ジャーナリストが体験した家族介護!離職、ストレス、虐待…息子介護の限界はこうしてやってくる
私は、2014年7月から2016年1月にかけての2年半、母がアルツハイマー病を発症したことで、同居しての介護を経験した。発症時、母の年齢80歳。年齢を考えれば、このような事態がいつ起きてもおかしくはなく、事前に考えておくべき問題だった。しかし、私は介護の準備を一切せずに突入し、そのせいで大変な苦労をした。
2017年8月に、自分の介護体験を著書『母さん、ごめん。』にまとめて上梓(じょうし)した。以下、そのときの苦労を踏まえて「息子が母親の介護をするときに注意すること」を紹介していく。
キーワードは、「社会とのつながりの維持」であり、目的は「介護を完遂すること」となる。
介護者のうち、1割が男性であり被介護者との関係は親子
介護は家庭内だけのできごとではなく、社会的事業である
いま現在、介護に直面していない人にとって、介護を自分のこととして想像するのは困難だろう。しかし、介護はいつどのような形でやってくるかわからないし、介護の矢面に男性が立つことも決して珍しくはない。
2016年度の「国民生活基礎調査」によると、「ほとんど終日介護が必要」であると判断された者を介護している人のうち、27.5%が男性である。この27.5%のうち、15.2%が夫による妻の介護であり、10.5%が子どもによる親の介護だ。つまり、介護に直面した人のうち、約1割が息子が親の介護をするというパターンなのである。


1割というと少なく思えるが、決して無視してよい割合ではない。むしろ「いつ何時、介護しなくてはならない立場になるか、わかったものではない」と考えるべきだ。そしてその背景には、「妻や女兄弟に介護を押しつけている男性が多い」という社会の歪みが見て取れることも、忘れてはならないだろう。
では、息子が親を介護するというシチュエーションでは何が重要になるのだろうか。まず、「介護は家庭内だけのできごとではなく、社会的事業である」ということを強調しなくてはならない。子どもと親、あるいは配偶者同士の関係で起きることなので、ついつい「家庭内のできごと」と考えがちではある。
しかし、自分の経験から考えるに、とてもではないが、介護は家庭だけで担うことができるような小さな事業ではなく、ましてや、たったひとりで完遂できるものでもない。「男は黙って…」という昔のビールのコマーシャルではないが、男性介護者は、女性に比べるとコミュニケーションが下手で、自分の殻に閉じこもりがちな傾向がある。
この男性介護者によくみられる「黙ってひとりで責任を引き受ける」という態度は、介護にあたっては大きなマイナス要素である。すでに述べた通り、介護は個人が引き受けきれるものではないからだ。引き受けられないほどの大事を引き受けようとしたとき、人は壊れる。介護する自分が壊れれば、介護そのものが立ち行かなくなってしまうのだ。
家族は介護維持の体制を作り、最後まで運用していくことが大事
よく誤解されるのだが、介護における家族の最大の仕事は「親なり配偶者なりを直接介護すること」ではない。「介護を維持できる体制を作り、それを最後まで運用していくこと」である。
なぜ「自分が介護する」ではダメで、「介護の体制を作り、維持する」でなくてはならないのか。それは、要介護者は徐々に容態が悪くなっていくからだ。介護は大抵の場合、状態が好転することはなく、悪化する一方である――これは通常の闘病や子育てにはない、介護の大きな特徴である。
自分で介護を直接引き受けていると、悪化していく状況にどこかで耐えられなくなる。私の場合、ひとりで介護を背負い込んでいた11ヵ月もの間、まさにこの状況だった。母の状態は次第に悪くなり、掃除や洗濯、料理など、今までできていたことが、だんだんとできなくなっていった。
できなくなったことは、私が肩代わりをするわけだが、その負担は母の衰えが進行するとともにどんどん増えていった。「自分が頑張ればなんとかなる」と努力した結果、私は極度のストレスで幻覚が出るところまで追い詰められてしまったのだ。
悩んだ結果、私は公的介護を利用することにした。公的介護を使うと、ケアマネージャーという相談する相手ができ、家にヘルパーさんが入るようになると、介護のプロと日常的に会話することにもなる。さらに、デイサービスという昼間だけ預かってくれるサービスを使うようになると、そこの職員さんとも面識ができる。これらの人々と積極的に会話して、プロの知識を吸収することで、私は悪化し続ける状況を対応することが可能になった。
介護と仕事の両立が辛くとも介護離職をしてはいけない理由
年間で10万人もの介護離職者が発生している
私のように、息子が親を介護する場合、基本的に仕事を続けながら介護をすることになる。そうなると、仕事と介護の両立は時間が経つにつれて辛くなっていき、次第には介護離職という「介護のために仕事を辞める」選択肢を考える人も出てくる。総務省の「就業構造基本調査(2017年度)」によると、年間約10万人もの介護離職が発生している。

