厚生労働省、介護保険料の調査結果を公表
介護保険料の未納者が過去最多に
厚生労働省が7月25日に公表した「介護保険事務調査」によると、2016年度に介護保険料を納めなかったことで市区町村に資産を差し押さえられた人は、全国で1万6,161人。
前年度から2,790人増え、調査が開始された2013年度以降では最多となりました。

資産の差し押さえは、保険料の未納期間が長期に渡っている人を対象に市町村の判断で行われ、2016年度に差し押さえを行ったのは全国の543市町村。差し押さえられた人の中には、第2号被保険者(40~64歳までの現役世代)も含まれています。
また、保険料未納により償還払いとされた人の数は前年度比243人増となる2,559人、償還払いの差し止めを受けた人は18人増となる57人です。
そして、自己負担額の割合を引き上げられた人は、268人増となる1万3,331人となりました。
自己負担額割合の引き上げ者数が1万人を超えるのは4年連続です。
介護保険料は払い手の減少、受け手の増加が続く中で年々増額しつつあり、さらに8月からは未納の場合の自己負担割合が最大で4割に引き上げられるなど、保険料の未納に関連する状況・問題は次第に深刻化しつつあるといえるでしょう。
介護保険の未納者には金銭的なペナルティが
介護保険制度は、介護が必要な人を支えるために2000年4月からスタートした制度で、40歳になったら加入義務が発生し、介護保険料を納付せねばなりません。
国民が納める介護保険料は、介護保険制度を支える財源(財源は税金部分50%、介護保険料50%で構成)となるわけですが、もし、保険料の未納期間が続いた場合は、介護保険の給付制限を受けるなど、さまざまなペナルティーが発生します。
介護保険料を納めていない場合に生じるペナルティは、未納期間の長さに応じて重さが変わる仕組みです。
まず未納期間が1年を超えた場合、介護保険サービスを利用したとき、最初に費用を全額支払い、その後で給付を受けるという「償還払い」という形式が取られるようになります。
後に償還されるとはいえ、一度、全額(自己負担10割)を払わねばならないというのは大きな負担です。
また、未納期間が1年半を過ぎると、この「償還払い」も差し止められるようになり、2年以上未納期間が続くと自己負担額が3割(8月からは、所得状況によっては4割)へと引き上げられます。
ただし、実際には要介護認定者本人の収入状態や心身状態、納付の意思などに市区町村が配慮し、より柔軟な対応が取られることも多いです。
介護保険料を払えない理由は?
理由1:介護保険料の減免ができることを知らない
介護保険料をやむを得ない「特別の理由」によって払えなくなった人に対しては、申請により減免制度が適用されます。
具体的には「生活を支えていた人が亡くなる」「年度の途中で地震などの災害に遭う」「長期間入院する」といったことが原因で世帯収入が著しく減少した人や、生活困窮者が減免の対象です。
減免制度は市町村ごとの条例によって定められていますが、厚生労働省は、減免に対する基本的なルールとして、「個別申請によって判定を行う」「減額のみで、全額免除は行わない」「保険料減免に対して一般財源の繰入を行わない」の「減免3原則」を規定しています。
2015年に厚生労働省が行った調査では、全国の保険者(市町村および特別区)で低所得者への単独減免を行っているのは495保険者(全保険者の31.5%)。減免を行っている保険者のうち、減免3原則を遵守しているのは459保険者となっています。
介護保険料を滞納した場合のペナルティを考えると、減免制度はできるだけ活用すべきだと言えるでしょう。
どうしても自力で払えない場合は、生活保護を受け、保護費で払うという方法もあります。
しかしこうした制度があることを知らず、結果として罰則を受けてしまうという人は少なくないのが現状です。
理由2:年金の減少と介護保険料の増加
介護保険の被保険者には、65歳以上の第1号被保険者と40~64歳の第2号被保険者がいますが、第1号被保険者が負担する介護保険料は、年金から天引きされることになります。
しかし、少子高齢化が進む中、年金給付額の減額化は避けられない状況です。
「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金保険(第1号)受給者の平均月額は、2012年度では15万1,374円でしたが、2016年度では14万7,927円と4年で3,000円以上減少しています(過去10年間で1割程度減少)。
また、厚生労働省の試算によると、現在の男性被保険者の平均手取り収入額は約418万円で、夫婦2人の年金額の平均はその約62%ほどですが、今後20年以上の時間をかけて約50%にまで減少していく見込みです。
年金が減っていく中、負担する介護保険料は増えていきます。厚生労働省の資料によれば、2017年度における介護保険料の全国平均は月額5,514円ですが、2020年度には6,771円、2025年度には8,165円にまで上昇すると試算されています。

2025年以降も少子高齢化は進み続けるので、将来的に1万円を超えるであろうとも予想されているのです。
年金受給額が減っていく一方で、介護保険料がどんどん増えていくとなると、「介護保険料を負担できない」という高齢者は、今後さらに増加していくことも考えられます。
介護保険の未納者は今後も増加する恐れ…
介護保険料未納者への罰則を強化して対策
先に述べた通り、介護保険料を延滞すると期間に応じてさまざまな罰則があり、未納期間が2年以上になった場合は、「介護サービス利用時の自己負担額が引き上げられる」というのがその罰則内容でした。
今年の8月からはこの罰則がさらに強化され、介護サービスを利用した際に自己負担額が3割になる人は、保険料を2年以上滞納した場合、罰則として「4割」の自己負担額の支払いが必要になったのです。
この罰則強化は、同じく8月から始める「介護保険サービス利用料の自己負担3割の導入」に合わせて行われました。自己負担額が3割となるのは、年金などの年収が340万円以上(単身者)ある場合など、比較的経済的に余裕のある高齢者です。
厚生労働省によれば、8月から自己負担額が3割になる利用者は、介護保険サービスを利用している人全体の約3%(全国で約12万人)ほどになると見込まれています。
しかし、介護施設に入居している人などの場合、罰則によって4割まで自己負担せねばならないとなると、入居の継続・介護サービスの利用継続が難しくなる恐れもあるでしょう。
介護保険料の値上げによって介護サービスを利用できない人も
現在、日本人の平均寿命は年々上昇しており、2017年時点では男性81.09歳、女性が87.26歳です。
ただ、健康な状態を保ち、介護保険サービスを利用することがない「健康寿命」の期間は、2016年時点で男性が72.14歳、女性では74.79歳。
平均寿命と健康寿命の差は人が一生における「健康ではいられない期間」を示し、その間は、介護保険サービスの利用期間にもなります。
近年はわずかながら両者の差が縮まってはいるものの、なお男性で約9年、女性で約12年あるのが現状。
このままでは将来的に、介護保険サービス利用者・介護給付費が増え続けることは避けられないと言えます。

そうなると、介護保険料の増額も避けられません。
増額した介護保険料を払えない人が増えると、罰則によって介護保険サービス利用時の負担はさらに増加するので、負担が大きいために介護サービスを利用できない人・利用しない人が増えていくことも考えられます。
そのような事態が進展していくと、介護保険制度自体、成立しなくなる恐れも生じるのです。
今回は介護保険料の未納問題について取り上げました。高齢化が進み、介護保険料が増え続けるのは避けられない状況です。介護保険料の納付に関わる問題について、今後も取り上げていきます。
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2020年9月7日 制定