2024年の介護報酬改定についてわかりやすく解説!求められる介護事業所の大規模・協働化
介護事業所の大規模化・協働化が求められる背景
コロナ禍で浮き彫りになった医療・介護の複合的ニーズ
社会保障費の抑制を図る財務省は、介護保険制度改革の一つとして、介護事業所の大規模化や協働化を求めています。
その理由として挙げられているのが、新型コロナウイルス感染拡大時の医療・介護の提供体制です。
オミクロン株による「第6波」で感染者が急増した際、介助を必要とする高齢者の入院隔離が医療現場の負担を増加させました。
その一方で、高齢者施設に入所している高齢者は、入院させると新型コロナ感染症ではなく、認知症などが悪化する可能性も指摘されており、そのまま施設療養となるケースが頻発しました。
つまり、病院には介護士が、高齢者施設には医師や看護師が必要になったのです。
さらに、高齢者施設で感染者が療養していたため、クラスター感染を引き起こし、職員が足りなくなる事態も起きました。そのため、入所者に対する適切なケアもできなくなってしまったのです。
このように、医療・介護分野では複合的なニーズが存在しており、持続可能なケアを提供するためには職員数の多い大規模事業所が望ましいとされています。
介護事業所は小規模な法人が多い
介護事業所の規模は、基本的に職員の数で定義されています。そのうち100人以下の事業所が、小規模と呼ばれています。
財務省の資料によれば、全介護事業者のうち「19人以下」が31.8%と最多。次いで「20~49人」が21.9%、「50~99人」が15.3%と続き、約7割の事業所が小規模で占められています。
そのため、近年は医療や介護サービスの連携を踏まえ、介護事業所のM&Aなどが活発に進められています。
また、厚生労働省では社会福祉法人制度の見直しを図っており、小規模事業所が連携する協働化で、地域課題に取り組むように促しています。
小規模な介護事業者が多い理由
当初は競争による介護サービスの向上を狙っていた
そもそも介護保険制度は、行政がサービスを提供する従来の制度ではなく、利用者が介護サービス事業者を選択できることを基本としています。
こうした制度にした理由は、民間の事業者が競争をすることでサービスの質の向上や自主的な業務効率化がありました。
しかし、財務省によれば、現状ではさまざまな法人の参入は進んだものの、小規模な法人による競争が必ずしもサービスの向上や業務効率化につながっていないと分析しています。
例えば、介護労働実態調査(2020年)では、小規模事業者になればなるほど、職員が煩雑な書類の処理に追われたり、介護保険制度の改定などについていけない実態が明らかにされています。
規模が大きいほど収益率が高い
また、大規模事業所の方が経営が安定していることもわかっています。
例えば、特別養護老人ホーム(特養)で、利用者の定員規模が101人以上の施設は収支率が2.6%なのに対し、30人の施設では0.4%となっています。
また、福祉医療機構の調査では、通所介護施設の稼働率がコロナ禍によって3.3%低下しており、小規模な事業所では赤字施設の割合が4割を超えています。
こうした現状を踏まえ、財務省は介護事業所の規模の拡大を訴えているのです。
地方とのバランスなど地域差も考慮すべき
介護予防サービスは小規模事業者が担っている
大規模事業所がサービスや経営面で有利な一方で、小規模な事業者が大切な役割を担っている部分もあります。
例えば、要支援1・2の人などに提供されている介護予防サービスです。
大和総研の調べによると、介護予防サービスを提供している訪問介護・通所介護事業所では、サービスの6割以上を利用者数10人未満の零細事業者が担っていることが示されています。
介護予防サービスは、要介護度の維持・改善に効果があるとされており、介護保険制度では総合事業として自治体に推進を促しています。
しかし、介護報酬とは異なり、自治体で報酬が決定されているため、介護保険サービスと比較すると相対的に収益率が低くなる傾向があります。
介護予防サービスは、政府が推進する地域包括ケアシステムを支える大切な柱の一つでもあります。小規模な事業所が果たしている役割も軽視はできないのです。
地域の安定的なサービスの提供もポイント
今回の財務省の提言では、規模が大きく、効率的な運営をしている事業所を好事例として介護報酬を定めていくよう求めています。2024年度の介護報酬改定に向けて議論されることは間違いなく、もしかしたら新たな加算が設けられるかもしれません。
そうなれば、小規模な事業所に不公平感が生じる可能性もあります。地方の過疎地では小規模な事業所が多く、収支率が低い中でも重要な役割を果たしているケースもあります。
特に、少子高齢化が著しい過疎地では、交通インフラや買い物施設などの不足と、単身高齢者の増加から介護予防サービスや生活援助が必要不可欠となっています。
そこで、こうした地域では大規模化ではなく、協働化を促進していく必要があります。
例えば、大分県竹田市では「暮らしのサポーター」と呼ばれるサービスが展開されており、地域の介護事業者などと広域的な連携に取り組んでおり、介護予防や生活支援を実施しています。
その結果、市内の要支援・要介護認定率は、2013年の22.7%と比べ、2020年には19.4%まで低下しています。
こうした地域の取り組みを加速させ、収支や効率化だけではない実態を踏まえた改革が必要です。
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2020年9月7日 制定