2018年12月10日追記
「勤続10年の介護福祉士に処遇改善」についての記事を更新しました。
『第584回:新加算によるベテラン介護福祉士の賃上げ決定へ!もらえる人・もらえない人の不公平感をなくす基準づくりが焦点に』
一般的に、介護職員の月給は全ての産業と比べると10万円ほど低いと言われていますが、これを埋めていくために国から加算案が提出されました。
なんと、超高齢社会で増え続ける介護士のニーズに対応するため、政府は約1,000億円規模の財源を投入し、勤続10年以上の介護福祉士に平均して月額8万円相当の賃上げを行うことと閣議決定されたのです。
2019年10月、勤続10年の介護福祉士は賃上げが確定
介護離職ゼロを実現するための新政策
第379回において、勤続10年以上となる介護福祉士の給与に月8万円アップする提案をしたことについてご紹介しました。その時はまだ確定の段階ではありませんでしたが、2017年12月8日にその提案が閣議決定されたのです。
現政権は「1億総活躍社会」をテーマに掲げており、その中に「介護離職ゼロ」を目指すとしています。2兆円の新しい経済政策パッケージを決定し、そのうち約1,000億円を介護職の賃上げに使う方針です。
年間10万人にもおよぶ介護離職をゼロにするには、被介護者を介護施設に預けることができる環境が必要不可欠であり、そのためには不足している介護士を待遇充実によって増やさなければいけません。
すでに処遇改善加算によって、月最大3万7,000円の賃上げが行われていますが、介護士の離職率をより下げるためにも大きな賃上げに踏み切ったものではないでしょうか。
縮小する介護業界
その背景のひとつとして、介護福祉士の減少があります。
介護福祉士を受験した人は2015年度には16万919人いたものの、翌年の2016年では7万9,913人とたった1年で半減しているのです。
原因は主に、介護福祉士試験の受験資格を取得しづらくなったことにあり、半年以上も「実務者研修」を自腹で行わなければいけません。
試験に合格しなくとも介護職に就くことはできるため、あえて自費で研修を受けて介護福祉士の資格を取るまでもないと考える人が増えたのではないでしょうか。そうしたこともあってか、介護福祉士の資格を取得しても介護職に就かない人が増加しています。

さらに、施設の側における介護職員や訪問介護員の採用率も低下しており、2016年には19.4%にまで落ち込みました。ここ数年は減少傾向にあり、今後もますます介護現場は人手不足に拍車がかかると見られています。
介護業界に対して「採用率が低い」や「離職率が高い」、「仕事がきつくて給与が少ない」といったイメージがついて敬遠されたのは、これらの問題もあるでしょう。
このことは介護業界について少し勉強すればわかることで、政府も待遇を改善してなんとか環境を良くし、介護職に関心を持ってもらおうという方針ではないでしょうか。
この政策の問題点とは
対象となる介護福祉士がほとんどいない
とはいえ、1,000億円もの税金を投入して介護福祉士の給与を月8万円も上げるこの政策ですが、実は問題点もあるのです。

まず、この賃上げの対象となりお金をもらえる介護士がほとんどいないということです。なぜならば、厚生労働省の調べによると介護福祉士の平均勤続年数は6年で、勤続10年の介護福祉士は少ないというのが現実だからです。
さらに、この8万円の賃上げは、介護施設に長く勤めている介護福祉士にとっては報われるかもしれませんが、一度介護の仕事を検討し、資格を取ってまだ就いていない潜在的な介護福祉士には意味がありません。
つまり、今、介護の仕事に就いている介護福祉士を引き止めることはできるかもしれませんが、介護福祉士そのものを増やす可能性は低いと考えられます。
支給額全てが介護福祉士の収入になるとは限らない
さらに、この月8万円の賃上げは国から支給されたお金が一旦介護事業所に入り、事業所の判断で各介護福祉士にどの程度の賃上げを行うかが決定されます。
つまり勤務先によって給料の額が異なる可能性があり、その事業所での勤続年数や雇用形態、職場でどの程度評価されているかなどによっても、賃金が大きく変わることも考えられるのです。
結局、事業所が給料を決めることは変わらないため、仮に事業所の経営が思わしくなければ賃上げはわずかにとどまる可能性もあります。
また仕事の内容に関わらず10年勤務すれば誰でも対象になるなど、見直すべき点は多いのではないでしょうか。
介護業界を盛り上げるには
介護職員の増加が不可欠
では、そもそも介護業界全体を盛り上げるにはどうすれば良いのか…と考えると、まずはマイナスイメージの払拭ではないでしょうか。

厚生労働省の調査によると、介護職についてのイメージとして「きつい仕事だと思う」が65.1%、続いて「給与水準が低い」が54.3%、「先行きが不安」が12.5%ありました。
「やりがいがある」などの肯定的なイメージも一部あるものの、マイナスイメージが先行しており、介護職に新規で就たがる人が少ないという現状が浮き彫りとなりました。
介護という仕事は、高齢者の自立をサポートするため、機能回復していく高齢者を間近で見ることで大きなやりがいになりますし、あたたかなコミュニケーションも生まれます。
しかしそういった面がありながら、「きつくて低賃金」という印象を持っている人が半数以上いることがわかりました。
では実際の現場ではどのようになっているのでしょうか。同じく厚生労働省の調査によると介護職の離職理由として「結婚、出産・育児」が31.7%、「運営方針に不満」が25.0%、「人間関係の不満」が24.7%となっています。
介護の仕事は女性が圧倒的に多いのと、人手不足が相まってワークライフバランスをうまく取れずに辞めていくとみられています。
それに加えて施設の方針や人間関係といった、職場環境の不満をきっかけとして離職する人も。
離職理由として「給与が少ない」を挙げた人は23.5%で第4番目となりました。
これらの離職理由を解決できれば、定着率が上がる可能性はあります。ワークライフバランスや職場環境、収入の問題を果たして今回の施策で一挙に解決することができるでしょうか。
介護業界の給与比較
ここで介護業界の給与を比較してみましょう。看護師や准看護師の平均賃金は28万6,138万円、介護福祉士は23万3,596円となり5万円以上の差が開いています。
そして、先程介護施設の採用率が低いことをお伝えしましたが、公益財団法人「介護労働安定センター」の調査によると、施設が採用を難しいと思う理由に「給与水準が低い」が57.4%を占めているのです。やはり介護の仕事には給与水準の低さがつきまといます。
今回は勤続年数10年以上の介護福祉士に月8万円の給与アップが閣議決定されたことについてみていきました。実施は2019年10月からで消費税増税と同時です。その増収分が財源に充当され総額1,000億円の税金が投入されます。
増税分が原資であるものの、一部介護職の待遇が改善することは確かではないでしょうか。しかしその一方で、新たに介護士になろうという人にとって勤続10年は長く、人手不足の解消にはつながりづらい側面もあります。皆さんはこの賃上げについてどう思いますか?
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 2987件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定