介護福祉士の養成学校へ通う学生に対して資金が援助される「修学資金貸付制度」。
その制度に対して14億円の予算が投じられることが明らかになりました。
介護福祉士・社会福祉士養成施設に通学している間は毎月5万円、入学時と卒業時に20万円を借りることができ、国家資格を取得して介護職を5年間勤めれば返済が不要となります。
介護福祉士を希望する学生に修学資金を貸し付け
2018年度補正予算・追加歳出の内訳
政府は今年度の補正予算・追加歳出を合計2兆8,964億円とすることを決定しました。
公共事業に1兆2,567億円、国が推進する「人づくり革命」「生産性革命」に4,822億円を支出。
厚生労働省に充てられた額は1,293億円とされており、そのうちの643億円は子育てを後押しするとして、保育の整備に充てられることになります。
介護に関しては、14億円がこの修学資金貸付制度に充てられることとなりました。介護福祉士の養成校に外国人留学生が増えていることを鑑みて、財源がなくならないよう追加の予算が補填されたものです。
修学資金貸付制度とは、介護福祉士・社会福祉士養成学校に通学している間は毎月5万円を、入学時の初回と卒業時の最終回に20万円を借り入れることができる制度で、国家試験の受験対策費としても1年に4万円貸してくれる、介護福祉士の養成校に通学する人にとってはありがたい制度です。
介護福祉士の資格取得率と従事率
介護福祉士は介護職の中心となる職種で、身体介護や生活援助といった高齢者のお世話を主に行います。これは国家資格でもあり、専門知識と技術を持って、たん吸引や胃ろうといった医療的処置なども行うことができる資格です。
老人ホームなどで働き、他専門職との連携も必要なコミュニケーションが求められる仕事である一方で、ハードワークの割に賃金が低く、離職率が高いことが問題視されています。

そのため、介護福祉士の国家資格を取得しても従事しない人が多く、厚生労働省の調べによると2015年の時点で139万8,315人の登録者がいるものの、実際に現場で従事している人は78万2,930人にとどまっているのが現状です。
介護福祉士の増加を目指す背景
介護福祉士試験を受験しづらくなった

この度の施策からも、政府が介護福祉士を増やしたいと思っているのは明らかです。
その背景の一つとして現在、「介護士になりたいと考える人は減少傾向にある」という事実が存在しています。
2016年の時点で介護福祉士の受験者数は15万2,573人だったものの、翌2017年には7万6,323人に半減してしまいました。
2018年に行われる介護福祉士試験には9万6,247人が申し込んだことから前年の6割までもち直す見込みがありますが、依然として15万人台への回復は険しい状況です。
この原因は最大450時間の実務者研修を受ける必要があること、そしてそれは自腹かつ仕事を休んで受けなければならないというルールが追加されたことで、介護福祉士の資格取得条件が難しくなったことが大きいとされています。
それに加えて、介護福祉士になりたいと考える人そのものが減少しているという事情もあります。
介護福祉士には年齢制限があまりないことから転職が比較的容易な一方で、低賃金や待遇の影響によって他の産業に労働力が流れ、介護の現場に人が回ってこないという現状があるのです。
2025年問題への対策
介護福祉士に関連した話題として、「2025年問題」をご存知でしょうか。団塊の世代が2025年には後期高齢者になるとして、社会保障費が大幅に膨れ上がり、医療や介護の手が足りなくなるという問題のことを言います。
2025年の日本の人口において4人に1人が後期高齢者になると懸念されている一方で、介護福祉士の成り手が今のままでは大幅に不足すると言われており、ますます介護福祉士のニーズは高まるでしょう。
もし介護福祉士が足りなければ、高齢者の世話を家族でする他なく、介護離職が相次ぐことになってしまいます。
現政権は「介護離職ゼロ」を掲げているものの、現在すでに年間10万人もの人が介護離職をせざるを得ない状況に陥っていることがデータとしてあります。
現在の雇用環境では一度離職すると再就職が非常に困難となっていることから、介護離職の問題を放置すれば「介護が終わったのに職場復帰できず貧困になる」とされています。
2025年問題は誰にとっても他人事ではなく、日本に住む以上は対策を考えていかなければならない問題となっています。
介護福祉士を増やすには?
なぜ介護福祉士が増えないのか
ではなぜ介護福祉士が増えないのでしょうか。まず、介護という仕事に経済的な意味で魅力を感じる人が少ないということが挙げられます。
そもそも介護福祉士に限らず、介護職員は賃金が低いのが現実。
厚生労働省の調査によると2016年の介護職員は月給が平均して17万9,680円程度となっています。
これでも前年から2,790円増えたものの、管理栄養士や介護支援専門員などの他職種に比べて低いことには変わりなく、低賃金というイメージが一般に浸透しているため、介護士になりたいと希望する人があまりいないのではないかと推測されます。
また介護福祉士の資格を取得して、手当や待遇に満足していない人が87.3%もいる状況であることがわかっています。こうした現場のデータからも、待遇に不満を持っている人が数多くいることがわかりますね。
介護福祉士減少に対する国策とは
それでは介護福祉士の給与が低くハードワークであることに関して、国はどのような手を打っているのでしょうか。
まず、勤続10年の介護福祉士には、月8万円相当の処遇改善加算が予定されています。
財源を確保し、介護福祉士として長期働いてもらうためのインセンティブを設けた形です。
介護福祉士の処遇改善が行われたことは大きなニュースとなりました。
しかし該当する人があまりに少ないことと、なにより”勤続10年”の介護福祉士を対象としていることで、新たに介護福祉士になろうとする人にはインセンティブが働きません。
処遇改善はこうした問題も抱えています。
また今年度から、外国人技能実習生に介護ビザや技能実習ビザが許可され、介護福祉士の資格を取れば在留資格を得ることができるようにもなりました。
外国人技能実習生は、本来、日本の技能を学び、諸外国の人に自国へ技能を持って帰ってもらおうというものです。しかし増え続ける介護ニーズに対応し、現場の人員確保をお願いしたいという国の思惑もあるのかもしれません。
今回は、介護福祉士を目指す人たちに月5万円が貸与されるという制度についてみてきました。
介護福祉士の不足で2025年問題への対策が急がれる中、介護現場で5年働くことで返済が免除される修学資金。
これは介護福祉士のみならず、介護業界全体にも大きなインパクトを与える可能性は十分にあります。
14億円の予算を割いた今回の施策、国としては大きな決断をしたという声も多数ありますが、皆さんはこの介護福祉士の問題に関してどういった意見を持っていますか?
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2020年9月7日 制定