ここでも男女格差があり、半数に当たる5万人は女性の非正規労働者である。ただし、男性正規労働者の介護離職も1万2,000人もいるので、決して他人事として片付けることはできない。
ここで肝に銘じておくべきは、絶対に介護離職をしてはいけないということだ。「公的機関や会社と相談しつつ、粘れるだけ粘って持続的に介護できる体制を作る」というのが正解である。
もし、あなたの周りに直接介護の矢面に立つ家族がいるのなら、介護離職してしまわないように注意を払い、相談に乗る必要があるだろう。
なぜ介護離職してはいけないのか――それは介護離職してしまうと、介護をする人が社会的なつながりを絶たれてしまうからだ。
介護休暇は持続的に介護できる体制を組むために使うべき
介護する人は、同時に働くことで社会に参加し、経済を回している。そのつながりが切れてしまうと、まず収入がなくなる。貯金があるうちはそれでも良いが、貯金があるうちに介護が終わるとは限らない。お金がなくなって、それでも介護が続くとなると、そこで行き詰まってしまう。

「運良く」被介護者が息を引き取り、貯金があるうちに介護が終わったとしても、後に残るのは社会的なつながりがぶっつりと切れた自分だけ。再就職するにしても、キャリアに空白があると現状ではなかなか難しい。すると、「お金のない次の要介護予備軍」である自分が取り残されることになる。介護に専念してはいけない。介護と生活は両立させなくてはいけないのである。
「そうはいっても会社は理解がないし、とても無理」と思う方もいるだろう。が、労働者が介護をするというのは、今やそう珍しいことではなくなっている。2016年に改正育児・介護休業法が施行され、年間5日間の介護休暇に加えて、合計93日までの介護休業が認められるようになった。これらは法的義務なので、雇用者は拒否できない。
ただし、これらの休暇・休業が取得した場合も、得られた余裕を「直接自分で介護する」ために使ってはいけない。「持続的に介護できる体制を組み上げる」ことに使うべきである。介護休業が終わっても介護は続く。介護休業を直接的な介護に使い切ってしまうと、介護離職しか選択肢がないということになりかねないからだ。
「自分がやる」という責任感がストレスに…
家庭での高齢者虐待のうち4割が息子によるもの
容態の悪化に応じて介護体制を組み替えて、持続的な介護を行うということは、言い換えると「自分にかかるストレスを一定以下に、耐えられる範囲内におさめる」ということである。これが介護を続けていくにあたっての、絶対的な条件だ。
とはいえ、被介護者の容態が進行することは止められない。介護者の限界も、いつかは来てしまうだろう。家での介護が限界となると、特別養護老人ホームやグループホームなど専門の施設に委ねることになるが、そのことは恥でも失敗でもなく、必要なことだ。
問題は「いつ、それを決断するか」である。私の場合、容態の悪化から来るストレスが限界に達し、母に暴力を振るってしまったことで、介護施設に預ける決心がついた。
本来はもっと早く、こういう事態が発生する前に決断するべきだった。こうなってしまったのは「自分がやる」という責任感が、自身に過大なストレスをかけてしまった結果である。

厚生労働省の2014年度調査によると、家庭での介護において発生する虐待は、40.3%が息子によるものだった。前に述べた通り、介護者全体の中で息子の占める割合は1割なので、特に息子は虐待に走りやすいと自覚して介護に臨む必要がある。
最終目標は「介護を最後まで完遂すること」
虐待が発生してしまった場合は、介護者に対する、周囲の者――兄弟や親族、ケアマネージャーといった公的介護の担当者のサポートが重要になる。このとき介護者の周辺、公的介護による支援者や兄弟などが心がけるべきことは、「なぜ虐待をしたのか」と介護者を追い詰めないことだ。
過重なストレスが原因なのだから、それ以上のストレスをかけるべきではない。被介護者を施設に委ねることで、ストレスを軽減し、事態の改善を図るべきである。
ただ、頑張ってきた介護者本人にとって「介護施設に預ける」という決断はなかなかできないものだ。周囲が客観的に見て、適切にアドバイスをすることで、自宅介護から施設介護へタイミングの良い移行が可能になる。

全体でも言えることだが、介護において「自分ができる」と思うほどに、自分は強くも有能でもない。その中で介護を効率よく制するには、「常に目標はなにか」ということを意識しておくべきだろう。介護における目標は「自分が介護する」ことではない。「介護を最後まで完遂すること」だ。介護の完遂のためには、自分の弱さを自覚して何でも利用し、誰にだって頼る――これこそが「息子の介護」における必須の覚悟である。
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2020年9月7日 制定