訪問介護、政府に危険手当を要望!介護崩壊食い止めにはヘルパーへの手厚い支援が鍵
新型コロナウイルス感染拡大で介護現場も危機的状況
「3密」を避けがたい介護現場
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、訪問介護を運営する複数の事業者が連名で政府に「危険手当」を要望しました。
もともと介護の現場では、新型コロナウイルスの感染リスクが高い「3密」の状況を避けるのが難しい状況です。
全国各地で介護施設でのクラスターが発生している現在、利用者と濃厚接触するホームヘルパーは感染リスクを心配しながら介護現場で働いています。しかし、介護のニーズが高まる一方、人員確保や運営維持さえ難しいケースが起きているのです。
今回の要望書は介護分野のNPO法人のトップが集まって案を出し合ったもの。2020年4月10日、「訪問系サービスにおける新型コロナウイルス対策の要望書」として総理大臣、厚生労働大臣および国会議員に提出しました。
必要物資の優先支給、特別手当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際の要望書を見ていきましょう。
まず、自治体や保健所に訪問介護事業者への感染予防や感染対策への具体的な指示、支援体制の強化を求めています。
とくにホームヘルパーは、単独で利用者宅を訪問して業務を行うため、ヘルパー個人の感染症に対する理解が重要です。
また、介護現場で不足しているマスクや消毒液、防護服など、安全に介護をするうえで欠かせない必要物資の優先支給を要望しています。
さらに、自治体と医療機関が連携して、早急に訪問介護時の適切な感染症予防や対策のマニュアルをまとめ、各事業所に周知、感染症に関する医療機関との情報共有体制づくりを進めるよう訴えています。
また、万一ホームヘルパーに新型コロナウイルスの感染者や感染の疑いがある職員のいることが判明して事業所を休止した場合、代わりの事業所で介護サービスが継続できないか利用者の情報を事業者間で共有するネットワークも必要としています。
このほか、新型コロナウイルスの感染者や濃厚接触者の介護を目的とした介護報酬や特別手当の創設、人員不足をカバーするためホームヘルパーの緊急増員なども要望書に明記されています。
介護現場で作成されたこの要望書を見ると、政府による新型コロナウイルスの感染対策が不十分で、さらに積極的な施策を取ってほしいことがわかる内容になっています。
危険と隣り合わせ!医療・介護現場の現状
医療現場からも危険手当の要望がある
要望書にもあった「特別手当」とは、正式名称で「特殊勤務手当」といいます。東日本大震災の除染作業の際に、環境省が発注した事業に支給された例が知られ、「危険手当」として報道されました。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、さまざまな業界から危険手当を要請する声が上がっています。
とくに新型コロナウイルスの最前線の医療現場で働く医師や看護師は、感染リスクが非常に高い環境で長時間の過酷な労働を続けています。また、一般の医療機関でも「もしかしたら新型コロナウイルスの感染者かもしれない」と不安を感じながら診療を続けています。
勤務医で構成される労働組合、全国医師ユニオンや日本看護協会がそれぞれ厚生労働省に要望書を提出。新型コロナウイルスの感染者や感染の疑いのある患者と接した場合に特別な危険手当を支給するよう求めています。
特殊勤務手当を新型コロナウイルスを機に導入できるかどうか。現場の医療従事者をサポートするためにも重要です。
深刻な人手不足!訪問介護職員の不足を感じている事業所は82.4%
新型コロナウイルスの診療が続く医療現場に比べれば、介護現場の感染リスクは低いと思われるかもしれません。それでも介護業界から危険手当創設の要望が上がっているのは、以前から続く介護現場の状況が背景にあります。
もともと介護職員の待遇は、現場が満足するレベルに至っていないのが現状です。現役介護職員を対象に調査したアンケート結果でも、もっと働きやすくなるためには給与の引き上げが必要だとの回答が67%にも上ります。
現場では職種によって待遇の格差が広がっていることも問題となっています。
同じ介護現場で働いていても、訪問系管理者や通所系管理者といった一部の職種は介護職の全体平均年収350万円を上回っていますが、訪問介護や通所介護の職員はそれぞれ299.5万円、285.7万円といずれも平均年収に届いていません。
つまり、介護現場の最前線で働くホームヘルパーの間では、待遇への不満があるということです。
そのため、退職する職員も増加傾向が続いています。介護施設へのアンケート調査でも、介護施設の66%が深刻な人手不足であると回答。とりわけ訪問介護員の不足を感じている事業所は82.4%にも上っています。
そんな状況の中、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、厚生労働省は休業したデイサービスの代わりにヘルパー利用を促進する方針を示しました。
ケアマネージャーに相談して新たに訪問介護事業所を見つけてもらい、デイサービスの利用者に生活援助や身体介護を受けてもらうというのです。
しかし、深刻な人手不足が続く中で、どこまで訪問介護にシフトできるかは未知数です。
危険手当の創設によって退職者を引き留め、訪問介護職員の待遇改善につながるか。今後の動向に期待したいところです。
介護現場へ早急に手厚い支援が求められている
福岡市では介護職に特別給付金を支給
国による介護職への施策を待たず、自治体レベルで介護現場に対する支援を行う動きも出てきました。
福岡市は、新型コロナウイルス感染症対策の一環として「高齢者・障がい者介護従事職員への特別給付金」と命名した独自案の検討を開始。
市内の高齢者・障害者が利用する入所施設や通所施設に一律給付するというものです。
給付額は1施設当たり15万円から150万円で、施設の規模や運営形態など条件に応じて支給額は変わる予定です。
市は4月末開催の臨時議会での予算成立を目指し、5月中旬の給付のため急ぎ準備を整えています。
給付の対象は施設単位であるため、実際に現場で働いている介護職員にどの程度給付金の恩恵があるかは事業所の判断に委ねられているものの、全国にさきがけて地域単位で行われる取り組みに注目が集まっています。
介護崩壊を防ぐためにも危険手当は必要
介護現場はもちろん、感染拡大防止の最前線に立つ医療関係者は日夜、感染リスクにさらされながら利用者や患者の健康維持や病状回復のため奮闘しています。
そうした現場の一人ひとりの労をねぎらって、介護サービスの維持や医療崩壊を食いとめるためにも、いち早く危険手当の創設が望まれます。
とくに訪問介護の現場では、かねてより人手不足が深刻な状況です。
厚生労働省の調査によると2018年度における訪問介護職の有効求人倍率は13.1倍まで上昇し、同時期の全職業分野における有効求人倍率1.46倍と比較すると、およそ9倍。
介護職全体の3.95倍と比べても3倍以上にも上ります。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって、ますます不足感が強まることが懸念されます。
もはや国の施策を待つ余裕がない自治体では、福岡市のように独自に介護施設への特別給付金を検討して、福祉の崩壊を食い止めようとする動きも見られます。
地域単位で介護現場へのフォローの動きが広がるとともに、危険手当をはじめとして、国を挙げて介護現場へ早急に手厚い支援が求められています。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 89件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定