シニアの新しい足として電動自転車が普及するも事故の危険が…
過去10年の死亡事故による死傷者は9割が高齢者
国土交通省の発表によれば、交通事故による死者は2017年で3,694人と、1946年以降で過去最低となりました。
近年では、全体としての交通事故は大きく減少していますが、ここ10年で意外な乗り物の交通事故が増えていることが判明しました。
それが電動アシスト自転車です。

警察庁の発表によれば、電動アシスト自転車による死亡事故は2008年は29件でしたが、2017年には42件まで増加しています。
今年の8月にも、愛知県春日井市の十字路で、タンクローリーと電動アシスト自転車による衝突事故が起こっており、自転車に乗っていた93歳の男性が死亡する事故が発生しています。
愛知県では、電動アシスト自転車による高齢者の死亡事故が9件の起こっており、問題視されています。過去10年の死亡事故の犠牲者は、9割が高齢者でした。
電動アシスト自転車は、高齢者でも楽にこぐことができるため、高齢者にとって気軽に外出に使える便利な交通手段です。しかし、注意を怠ると重大な事故を起こしやすいリスクの高い乗り物でもあるのです。
電動アシスト自転車は9年で26万台も増えている!
自動車産業振興会によれば、電動アシスト自転車の年間生産台数は2009年の31万台から、2017年には57万台に増加しているそうです。8年でおよそ1.8倍以上の出荷増となっており、急速に普及しつつあることがわかります。
また、交通事故総合分析センターの発表した『電動アシスト自転車の事故分析』では、原付バイクの出荷数は年々減少し続けており、2008年には原付の出荷数を電動アシスト自転車の出荷数が上回りました。
同じ資料では、2009年には自転車の保有台数の全体のうち、およそ4%を電動アシスト自転車が占めているとの推計も出されています。
もともとは、子どもを乗せる母親などを対象として開発されたアシスト自転車ですが、現在は高齢者に人気の乗り物となっています。
加齢により身体能力が落ち、自転車をこぐのが難しくなった高齢者にとって、坂道などでも楽に登れるこうした電動アシスト自転車は、便利な移動手段のひとつになっているのです。
こうした流れを受け、自転車メーカーも、高齢者をターゲットとした、運転が容易に行える安全性の高い商品の開発を進めているとされています。
高齢者の電動自転車普及の背景には、免許返納が影響している
電動アシスト自転車の購入に補助金を出す自治体も登場
電動アシスト自転車の人気が高まる背景には、高齢者が免許を自主返納した後の移動手段として購入していることも影響していると見られています。
近年相次いだ高齢者による自動車事故の影響で、免許の自主返納制度の周知が進んだ結果、2016年には16万2,000人が返納を行うなど、現在免許を持たない高齢者が増加傾向にあります。
そんな中、自動車に代わる移動手段として注目されているのが自転車で、特に電動アシスト自転車は、家電量販店などが行う試乗会に高齢者が多く参加する姿がメディアに取り上げられるなど、人気を集めているのです。
免許返納によって自動車や原付バイクを乗れなくなり、加齢によって自転車をこぐことが難しくなった高齢者たちにとって、身体への負担が少なく、簡単にこぐことができる電動アシスト自転車は、渡りに船ともいえる乗り物です。
また、栃木県の足利市や、群馬県の桐生市などの一部の地方自治体では、免許の自主返納を行った高齢者を対象として、電動アシスト自転車の購入に一定額の補助金を出す制度も存在しており、今後も電動アシスト自転車の需要は高まっていくと考えられます。
電動アシス自転車は思わぬ「スピード」が出ることも
こうした電動アシスト自転車によって、高齢者の死亡事故が増えてしまっている理由は、その便利さに一因があるとされています。
交通事故総合分析センターの資料によれば、電動アシスト自転車における高齢者の死亡事故が起こった際の自転車の速度を見てみると、普通の自転車に比べて時速20キロ以上の速度を出している割合が多いことが判明しました。
当然、スピードを出せば出すほど、事故に遭った時のリスクは高くなりますが、電動アシスト自転車の場合は、高齢者であっても、スピードが出しやすいために、思わぬ速度が出てしまい、事故に遭ってしまうというケースが多いと報告されています。

また、これは普通の自転車も同様ですが、死亡事故のおよそ7割が頭部を損傷したことによるものであることが同じ資料に示されています。
普通の自転車よりも速度が出やすいにも関わらず、普通の自転車と同じように、ヘルメットなどの着用をしないで運転していることが、重大な事故につながっているという部分もあるでしょう。
こうした理由からか、電動アシスト自転車の死亡率は普通の自転車の6倍と高い数値となっています。危険度の周知と対策の徹底が、電動アシスト自転車の利用には必須と言えるのです。
事故を未然に防ぐためには意識改革が必要
高齢者は運転技術を過信しがち
ほかにも、高齢者自身の「運転技術への認識」にも事故の原因があると指摘されています。
民間都市開発推進機構が発表した資料によれば、60歳以上の高齢者が自転車に乗る理由は、『気楽に乗れる』が65%と回答してることがわかりました。
こうした意識によって、注意を怠りがちになってしまい、事故が起こるということも考えられます。
また、日本自転車普及協会の調査によると、60歳から80歳の高齢者153人を対象に、自転車の運転技能について行ったアンケートでは、『低下していると思う』と答えた人が6割近くである89人となっていたものの、4割以上にあたる64人が『50歳代の頃と比べて変わらないと思う』と回答するなど、少なくない割合で、運転技術への過信が見られることが判明しています。
当然ながら、若い時に比べれば、筋力や視力、反射神経といった身体能力は加齢によって衰えるため、若年期と同じよう心持ちで運転をすることは、重大な事故を引き起こす危険があります。

事実、先述の交通事故総合分析センターの資料では、電動アシスト自転車による事故死傷者は年齢の上昇とともに増加しています。65歳~74歳をピークに死傷者の半数を高齢者が構成しているのです。
高齢者が自身の身体状況に合った自転車の乗り方をすると同時に、意識を改革することが事故の防止には重要です。
高齢者の身体にあったアシスト自転車を選ぶことが大切
そもそも、自転車は道路交通法上、軽車両に分類されるため、車道や路側帯の通行が義務付けられています。つまり、歩行するときよりも自動車に近い車道での通行をすることになるため、危険度が高くなるのです。
先述した自転車に対する意識の問題と合わせて、その危険性をしっかりと意識し、走行マナーを徹底することが高齢者には求められています。事故に遭わないように心がけることが、安全な自転車の利用に欠かせません。
また、両足が地面に着く高さのもの、あるいはアルミ製のフレームを採用しているできるだけ軽いものを選ぶ。三輪自転車等の転倒しにくいものを選ぶなど、高齢者が無理なく乗れるような自転車を選ぶことも肝要です。
環境整備という面でいえば、自転車の走行レーンを広く確保することや、自転車優先道路の設定などの施策を行うこと。あるいは、上記のような特徴を併せ持つ、高齢者でも運転しやすい自転車の開発・商品化が行われることも必要とされています。
今後の高齢化でますます利用者が増加するであろう電動アシスト自転車が、これからも高齢者の手軽で便利な乗り物であり続けるためにも、その安全性を保つための対策が、いま求められています。
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2020年9月7日 制定