介護職が外国人技能実習制度へ
外国人実習制度に11月から介護職が追加されることをご存知ですか?今、介護の現場には人が足りないため、今年の11月から外国人に研修で入ってもらい人材不足を補おうという取り組みがあります。
トラブルが起きるのを防ぐため、日本語のスキルを必須として介護の仕事に就いてもらおうという試みとなります。外国人技能実習制度で人を対象としたサービスが解禁されたのは介護が初めてです。
深刻な介護士不足
今、超高齢社会になるにつれて介護士が足りておらず、これからさらに不足することが明らかとなっています。
2020年の時点で約20万人、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には約37万人が不足すると試算されている状況です。
そこで、政府は外国人技能実習制度に着目し、3年の間に1万人を受け入れていきたいと考えています。
11月より入管難民法も改正され、在留資格に「介護」が追加。改正によって最長5年の在留資格が与えられ、日本語と介護の研修が行われます。来年の年明けから実際の受け入れがスタートする見通しです。
現在、日本国内で日本人を対象に介護士を募集しても応募がないため、外国人技能実習制度には期待が寄せられています。外国人の受け入れによって介護の担い手が増える可能性はありますが、この制度を利用しての人材確保にはさまざまな問題があるのです。
介護を担う人材が増えることはとても良いことである反面、いったいどのような問題があるのでしょうか。データと共に学んでいきましょう。
日本の外国人労働者事情
まず、今の日本に外国人労働者はどれほど数いるのでしょうか。

厚生労働省「外国人雇用状況報告」によると、2016年の時点で日本にいる外国人労働者は108万4,000人です。
これは1993年頃から徐々に増え続け、東日本大震災後の2012年を除いて右肩上がりに人数が上昇。外国人労働者のうち正社員や契約社員、パート社員といった直接雇用が約8割、派遣社員の間接雇用が約2割となります。
また、法務省の調査によると在留外国人の総数は238万2,822人。前年よりも6.7%の増加を見せました。男女比では女性が52.4%とやや多くなっています。そして全体のうち半数の約108万人が就労しているということです。
インバウンド政策が功を奏して日本を訪れる外国人は増えていますし、主にアジアを中心として日本で働きたいと希望する外国人は今後もさらに増えることでしょう。
外国人実習制度に介護職が追加された背景
先ほども少し触れましたが、なぜ外国人技能実習制度に介護職が追加されたのでしょうか。

厚生労働省の調査によると、2012年の段階で人材不足と感じた事業者のうち「大いに不足」と感じているのが11.9%、「不足」と感じているのが26.2%です。
約4割弱の訪問介護事業所が人材不足と回答しているのが現状で、施設介護の不足感が18.2%であるのに対し倍以上の訪問介護が人材不足を実感しています。そしてその理由については「採用が困難」が約7割となりました。
介護施設は自動車で各高齢者の家を回ってケアする訪問介護を中心としているので人手が足りておらず、採用に苦労しています。介護事業は他事業に比べて報酬が少ないので新規が入りづらく、人員を募集したくともできない状態になっているのです。
さらに、生産年齢人口である現役世代も人数が減っており、そこへきて超高齢社会で高齢者の数は増加。これを打破するために国や厚生労働省は外国人実習制度の要件を緩和して、介護職員の増加を狙っています。
外国人労働者を介護に使うことのデメリット
外国人労働者を介護職に就いてもらうことで、介護労働者の不足面は解消されると言われていますが、これには不安要素もあるのです。
たとえば、賃金の問題がそれにあたります。
外国人技能実習生の給与は総じて低く、月額15万円未満で働いているケースが大多数です。
外国人労働者が低賃金でも働いてくれるのであれば、事業主はますます介護労働者の人件費を削る可能性があり、介護職全体の賃金がますます低下してしまう懸念があるでしょう。
ただでさえ薄給である介護職の待遇が悪化してしまえば、外国人介護士をサポートする日本人スタッフの離職が相次ぎ、介護の現場において仕事が立ち行かなくなってしまうリスクがあります。
また同時に、日本人である高齢者が納得する質の高い介護サービスを外国人が提供できるか、という問題も発生します。
外国人中にもホスピタリティが高い人は存在しますが、全員というわけではありません。
このように、外国人労働者を介護で使うことは、日本人を介護で使うことよりもデメリットもあることを忘れてはならないのです。
外国人技能実習制度に対する今後の課題

法務省の調査によると2015年に失踪した外国人労働者の数は合計5,803人。
そのうち中国人実習生が3,116人、ベトナム人実習生が1,705人となっています。
2011年度から累計すると約1万人を超す外国人が、技能実習を放棄して、行方不明となっているのです。
これはとても深刻な事態で、入管も把握できない状態であるため入管難民法違反となり、不法滞在となって正規の職に就けないことから治安にも影響を与えるものと見られています。
一方で外国人実習制度は人件費を安くあげるために利用されており、都合の良い人材調達手段として経営者に利用されている側面があるのも事実です。
夢を描いて日本に来て就労したものの、あまりの待遇の悪さに職場から逃走したという事情も考えられ、単に「安い労働力」として外国人を使うことの問題点も浮き彫りになります。
価値観の違いによる人間トラブルも懸念される
また、日本とアジア諸国で文化面の違いがあり、価値観の相違によって外国人介護士と高齢者の間でトラブルが起こる可能性もあります。
食文化も違うため、訪問介護で高齢者宅を訪れても思うような味付けの日本食を作ることができないといった問題点も考えられるでしょう。
日本語の語学学習や日本食の調理実習も整備されている一方で、人手不足のため一刻も早く外国人を現場に入れようと、そのあたりの研修が曖昧なままに勤務がスタートしてしまうリスクもあります。
11月から外国人実習制度で介護の仕事がスタートし、年明けから実際に介護の現場で外国人によるケアがスタートすることになりました。
心配が杞憂(きゆう)に終わり、外国人ならではのホスピタリティを発揮して高齢者に喜んでもらうことができれば理想ですが、同時にデメリットも存在していることを忘れてはなりません。
また、給与の問題は常に考えていかなければならないでしょう。待遇が低ければ離職したいと考えるのは日本人ではなくとも同じであり、日本で暮らすための賃金はすべからく支払っていく必要があります。
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2020年9月7日 制定