私達は入院した場合、看護師から手厚い看護を受けることができます。
看護師の人数は患者7名に対して看護師が1名の「7対1病床」が基本です。
しかし、この制度は多くの診療報酬を必要とするため、その削減のに向けた医療ニーズが中程度の「10対1病床」に移行していきたいと厚生労働省が提案を出しました。
診療報酬を正しく評価するため看護配置に焦点
7対1病床を見直して診療報酬削減
急性期病棟では看護師が手厚く配置されていますが、入院患者の中には、重症者だけではなく軽症者も含まれている場合があります。
その際、看護配置にしたがって支払われる診療報酬は適切なものとはいい難いという指摘が厚生労働省を中心とする中央社会保険医療協議会から挙がりました。
改善案のひとつとして、看護師の人数を減らす(1人の看護師が看る患者数を多くする)して診療報酬を削減することが挙げられています。
では、看護師の人数が減ることで、何がどう変わるのでしょうか。まずは看護配置について見ていきましょう。7対1病床は患者7名に対し、看護師が1人、10対1病床は患者10名に対して、看護師が1人で看る(担当する)ことです。
看護師の人数が患者7人に1人となるか、10人に1人となるかの違いですが、看護師にとっては7対1のほうが受け持ち数は少なくなるのでじっくり患者をケアできるというメリットがあり、その分だけ患者側の私たちにとっても安心感があります。
超高齢社会における医療ニーズの変化
その一方で、7対1は看護師の数がその分多く必要になりますので、より医療や看護にかかる負担が増えるため、診療報酬は高めに設定されています。
これまでは看護師の人数で点数(報酬)を決めていましたが、診療実績に比例して段階的評価へと移行するという案が厚生労働省からだされました。
理由の1つとして、7対1病床は多くの医療が必要な患者をケアしていくのに特化した制度でしたが、高齢化により中程度の医療ニーズの患者が混在している可能性があるからです。
それを適切な配分にしていくため、「段階的評価」と呼ばれる変動的要素を診療報酬に組み込むことを試みています。

現行では一般病棟入院基本料という考え方があり、7対1病床では1,591点の点数(※1)が、そして10対1病床では1,387点の点数が設定されています。しかし、診療点数に差があるため病院の収益も異なりなかなかスムーズな移行は困難を極めます。
7対1病床の問題点
7対1病床の負担が大きい理由
この7対1病床ですがその内実、入院している患者とはどのような症状を抱えているのでしょうか。調査によると7対1病床ではがん患者の割合が多く、24.6%、そして約6割が74歳未満の人となっています。
今の日本は、少子化や高齢者にがんの標準治療を施す割合も低いため、より7対1病床のニーズは将来的に減少していくものと見られます。
重症度が低い患者に手厚いケアがなされている現状は、コストの面で言うならば医療費の無駄につながり、それが患者側の自己負担増加につながります。
税金が投入されている以上、必要のない医療や看護は行われるべきではありません。このまま7対1病床のベッド数が維持されれば軽症者にも重傷者と同じで待遇で過度な治療が行われてしまい、結果として無駄な医療費が発生してしまいます。
7対1病床と10対1病床では、より看護師のケアが手厚い7対1病床のほうが高い請求点数がつけられますので看護師の負担は少ないにも関わらず、医療費がかかるのです。
これを防ぐために適正化が必要という流れになりました。これらのことはまだ決定ではありませんが、医療費は年間42.3兆円を超えていて、少しの無駄も許されない状況ということで、実情に応じた保険点数に合わせていく必要があると予想されています。
7対1病床による余計な医療費負担

厚生労働省によるデータを見ても平均レセプト請求点数(診療報酬明細書)は7対1病床においてもっとも高くなっています。これはつまり入院患者の状態はそれほど大差ないものの、診療報酬に大きく違いが出るということでもあります。
現在、診療点数は看護配置によって計算されていますが、これを患者の重症度や治療の効率性そのものといった要素も考慮していく必要があるのではないでしょうか。
ここで言う効率性とは医師不足が続く中、医療を必要とする患者と提供できる医療とのミスマッチが起こりづらい診療を提供していくということです。
また、重症患者割合はどちらも同程度にもかかわらず、単価が大きく異なるということは、必要のない医療が発生している可能性があります。本来10対1病床に入院するべき患者が、より診療報酬の高い7対1に入院すると、無駄な医療費がかかることになるのです。
看護必要度の負担
適正化による看護師負担の変化
こうした適正化の要望は以前からあり、それによって導入されていたのが看護必要度という考え方です。
患者はそれぞれ症状が異なるため、中には1対1で看護が必要な患者もいますし、反対に自立度が高くそれほど看護が必要ない患者もいます。必要に応じて適切な看護を提供するため、病院ごとにどれだけの看護師を必要とするかを数値化したものが、看護必要度です。
7対1病床では患者の25%以上が重症患者である必要があり、それ以下の場合は届け出ができません。10対1病床の場合は、看護必要度による評価が必須となり、重症患者は加算されます。
今は7対1病床と10対1病床で評価軸が異なりますが、ここに追加で重症患者の割合も計算に入れるべく厚生労働省が論点を提示しており、さらに複雑になる可能性が。
これらは現場で働く看護師や医師、そして事務スタッフの事務作業となって負担を増大させる可能性があるのです。
医療現場、看護師負担の実際

現在でも負担を感じているというデータがあります。
公益社団法人全日本病院協会と一般社団法人日本病院会の調査によると、看護必要度の評価を行い、入力していく作業が有効だと考える看護師は70.2%いるものの、そのうち評価項目に関して検討の余地があると答えた人が47.1%、入力作業に関して検討の余地があると答えた人が48.4%、さらに、これらの作業が有用でないと答えた人のうち、86.5%の看護師が入力にも評価にも負担を感じていることがわかりました。
調査は全体で447名に対して行われましたが、そのうち51.2%が入力作業を負担と感じているのです。
看護師だからといって何もかも得意なわけではなく、看護スキルが高い代わりに事務作業を強く負担に感じる人もおり、複雑な評価基準を設けるとより医療現場の負担が増大してしまいます。
今回は看護師の人員配置が見直される可能性について見てきました。増え続ける社会保障費の中で医療費を適正化することはとても大切なことである反面、評価方法が変更になればより医療現場は大変になります。
適切な看護を行いながら医療費も適正化していかなければならないため、厚生労働省にも、また看護師の側にも、業務と医療費のバランスが求められます。
(※1)診療報酬は円ではなく点数でカウントされ、1点=10円となっています。医療保険が診療機関へと支払う金額が点数で表示され、自己負担はここから年齢に応じて決まりますが、現在の高齢者は1割の自己負担割合になります。
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2020年9月7日 制定