定年後に過労死…高齢社会で酷使される高齢者
68歳が22日連勤⁉夜勤中に心筋梗塞で倒れる
先日、高校の警備員をしていた男性(当時68歳)が勤務中に急性心筋梗塞で死亡したのは、長時間労働による過労が原因であったとして、男性の妻が東京労働局に対して労災申請を行いました。
男性は約4年前から都内の私立高校で警備業務をしていましたが、今年2月7日、夜勤中に突然倒れ、その後4月2日に亡くなりました。昨年の9月以降、男性はそれまで3人交代で行っていた業務を2人交代で行うようになり、残業時間は月130時間を超えていました。
男性は生前、人員を増やすように会社側に要望していましたが改善はされませんでした。休日はほとんどなく倒れる前の1ヵ月間は22日連続で勤務し、3日連続で自宅に戻れないときもあったと言います。
報道によると、男性の年金受給額は月14万円ほどで、毎月家賃を払う必要があり、また家族もいるので、生活のために就労を選択したとのことです。
2018年8月の総務省のデータでは、働く高齢者は、パートを含めると全国で約872万人に上り、就業者全体の約13%を占めています。
少子高齢化が進むなか、65歳以上の世代が社会を支える重要な働き手となっているのは間違いありません。
しかし、亡くなった男性のように経済的な理由からフルタイムで働く必要がある場合、労働条件に問題があっても我慢して勤務するケースが少なくないとも言われています。
65歳以上の4人に1人が働かざるを得ないのはなぜか?
「労働力調査」によると、2017年時点で就業している高齢者は、高齢者人口全体の24.5%に上ります。実に高齢者の4人に1人が働いていることになるわけです。

また同調査によれば、2017年の就業中の高齢者は前年比37万人増の807万人となり、統計が開始された1992年当時は300万人をわずかに超える程度だったので、25年で2倍以上も増加したことになります。
就業者全体に占める高齢者の割合も12.3%と過去最高となり、高齢化の進展とともに、働く高齢者が増え続けているのが現状です。
高齢者の就業者数が増えている背景には、行政による雇用促進政策も大きく影響しています。
自治体による高齢者の就業支援は全国的に行われており、例えば東京都中央区は「高齢者雇用企業奨励金」という制度を作り、高齢者を雇用する企業に対して、奨励金という形で経済的支援を実施しています。
奨励金の給付には複数の要件(継続して半年以上同じ企業で働いていること、経営者の家族・親族ではないこと、など)が設定されてはいますが、企業が高齢者を雇い入れることでメリットを受けられる仕組みが作られています。
高齢者労働の現実はどのようなものか
リタイアできないお年寄りが続出
内閣府が「高年齢者就業実態調査」などを基に行った調査によると、働いている高齢者の71.8%が、就業理由として「自分と家族の生活を維持するため」や「生活水準を上げるため」「その他の経済的理由」などを挙げています。
また、60代後半になっても「経済上の理由で働く」と回答した人は、男性では60.3%、女性では55.3%に上りました。
高齢者の就労に対しては、「生きがい」や「認知症予防」、「社会と接点が持てる」などさまざまなメリットが指摘されていますが、実際に就労する高齢者としては、生活上の必要に迫られて働くケースが多いことが伺えます。

高齢者が経済的な不安を感じる背景の1つとして、年金支給開始年齢が65歳になったことも影響していると考えられます。
60歳で会社を定年退職した場合、住宅ローンの債務を退職金で一括返済し、年金受給開始まで必要となる生活費を引き続き労働によってまかなうケースなども考えられます。
また、90年代から長く続いた不景気もあり、40~50代の現役時代に予定通りの資産形成ができず、その結果、老後も働かざるを得ないというケースも多いと指摘されています。
高齢者には当てがわれるのは”軽微な仕事”ばかり
高齢者が働くことを支援する仕組みが整備される一方、実際の雇用に関しては問題点も少なくありません。
その1つが、高齢者全員が希望通りに就業できるわけではない、という点です。
厚生労働省の「高齢者の雇用状況」(2014年)によると、本人が望めば定年後も継続して就労できる企業は70.1%です。
約30%の企業は、定年になるとその時点で働けなくなるのです。
また、仮に定年後も就労できたとしても、本人の能力や職場の環境によって、求められることが異なるという難しさもあり、高齢の就業者が職場でどのような役割を求められているのか、そもそも明確に示されていないことも少なくありません。
日本労働研究機構の「職場における高年齢者の活用等に関する実態調査」(2010年)によると、定年後の高齢就業者には「経験や人脈を活かした第一線の仕事」「後進に対する助言や指導」が期待されている一方で、「経験技能を必要としない軽微な仕事」や「職場内のトラブル等の処理」、さらには「顧客からのクレーム処理」といった業務を求める向きもあります。
変わりゆく高齢者の役割
高齢者の働き方、その立場は…
総務省「労働力調査」(2017)によると、高齢就業者を就業上の地位別にみた場合、会社などの「役員」が105万人(13.1%)、「自営業主・家族就業者」が271万人(33.8%)、「役員を除く雇用者」は426万人(53.1%)、となっています。
そして役員以外の高齢雇用者の内訳をみると、非正規の職員・従業員が全体の74.4%を占め、正規の職員・従業員数の割合は25.6%と3割未満です。
非正規の職員・従業員では、「パート・アルバイト」の割合が50.6%と最も高く、以下、「契約社員」が9.4%、「嘱託」が7.3%、「労働者派遣事業所の派遣社員」が3.1%、その他が4.0%と続きます。
就業している高齢者は非正規雇用が圧倒的に多く、雇用的に立場が強くない状況に置かれているのです。
高齢雇用者数は正規・非正規問わず年々増え続けていますが、非正規の職員・従業員数は、2007年当時は141万人だったのに対して2017年には316万人となり、ここ10年間で2倍以上も増加しました。
正規の職員・従業員数は、2007年の69万人から2017年の109万人と1.5倍程度の増加にとどまっており、両者の増加率には大きな差があります。
死亡労災の割合が最も高いのは高齢者
高齢になるにつれ、身体機能や認知機能の低下は避けられません。また、高血圧、脂質異常症など複数の疾病・持病を抱えるようにもなってきます。そのため、若い就業者に比べて、高齢の就業者は労働災害に直面するリスクが格段に高いと言えます。

中央労働災害防止協会の「高年齢労働者の活躍促進のための安全衛生対策」(2017年)では、1989年から2017年までの約20年間の間に労働災害全体の件数は年々減少しています。
60歳以上のみが減少せず、12%から23%へと全体に占める割合も増加している、という事実が指摘されています。
高齢者の就労率が高まることは、健康年齢の増進や老後の社会参加の促進をもたらしています。
しかし、一方で高齢者を労働力として使い潰すような過酷な状況を作り出してることも事実です。
最初に取り上げた警備員の夜勤中に倒れた男性は、まさにその被害者であるとも言えます。
今回は高齢者の雇用をめぐる問題について考えてきました。
働く高齢者は増えていますが、非正規就労や労働災害など、高齢者が雇用の場において危険に晒される状況も増えています。
高齢社会の到来によって高齢者の立場は変化してきており支えられる側から支える側へと、高齢者を雇用の面で守る制度的な対策が必要とされています。
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2020年9月7日 制定