注目を集める山梨県「介護待機者ゼロ」プラン
進行する高齢化と特別養護老人ホームの入所待ち問題
総務省統計局が公開した『人口推計-2021年(令和3年)3月報-』によると、日本における65歳以上の高齢者は3,628万人に達することがわかっています。割合でいうと、全体の28.9%で、4人に1人以上は高齢者という計算です。
内閣府が発表した『令和2年版高齢社会白書』を参考にし、都道府県ごとにさらに詳しくみてみると、高齢化率が最も高い秋田県で37.2%、最も低い沖縄県で22.2%となっています。2045年には秋田県の高齢化率は50.1%となる見通しです。

高齢化が進むと必要になってくるのが介護施設。社会福祉法⼈や地⽅⾃治体が運営している介護施設である特別養護⽼⼈ホームは、特に需要のある施設です。しかし、全国的に入所待ちになることが多い状態が続いています。
また、厚生労働省が公開した『就業構造基本調査(2012年)』によると、2011年10月から2012年9月の1年間だけでも、介護を理由に離職をした人は10万人以上にも及んでいます。
自分の親を介護施設に入所させることができず、在宅介護に追われ、結果的に会社を辞める人も少なくないのです。介護に関わる問題は社会的に重要な課題となっています。
山梨県で「介護待機者ゼロ」に向けた取り組みが開始された
そんな中、山梨県では介護待機者ゼロに向けた独自の取り組みを始めています。同県は2040年に高齢化率が41.4%になる見込みで、全国でも4番目に高くなると予想されています。
そこで山梨県では、「健康寿命やまなしプラン」を立て、高齢者の増加と生産年齢人口の減少が見込まれる中、2040年を見据えて、現状と課題を整理し、今後3年間において取り組むべきことを明らかにしています。
山梨県での取り組みには注目すべき点が多くあります。
既存施設の有効活用がポイントに
入所の必要性が高い人も入居待ちの状況
「健康長寿やまなし」の資料によれば、令和元年度の要介護認定者のうち入所待機者数は4,842人も存在し、入所の必要性の高い方(在宅の要介護度4・5の方)も依然入所待機している状況が続いていることが課題として挙げられています。
とはいえ、山梨県の特別養護老人ホームの申込者数の推移を見てみると、2013年や2014年をピークに下降傾向がみられます。
この背景には2014年度に特別養護老人ホームの入所条件が要介護3以上となったことがあります。
しかし、依然として多くの方が特別養護老人ホームに入所したいけれども実現できていない状況なのです。

ただ施設をつくれば解決するという簡単な問題ではありません。長期的な人口減少のことも考慮すれば、既存施設を有効利用していく必要があります。
既存の介護施設を活用して介護離職ゼロを目指す
2021年現在、山梨県下には116件の特別養護老人ホームがあります。
山梨県知事である長崎幸太郎氏は、その特別養護老人ホームに併設されたショートステイの活用を推し進める考えです。
適切な頻度でショートステイを利用すると、利用者の満足度向上や家族の介護負担軽減などを図れるため、享受できるメリットは多くあるといえるでしょう。
さらに、民間企業が運営する介護付き有料老人ホームや、サービス付き高齢者住宅を活用する動きもあります。現在ある介護施設を十二分に活用する考え方です。
ただし、長崎氏は山梨県で介護待機者ゼロを実現するためには年間約6億円の追加経費が必要と試算しています。
介護待機者ゼロを実現するために、財源確保も早急に対応すべき課題だといえるでしょう。
全国で介護待機者ゼロを実現するためにできること
自治体資産の積極的な活用が必要
山梨県では、不動産といった県有資産の活用・収益力の向上を積極的に行い、資金の捻出を計画しています。
2020年には、土地や施設などすべての県有資産の価値や必要性の評価を全面的に見直す方針を固めました。
具体的には、都市計画の専門家や観光関係者らが、オンライン会議や意見書の事前共有などを通して議論を行うというものです。県有資産の価値を向上させ、収入増を図るための具体策を議論します。
新型コロナウイルス感染症の影響で支出が膨らみ、山梨県の財政が危機的状況にある中で、介護待機者問題といった山梨県が抱える課題に取り組むための施策です。
売却しても問題ないものはなるべく高く売って、民間に貸しているものは賃料を見直します。こういった動きは、山梨県に留まらずほかの都道府県にも広がっていくのではないでしょうか。
全国に29.2万人いる特別養護老人ホーム入所申し込み者に対応する必要がある
2019年12月に厚生労働省が発表した『特別養護老人ホームの入所申込者の状況』によると、全国に29.2万人の方が特別養護老人ホームの入所を申し込んでいます。要介護3~5の方たちですので、早急な対応が必要でしょう。
また、『特別養護老人ホームにおける入所申込の実態に関する調査研究』によると「家族・介護者はいるが、病気、高齢、就労、育児等により、介護が困難である」と回答した方が全体の64.9%にも達しました。

山梨県の取り組みは、県内のみながらず全国に応用できる可能性を秘めています。
今回は、山梨県の取り組みに注目し、介護待機者ゼロを目指す施策についてみていきました。介護待機者ゼロを実現するためには、すでにある介護施設を十二分に活用する一方で、自治体の持つ資産の積極的な運用も必要になってくるでしょう。
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2020年9月7日 制定