透析患者が特養の入居を断られる理由
透析が必要な人の入居は7割の特養で断られる
腎臓疾患などで人工透析を要する人は通院が欠かせません。その送迎・付き添いにはコスト、負担がかかるため、介護施設では入居を断られるケースが後を絶ちません。
厚労省の2021年度の調査結果では、実に7割以上の特養が入所を「断る」と回答。こうした状況を改善するためにも、今回の議論では次のような提案が行われました。
頻繁に行わなければならない通院介助・付き添い等を評価し、透析が必要な方の受け入れにかかる負担を軽減することを目的に以下の要件を満たす場合に、報酬などを加算する。
- 定期的かつ継続的な透析を必要とする入所者
- 家族や病院等による送迎が困難である等やむを得ない事由がある方
- 施設職員が月一定回数以上の送迎を行った場合
この案に対して、有識者からはおおむね前向きな意見があがりました。今後、透析患者を受け入れる施設に対するかかりまし経費などについても議論が行われる見通しです。
透析には時間と手間がかかる
人工透析は、おもに腎臓に溜まった老廃物を体外に排出することを目的としています。では、どの程度の手間を要するのでしょうか。
人工透析は専門的な設備を備えた医療機関で行われます。一般的には血液透析は週3回、1回4時間程度が必要だとされています。しかし、腎機能の程度によっては、透析時間をより長くしたり、回数を増やしたりすることもあります。
なかには、自宅に透析機器一式を導入して患者自身で透析を行ったり、より多くの老廃物を除去する方法も。具体的には以下のような方法が用いられています。
- 長時間透析
- 週に18時間以上の透析を行う方法です。週3回なら1回6時間以上、隔日なら1回5時間以上というスケジュールで実施されます。一般的な方法よりも多くの老廃物を排出することができるとされています。
- 頻回透析
- 隔日や連日で透析を実施する方法です。例えば、隔日の場合は月・水・金・日・火・木・土といったスケジュールになります。頻回にわたって行われるので体調を維持しやすいといったメリットがあります。
- オーバーナイト透析
- 夜間の睡眠時間を利用して7~8時間透析する方法です。長時間透析になるので、透析中の血圧が安定したり、より多くの老廃物が除去できるといったメリットがあります。
- 在宅血液透析
- 自宅に透析設備機器を導入して、自分で透析を行う方法です。好きな時間に透析ができる一方で、患者か介助者が医療施設において十分な教育訓練を受ける必要があります。そのため、全透析患者のうち、在宅血液透析を行う人は1%にも満たしません。
このように、週2~3回の通院が必要になるほか、施設内で実施するにしても特殊な設備と医師や専門家の確保が必要になるため、現実的には透析患者の受け入れが難しいのです。
透析患者が置かれている現状
透析患者の介護度
透析患者のなかには介護を必要とする人も少なくありません。
透析医学会の統計によると、2021年末時点で、慢性透析療法を受けている患者総数は34万9,700人。透析患者数は近年鈍化しているとはいえ、年々増加しており、2021年は前年比2,029人増となっています。
一方で、人口100万人あたりの透析患者の有病率は約2,786人で、国民358.9人に1人が透析患者であるとしています。世界的に見ても非常に多い数値であり、米国腎臓データシステムによれば、日本の透析患者の有病率は台湾に次いで世界2位になっています。
また、40歳以上65歳未満の透析患者全体で、介護保険を取得している患者は6.5%にとどまりますが、65歳以上では介護保険取得者が31.3%に上ります。つまり、高齢になればなるほど介護を必要とする透析患者が増加すると考えられます。
透析患者は歩行機能などに障害をきたしやすい
透析を受けている方は、さまざまな機能に障害が現れやすいこともわかっています。
新潟大学の報告によれば、慢性透析患者のうち69歳未満の女性において移動に関する日常生活動作(ADL)の低下が現れやすいことが報告されています。
また、血液透析患者は非透析人口と比較して、身体機能が著しく低下しており、特に歩行速度が遅く、転倒が多いともされています。歩行機能低下や転倒はQOL低下・寝たきりの原因にもなり、介護が必要になることが少なくありません。
そのため、脚の筋力をトレーニングするリハビリなども推奨されています。リハビリを実施している特養などの入居で、介護度の重度化を防ぐことができれば、医療費の軽減にもつながります。
特養での送迎・付き添いの課題
特養での通院介助の課題
現在、特養における通院介助はあくまで病院までの送迎であり、院内での付き添いは介護保険の適用範囲外である介護保険外サービスとして行われています。そもそも特養では入居する利用者に対して24時間体制で介助サービスを提供することを目的としており、移動については軽視されてきました。
そのため、特養では施設によって通院介助サービスに差が生じています。利用者が自費で支払わなければならないことも少なくなく、送迎サービスの利用回数に上限があることも。
また、透析は頻繁に通院する必要がありますが、そもそも施設側にそれだけの通院を実施できる送迎車や人員が不足しています。
今回の議論にあるように、介護報酬として正式に認められるようになれば導入する施設も増加するかもしれませんが、そのために越えなければならないハードルは決して少なくありません。
ハードルは人的コスト
通院介助を実施している特養はあるものの、透析患者については週2~3回、さらに数時間にわたる治療など、送迎に携わる人的コストがかかるため、施設としては実施が現実的ではないという意見もあります。
送迎サービスだけを提供する人員だけを雇用するという方法もありますが、人件費の増加によって経営を圧迫する可能性もあります。また、透析を必要とする方は歩行が困難なことも多く、介助のプロによる付き添いが必要なケースもあるでしょう。
介護報酬で評価する加算が設けられたとしても現実的な問題が解消できなければ普及には時間がかかります。実際、加算項目によっては、加算できている事業者が1%に満たないものもあります。
施設単位で取り組みを広げるにはハードルも多く、たとえ加算制度を設けても本来の目的である透析患者の施設入居を促進することにつながらない可能性もあります。
こうした現実的な問題をクリアするためには、介護タクシーの活用など、地域ぐるみでの取り組みも評価するといった配慮が必要になるかもしれません。
いずれにしても介護を必要とする透析患者に適切なケアを届けるためにも、サービス提供のあり方も含めた議論が必要ではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定