高齢者人口の急増から、介護人材の需要は高まるばかりです。
厚生労働省によると、2025年には253万人もの介護人材が必要と推計されています。
実際、介護分野の有効求人倍率は、上昇傾向にあります。
特に、東京都や愛知県などの都市部では、有効求人倍率が3倍超となるなど、介護人材不足は顕在化しています。

介護人材が増えない要因として、「低賃金」や「長時間労働」「劣悪な就労環境」などが挙げられています。こうした諸要因の解消を目指して、国や事業者ほかさまざまな団体が手を取り合いつつ、改善を進めているところです。
「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」とは、介護職員の技術を“見える化”する制度
アセッサーがレベル認定希望者を評価。アセッサーを担う管理職はより多忙に…
「キャリア段位制度」は、介護職員が「実際にその現場で何ができるのか」を“見える化”し、客観的に介護職員の職業能力を評価することで、処遇改善や社会的地位の向上を図る制度です。現状、まずレベル1~4について基準をつくり、レベル認定を行う方針です。
「キャリア段位制度」は、7段階でレベル認定を行っています。
レベル別の考え方、スキルは下記の表の通りです。
レベル4以上を「プロレベル」と定義。
レベル4以上の介護人材に求められている能力は「チーム内でのリーダーシップ」や「部下に対する指示、指導」などです。

キャリア段位の認定方法は少々複雑です。
施設・事業所内部でキャリア段位を取得する職員の評価をアセッサーが行い、該当職員が基準を満たしていると判断された場合、一般社団法人シルバーサービス振興会にキャリア段位の認定を申請します。
つまり、スキル評価を実施するアセッサー(評価者)を施設・事業所内で選任する必要があります。
評価方法
評価基準は「基本介護技術の評価」「利用者視点での評価」「地域包括ケアシステム&リーダーシップ」の3項目によって定められています。
「基本介護技術の評価」における評価項目は「入浴介助」や「食事介助」「排泄介助」「移乗・移動・体位変換」「状況の変化に応じた対応」で構成されています。
「食事介助」でのチェック内容の一部は以下の通りです。チェック項目は、「A(できる)」、「B(できる場合とできない場合があり指導を要する)」「C(できない)」「-(実施していない)」の4段階評価です。
- 食事の献立や中身を利用者に説明する等食欲がわくように声かけを行ったか
- 利用者の食べたいものを聞きながら介助したか
- 利用者と同じ目線の高さで介助し、しっかり咀嚼して飲み込んだことを確認してから次の食事を口に運んだか
アセッサーとは、介護職員のキャリアアップを推進する役割を担う人材のこと。
アセッサーは、レベル4以上でアセッサー講習を修了した者とされています。
アセッサー講習は「介護福祉士として3年以上実務に従事した経験があり、かつ、介護福祉士実習指導者講習会を修了した者」などが受講できます。
アセッサーは、1年を通してキャリア段位を取得する職員の評価、指導、目標設定支援などを行う必要があります。職場では管理的な立場にあり、負担は大きいと言えるかもしれません。
都道府県によって差があるレベル認定者数。認定に熱心な事業者には補助金の支給も
2016年2月末現在、レベル認定者は1,245名。
介護職員171万人(2013年時点)のうち、レベル認定者は0.001%に過ぎません。
レベル認定者のサービス種別内訳を見ると、介護老人福祉施設や介護老人保健施設、訪問介護、通所介護で多くなっています。
都道府県別に見ると、東京都が172人と最多。
次いで、大阪府96人、北海道73人です。
今回のレベル認定委員会では、新たに滋賀県で認定者が誕生しました。
これにより認定者がいないのは、島根県のみになりました。
都道府県によって認定者数に大きな差があります。
これは都道府県ごとの取り組みと無関係ではないでしょう。
「キャリア段位制度」レベル認定者数
都道府県 | 人数 | 都道府県 | 人数 |
---|---|---|---|
北海道 | 73 | 滋賀県 | 1 |
青森県 | 32 | 京都府 | 8 |
岩手県 | 27 | 大阪府 | 96 |
宮城県 | 25 | 兵庫県 | 50 |
秋田県 | 5 | 奈良県 | 24 |
山形県 | 14 | 和歌山県 | 14 |
福島県 | 31 | 鳥取県 | 47 |
茨城県 | 17 | 島根県 | 0 |
栃木県 | 21 | 岡山県 | 24 |
群馬県 | 18 | 広島県 | 48 |
埼玉県 | 24 | 山口県 | 23 |
千葉県 | 33 | 徳島県 | 3 |
東京都 | 172 | 香川県 | 4 |
神奈川県 | 60 | 愛媛県 | 22 |
新潟県 | 17 | 高知県 | 7 |
山梨県 | 5 | 福岡県 | 33 |
長野県 | 20 | 佐賀県 | 2 |
富山県 | 10 | 長崎県 | 14 |
石川県 | 9 | 熊本県 | 22 |
福井県 | 23 | 大分県 | 17 |
岐阜県 | 21 | 宮崎県 | 7 |
静岡県 | 29 | 鹿児島県 | 13 |
愛知県 | 66 | 沖縄県 | 2 |
三重県 | 12 | ||
合計 | 1,245 |
レベル認定者数が最も多い東京都は、2015年から「キャリア段位制度」を活用する事業者向けに、「東京都介護職員キャリアパス導入促進事業」を開始。1事業所あたり年200万円まで経費を補助し、この制度の定着を促しています。
「キャリア段位制度」は業界標準になりうるか?そして、介護職員の処遇改善につながるのか!?

「キャリア段位制度」は2015年1月に始まったもの。この制度がいわゆる“業界標準”になるかどうか今後の展開が期待されます。
心配なのは「施設・事業所内部での評価」が適切に行われるかどうかです。
レベル認定を受ける人とアセッサーが同じ施設・事業所に所属しているため、評価が甘くなってしまう懸念があります。
一応、施設・事業所ごとに評価のばらつきが出ないよう、外部評価機関を設定し、外部の第三者(外部評価審査員)により、アセッサーの評価の妥当性、信頼性をチェックすることにはなっていますが、今後レベル認定希望者が急増したとき、十分に対応できるかどうか疑問が残ります。
そして気になるのが「介護職員の処遇改善につながるかどうか」です。
これに対し、公益財団法人シルバーサービス振興会は「例えば、介護福祉士の資格は持っていなくとも、長く勤務していてスキルが高い人にとっては、そのスキルが評価され、処遇改善の材料につながるものと考えています」と回答しています。
何とも歯切れの悪い物言いです。
結局のところ、処遇改善は事業者次第と言えそうです。
また、認定に有効期間がないことも問題です。基礎的な介護技術のなかには変わらないものもあるとはいえ、最新技術を学び続けることが大切でしょう。例えば、5年に1度研修を受け直すなど、再認定の仕組みが必要かもしれません。
近年、介護業界では「キャリア段位制度」を筆頭に介護福祉士の上級資格である「認定介護福祉士」も創設され、資格が乱立気味です。
どれも「処遇改善につながる」「社会的立場が向上する」「介護職員のやりがいを高める」など高邁な言葉が並びますが、実際に普及するかどうかは不明です。
これらの資格制度が介護現場に歓迎され、処遇改善などに役立つ日が来ると期待したいところです。
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2020年9月7日 制定