介護職の転倒・腰痛問題に対する事業所と政府の共同取り組み!労災申請への道筋
厚生労働省が就業者の転倒・腰痛対策の検討会を立ち上げ
転倒・腰痛防止の重点対象とされた介護サービス業
5月13日、厚生労働省は、小売業や介護サービス業などで多発する職員の転倒・腰痛の対策検討会の会合を開きました。
これは転倒・腰痛を減らすための具体策を議論するために同省が新たに立ち上げた会議で、今年の夏に中間発表をまとめ、2023年度からの「第14次労働災害防止計画」の中に議論の成果を盛り込む予定です。
盛り込まれた内容については、必要に応じて法制度の改正を行い、現場に対するガイドラインの作成なども行っていくとしています。実際に制度改正や指針の策定が行われれば、介護サービス業の働き方にも影響が出るのは確実でしょう。
厚生労働省によると、検討会では現場での対策のみならず、予防につながる安全衛生教育のあり方や労災防止意識を高める方法、予防策を講じるために必要となる人材などについても議論を進める予定とのこと。
介護サービス業は重点対象でもあることから、今後どのような話し合いが行われていくのか、介護分野の関係者から多くの注目を集めています。
介護業界における労働災害の現状とは
介護業界における労働災害の改善は、実際のところほとんど進んでいないのが現状です。
厚生労働省のデータによると、社会保険施設における「休業4日以上の死傷者数」は右肩上がりで増えており、2017年時点では7,455人でしたが、2021年には1万1,098人となり、わずか4年の間で3,000人以上も増加しています。
会合が開かれた転倒・腰痛対策の検討会は第14次労働災害防止計画に向けたものですが、実は現在進行中の第13次労働災害防止計画(2018年度~2022年度までの5ヵ年)においても、労働災害防止に向けた目標値が定められていました。
その内容は、社会福祉施設の場合だと「死傷者数を年千人率(1年間の労働者1,000人当たりに発生した死傷者数の割合)で5%以上減少する」とのことでしたが、実際には減少どころか、2021年時点で37.8%も増えています(2018年度=1.85%、2021年度2.55%)。
社会福祉施設では労働災害は増える一方というのが実情なのです。
介護業界で腰痛・転倒が増えている要因とは
高年齢労働者ほど労働災害は起こりやすい
現在日本では急速に少子高齢化が進み、若年層の労働者数が減る一方で、高年齢労働者の活躍の場が広がっています。しかしそれに伴って増えているのが、高年齢労働者の労働災害です。
厚生労働省のデータによると、「墜落・転落」による労働災害の発生率は、男性65~69歳の年代を「1.00」とした場合、男性25~29歳の年代は「0.27」。
また、「転倒」による労働災害の発生率だと、60代後半の女性における事故発生割合は、20代女性の約16倍にも上ります。
加齢が進むと筋力や体力、運動能力はどうしても下降していきますが、その点が大きく影響してくるのが「労働災害の起こりやすさ」であるわけです。そして、高齢者が多く働く業界ほど、労働災害は発生しやすいことも意味します。
では、介護業界はどのような状況なのでしょうか。続けて見ていきましょう。
介護業界で進む労働者の高齢化
実は現在、介護業界には高齢化の大波が押し寄せています。
公益財団法人介護労働安定センターの「介護労働の現状について 令和2年度介護労働実態調査の結果」によれば、60歳以上の介護労働者は全労働者の23.8%となっています。
60歳以上の介護労働者は年々増えていて、2016年当時は1万5,914人(集計人数)でしたが、2020年には2万286人にまで増加しました。
それに伴い、介護労働者全体の平均年齢も年々上昇していて、令和2年度は49.4歳で昨年度(令和元年度)の48.8歳から0.6歳上昇しました。
先述の通り高齢者ほど労働災害が起こりやすく、高齢者の割合が高い業界ほど労働災害の発生率は高まると考えられるわけですが、介護業界はまさに該当する業界であるわけです。
現在、日本社会には深刻な少子高齢化が到来しているので、高齢世代が現役世代の労働力を補うという現象自体は、むしろ望ましいことでしょう。
しかし、高年齢労働者が増え続けるということは、それだけ労働災害が起こりやすくなることを意味し、国・事業所にはその点を配慮した適切な対策が必要になってきます。
国や各事業所に求められる効果的な労災防止策
転倒・腰痛が起こった時の労災申請方法と支給される金額
介護業界での労働災害は、介護業務の中で生じるものが中心となるため、やはり転倒・腰痛が多いです。
厚生労働省のデータによれば、2020年時の社会福祉施設における総死傷者数(休業日問わず)は1万3,267人で、そのうち、「転倒」は3,892人、「動作の反動・無理な動作」(腰痛)は4,199人であり、特に多くなっています。
実際に介護業界で働く場合、転倒と腰痛による傷害が生じないように、細心の注意を払う必要があるでしょう。
介護職として働き、転倒・腰痛により怪我をした場合、労働基準監督署に労災申請することで、補償を受けることが可能です。提出書類のフォーマットは労働基準監督署または厚生労働省のホームページからダウンロード可能です。
申請により労災が認められると、各種補償を受けることができますが、中心となるのは療養補償給付と休業補償給付です。
療養補償給付は、労災によって療養が必要になったとき、指定労災病院において診療や薬の処方を自己負担なく受けることができる制度です。
指定労災病院以外の医療機関で治療を受けた場合、いったん費用を自分で支払った上で、後日改めて労働基準監督署に申請すれば補償を受けられます。
休業補償給付は、怪我の治療のために職場を休む必要が生じた場合に、休業4日目から、給付基礎日額(直近3ヵ月の平均賃金)の6割が支給される制度です。
さらに休業時給付金制度の利用により、社会復帰支援を目的として給付基礎日額の2割が支給されるので、実質上給付基礎日額の8割を受給できます。
求められる国や事業所による効果的な腰痛・転倒予防策
一定の補償を受けられるとはいえ、やはり労災は発生させないのが大前提です。転倒と腰痛については、事業所単位でも取り組める予防法はたくさんあります。
例えば、職場での転倒事故予防については以下のような方法があります。
- 段差にスロープを設置する
- 階段に滑り止めマットを設置する
- 居室の家具の角を丸くする
- 浴室内の床を滑りにくい材質にする
こうした対応は入居者向けのバリアフリーとして取り組まれていることも多いですが、職員の転倒予防策としても重要であるわけです。
また、腰痛事故予防については、ボディメカニクスやノーリフトケアの導入・研修の実施、事業所としての腰痛リスク評価とその低減措置、健康管理などが挙げられます。
ボディメカニクスとは「より小さな力で、より安全・効率的に介助を行うための技術」のことで、力学を応用した体に負担をかけない介護手法のことです。腰痛予防につながるとして、近年介護現場で注目を集めています。
また、ノーリフトケアはオーストラリアで導入が進んでいる介護手法で、ベッドから車いすなどに移乗する際に、人力のみの介助を禁止し、利用者の自立度に応じて福祉用具を活用するという考え方です。
専用の福祉用具をうまく利用することで、スタッフの負担軽減を図るというのがその基本理念といえます。
こうした事業所単位での取り組みを促進させるためにも、国としての転倒・腰痛に対する効果的な対応強化策が求められます。
冒頭で紹介した転倒、腰痛の対策検討会で有益な議論が行われ、第14次労働災害防止計画がより実効力のある内容になることを期待したいところです。
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2020年9月7日 制定