高齢者の肥満が急増!肥満は認知症の危険が74%高まるとの調査も…BMIより腹囲に注意が必要
いま、高齢者の肥満症が医療現場でも問題に
日本老年医学会が肥満症高齢者のための診療ガイドラインを公表
日本老年医学会は2018年12月に、同学会のホームページ上で、『高齢者肥満症診療ガイドライン2018』の公開を開始しました。
これは、同学会が作成に取り組んでいる『高齢者生活習慣病管理ガイドライン』の一環として、以前発表された糖尿病、高血圧、脂質異常症に続き日本肥満学会の協力を得て作成されたものです。
日本肥満学会では、肥満は疾病ではないとしつつも、一定以上の肥満で、それに起因・関連する健康障害がある場合などを肥満症として定義。この肥満症は疾患であるとして、医学的な治療が必要だとしています。
今回作成された『高齢者肥満症診療ガイドライン2018』は、この肥満症の診療に高齢者とかかわりの深い認知症やADL(日常生活動作)低下の観点を組み込んだものです。
同資料は、高齢者の肥満の特徴を述べた「肥満または肥満症の診断」、肥満と認知症・心血管疾患などのリスクの関係を説明した「肥満症の影響」、肥満の治療とその効果を説明した「肥満症の治療」の3章で構築されています。
肥満自体は常にその危険性が取り沙汰されていますが、こうした資料が作られるなど、高齢者の肥満症は問題になりつつあるのです。
30年間で肥満の高齢者は倍増している
実際、近年の高齢者において、BMI値25以上である肥満の割合は多くなっています。
厚生労働省が発表する『国民健康・栄養調査』の1987年と2016年のデータを比べると、60歳代男性の肥満率は19%から32.3%へと増加。
70歳代以上の男性では14.8%から28.6%と、ほぼ倍増しています。
女性は逆に60歳代では30.7%から24.2%まで減少し、70歳代以上では24.6%から23.7%とほぼ横ばいとなっていますが、男女ともに3~4人に1人が肥満という高い率となっているのです。
この肥満率については、特に男性はどの年齢層においても年々に肥満者の割合が増えており、30~60代は同じペースで増加、今世紀に入ってからは70代以上の肥満率が大きく上昇しています。
この70歳以上の層における増加は、医学などの進歩によって寿命が延びたことで、その層の比率自体が高まっているという現象の影響が出ている部分もあるでしょう。
しかし、現在の日本において、特に男性高齢者の肥満やメタボリックシンドロームに当てはまる高齢者の割合が増えていることはまぎれもない事実です。そのため、肥満が引き起こす生活習慣病やそのほかの疾病についても、大きな問題になっています。
肥満症高齢者の指標はBMIよりも腹囲がポイントに
肥満症には死亡リスクが潜んでいる
日本肥満学会による定義では、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったBMIという数値が用いられ、これが25以上の場合に肥満と判定されます。
上記の条件を満たした肥満、あるいは内臓脂肪面積が100平方cm以上ある肥満で、肥満に起因する健康被害のいずれかがある場合が肥満症と診断されています。
先述したように肥満自体は疾患ではありませんが、肥満症は健康被害のある疾患で、医学的な治療が必要とされています。
高齢者においても、肥満の判定はBMIで行われることが通常ですが、しかし高齢者になると身長が縮むために、BMIが実際よりも高くなることや、むくみなどの影響も考慮することが必要です。
そのため、BMIだけで体脂肪を判定することは難しい場合が多いのです。
冒頭で紹介したガイドラインの中では、高齢者ではBMIよりもウエスト周囲長(腹囲)やウエスト・ヒップ比などによる判定の方が、死亡リスクの指標となるとしています。
また、加齢に伴って生じる骨格筋量や骨格筋力の低下であるサルコペニアと、肥満が合併したサルコペニア肥満が増えるのも、高齢者の肥満の特徴です。
このサルコペニア肥満は、ただの肥満と比べると転倒や死亡のリスクが高く、さらにADL低下なども招きやすいとされています。
