策とは言えません。どの高齢者にも幸せな老後を送ってもらうために、国によるサ高住の質のコントロールも少しは必要ではないでしょうか。
そして、市場化が避けられない以上、利用者の側にも良質な施設を選択するリテラシーが必要と言えるでしょう。
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2020年9月7日 制定