介護職員の給与には「処遇改善加算」という給与の上乗せが国から支給されています。
条件によっては最高で月額3万7,000円程度の加算がされるのがこの制度ですが、これは「介護の質を上げる特定の条件」を満たせばそれに応じて額も上がるシステムとなっています。
加算にはその要件に応じて「加算Ⅰ」から「加算Ⅴ」という段階があるわけですが、そのうちの加算Ⅳと加算Ⅴを廃止していくことを厚生労働省が提案し、社会保障審議会で大筋の了承を得たことが明らかとなりました。
処遇改善加算のうちⅣとⅤの廃止を提案
処遇改善加算とは?
処遇改善加算とは、介護職員の給与に対して、特定の条件を満たせば国から給与加算されるシステムのことです。加算「Ⅰ~Ⅴ」に区分け(数字が少ないほど加算額が多く、取得する条件が厳しい)され、月額1万2,000円~3万7,000円相当が加算されます。
介護職員の給与の源泉は介護施設の売上ですが、日本の介護は介護保険制度に支えられているため、介護施設の売上は介護報酬に拠るところが大きいもの。
つまり、この介護報酬によって介護職員の給与は左右されるわけですが、税金が投入されているということもあり、給与は上がりづらいとも言われています。
このままでは介護業界の人材が足りなくなることを懸念した政府は、処遇改善加算制度を制定。介護職員の給与を底上げしてキャリアパスを明確にし、やりがいを持ってもらうことで将来を描けるように配慮したのがこのシステムの目的です。
処遇改善加算の原資は介護保険財源、すなわち公的資金ではありますが、介護は誰にとっても無関係なものではないため税金から加算されているという状況です。
処遇改善加算の条件

処遇改善加算は加算Ⅰから加算Ⅴまでの計5段階に分かれており、加算レベルを上げるにはそれぞれのキャリアパス要件を満たす必要があります。
要件Ⅰは職位や職責、職務内容に応じて任用の要件と賃金について整備されていること、要件Ⅱは資質を向上させるために計画を立てて研修のチャンスを確保すること、また要件Ⅲは昇給の仕組みを設ける必要があることをそれぞれの条件としています。
そしてこれら+αの条件をクリアすることで、加算報酬を得ることができるのです。
加算Ⅰは要件ⅠとⅡとⅢ、さらに賃金以外の処遇を改善することである「職場環境要件を満たした時」に約3万7,000円が支給され、加算Ⅱは要件ⅠとⅡ、そして職場環境要件を満たすことで月額2万7,000円相当を国から支給される仕組みです。
加算Ⅲは要件ⅠもしくはⅡのいずれかに加えて職場環境要件を満たすだけではあるものの、加算は月額1万5,000円程度です。
今回、廃止が検討されているのは加算ⅣとⅤで、加算Ⅳは要件ⅠかⅡ、もしくは職場環境要件のいずれかひとつを満たせば月額1万3,500円前後を得ることができ、加算Ⅴは要件ⅠもⅡも職場環境要件もいずれも満たさない場合のもので、その場合も月額1万2,000円相当の加算がありました。
”加算ⅣとⅤ廃止”提案の背景
加算ⅣとⅤの取得率は低い
では、なぜこの加算ⅣとⅤを廃止するという提案がなされたのでしょうか。そこには加算ⅣとⅤの低い取得率の問題があるようです。

上掲のグラフの通り、請求状況は加算Ⅰが66.2%なのに対して加算Ⅳと加算Ⅴはたったの0.8%しか請求されていないのです。
加算は税金から出るものであり、事業所の売上にはあまり関係がないために経営者側も積極的に加算を取得しようと考えている可能性は十分にあります。
介護業界は今後、拡大し続ける介護ニーズや介護の質をより改善するため、介護職員の給与をさらに上げていく必要があると言われています。実際、平均賃金や看護師などのその他介護関係職に比べ、介護職員は給与が低いというデータも存在しています。
処遇改善加算の問題点
現在、この処遇改善加算についてはさらに議論が続けられています。「キャリアパスといった明確な目標を定め、限定した使途で加算を維持するのか」それとも「使途を限定せずに基本報酬に組み込むべきなのか」という議論です。
そもそも給与というものは労使双方の交渉で決まるもので、介護という職種だけが財源を使って手当を与えるべきではないという見方や、介護職員より所得が低い人も介護保険を負担しているため、保険料を使って介護職員の給与を増やすべきでないという見方もあるのです。
皆さんはどちらが正しいと考えますか?処遇改善加算と介護職員の給与は介護の質を上げる意味でも大きなテーマであり、2018年の介護報酬改定でも慎重な議論が起こると予想されます。
介護の質の低下が起こる可能性
低賃金と人手不足は悪循環を生む…
つい先日、介護士が入居者に暴行を加える事件がニュースで取り上げられ、「介護の質が下がった」のではないかと疑念を抱いている方もいると思います。
この事件、大きな原因のひとつとして、賃金の低さが挙げられています。
賃金が低いがゆえに人手が集まらず、人手不足によって現場で失敗や過失が発生してしまうのと同時に、それをカバーをすることが難しくなることが考えられているのです。
団塊の世代の一斉退職で日本が全体的な人手不足に陥っている今、介護の仕事に就きたがる人が多くないのは、何よりこの賃金の低さではないかとも言われています。
介護は高齢者の回復や自立を助けるものです。
仕事を通じて温かなコミュニケーションも発生するため、賃金さえ人並みであれば介護職に就きたいという人も一定数存在するのにもかかわらず、肝心の賃金が低いために介護職員の生活が困窮。
その問題が懸念されることで結果として就労につながらないのではないか、という見方もあるのです。

データからもわかるように、採用が困難である理由のうち、賃金の低さを挙げた施設が57.3%も存在。
人手不足は介護職員のみならず社会全体の問題であり、AIや自動化、介護ロボットの導入なども検討されはじめた昨今において、賃金不足と人手不足は大きな課題です。
介護職以外の仕事において時給が上昇し始めているデータもあるなかで、介護職員の給与が低いままという現状は業界の「構造的な問題」だと考える向きもあることは否定しきれないのです。
人間関係の悪化と素人経営
また、賃金の低さと人手不足は同時に人間関係の悪化を招きます。介護の質が低いのはそこで働いている人の人間性の問題ではなく、待遇と環境の悪さによって自尊心が低くなり、良好な関係を築けなくなることを想像するのは難しくありません。
劣悪な環境に置かれた介護労働者にお世話されている高齢者が、果たして幸せな老後を送ることができるでしょうか。介護労働者の賃金を上げることは、回り回って高齢者の幸福という重要な目標につながります。
そして、介護施設を介護に精通していない人が運営している場合もあるという事実。介護保険が2000年にスタートして以来、介護は儲かると考え介護施設運営に参入したものの、思ったように利益を出せずに撤退していく業者が多くありました。
介護施設運営が素人経営のために職場環境を良くしようという考えが働かず、具体的にどうすればいいのか迷っているという事例も散見されます。
今回は介護職員の給与加算である処遇改善加算について、そのなかでも「加算ⅣとⅤ」が廃止される可能性をお伝えしました。介護報酬は介護職員の収入に直結するものなので、加算改定の動向にはこれからも注目していきたいですね。
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2020年9月7日 制定