年齢の上昇とともに肥満は増加する
高齢者にこうした肥満が多くなっている原因は、いくつか挙げられます。まず、起こりやすいのは運動不足です。これにより筋力が衰え、体脂肪の増える割合が多くなってしまうことで肥満となってしまうのです。
高齢者は、加齢に伴い筋肉や骨などの量が減るために、基礎代謝が以前に比べて少なくなることがほとんどです。ここに運動不足が重なることで、肥満化に拍車をかけてしまうと考えられます。また、脂質の取り過ぎなども、大きな問題とされています。
2010年に厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取基準」によれば、70歳以上の高齢者の場合、男性は2200kcal、女性で1700kcalが必要とされています。
これに対し、実際に摂取されているのは、男性が1982kcal、女性は1613kcalであり、必要とされるカロリーより少なくなっています。
しかし、そのカロリーのうち、脂質が3割以上を占める人の割合が多くなっており、これが肥満やメタボリックシンドロームが増えていることに影響していると考えられているのです。
日本老年医学会のガイドラインでも、加齢とともに内臓脂肪が増加する傾向にあることや、BMI値は25以下でも、内臓脂肪量の指針となるウエスト周囲長が大きい高齢者も増えることが指摘されています。こうした「隠れ肥満」にも注意が必要です。
高齢者の肥満症には認知症を引き起こすリスクがある
前期高齢者と後期高齢者で肥満の危険度が真逆に変化
現在、肥満と認知症の関連性についての研究も進んでいますが、その結果、興味深いことがわかりました。
40歳前後の中年期や、前期高齢者と呼ばれる65歳から74歳までの前期高齢者においては、肥満は認知症の発症リスクを増加させますが、後期高齢者では逆にBMIが低いと認知症のリスクが高まるというのです。
中年期での肥満は、高齢期でのアルツハイマー病、血管性認知症をはじめとしたすべての認知症発症のリスクを88%高めるという研究結果が発表されています。
また、別の研究では、前期高齢者においても、BMI値が30以上の場合は74%、BMI値25~29.9でも35%認知症発症のリスクが高まるとされていました。
そのため、これらの年代では、生活習慣病にくわえて、認知症のリスクも高まるために、肥満はより多くの問題を抱えていると指摘されています。
しかし、後期高齢者の場合は、逆に肥満が認知症のリスクを軽減させるという研究結果の報告が多く寄せられています。
もちろん、これをもって後期高齢者の肥満に健康上の問題がないと言うことはできません。
ですが、認知症のリスクという面で言えば、60代を中心とした前期高齢者の方がより高リスクなのです。
肥満症治療は高齢者の身体状況にあわせて行う
肥満症は治療を行うことが可能です。高齢者の肥満の治療には基礎的な食事療法と運動療法が有効だと言われています。
高齢者の肥満には、上述した運動不足に重ねて、好きなものばかりを食べてしまったり、間食の頻度が高い傾向にあるなど、食生活の問題を抱えているケースが多いとされています。
ほかにも、加齢によって体を動かすことが億劫になってしまい、炭水化物に偏りやすい既製品ばかり食べてしまう運動不足と食生活の悪化が同時に起こっている場合なども少なくないと言わています。
こうした生活習慣を改善し、ウォーキングなどの身体状況に応じた運動や、炭水化物や脂質を抑えるなどの食生活の見直しを行うことで、肥満症の治療が可能です。
これにより、ADLの低下、変形性質関節症などによる疼痛を改善できるなど、生活の質を上げることが可能となります。
しかし、肥満症は高齢者によって年齢や体質・持病の有無などの身体状況が異なるため、各々に合った治療を行うことが必要不可欠。高齢者が肥満症治療のために運動やダイエットを始めるにはまず、かかりつけの医師や、保健所へ相談することが大切です。
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2020年9月7日 制定