社会福祉協議会の財政難はかなり深刻…!? 補助金の大半を人件費に充当されているのが問題か
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう構築が進んでいる「地域包括ケアシステム」。
地域包括ケアシステムは、市町村や都道府県を中心に、地域ごとの自主性や主体性に基づき、作り上げていくことが必要です。
ここには、介護事業者や民間企業・NPO・地域団体などの参画も期待されています。
なかでも、広く地域福祉の維持、向上に貢献している「社会福祉協議会」の関与は不可欠なものでしょう。
ひと口に、社会福祉協議会と言っても、同協議会は地域福祉の名のもとに、さまざまな事業を手がけています。
今回は、社会福祉協議会の現状と課題について考えていきます。
全国に2,000ヶ所、職員数約15万人を誇る社会福祉協議会とは?
社会福祉協議会とは、社会福祉活動の推進を図り、営利を目的としない民間組織です。1951年に現在の社会福祉法に基づき設立されました。
社会福祉協議会は、「全国社会福祉協議会」(1ヶ所、職員数134人)「都道府県、指定都市社会福祉協議会」(66ヶ所、職員数約1万5,000人)「市町村社会福祉協議会」(1,861ヶ所、職員数約13万4,000人)で構成され、下記の表の通り多様な福祉ニーズに応え続けています(以下、「社協」と表記します)。
市区町村社会福祉協議会の主な事業例
計画 | 地域福祉活動計画の策定 | |
---|---|---|
相談 | 心配ごと相談事業 | |
福祉総合相談事業 | ||
貸付 | 生活福祉資金貸付 | |
法外援護資金貸付・給付 | ||
小地域活動 | 地区社協の設置 | |
小地域ネットワーク活動 | ||
住民参加・ボランティア | ボランティアセンター (コーナー等)の設置 |
|
ふれあい・いきいきサロンの設置 | ||
社協運営型住民参加型在宅福祉サービス (食事サービス・移送サービス・ 家事援助サービス等) |
||
在宅福祉 サービス |
介護保険事業 | 訪問介護事業 |
通所介護事業 | ||
訪問入浴介護事業 | ||
自立支援給付 | 居宅介護 (ホームヘルプ)事業 |
|
重度訪問介護 (ホームヘルプサービス)事業 |
||
行動援護事業 | ||
福祉サービス利用援助 | 日常生活自立支援事業 | |
当事者(家族)の会の 組織化・運営援助 |
身体障害児者(家族)の会 | |
知的障害児者(家族)の会 | ||
精神障害児者(家族)の会 | ||
認知症高齢者(家族)の会 | ||
ひとり暮らし高齢者の会 | ||
ひとり親(母子)家庭の会 | ||
ひとり親(父子)家庭の会 | ||
団体事務 | 共同募金支会または分会 | |
老人クラブ連合会 | ||
子ども・子育て家庭支援 | ファミリーサポート事業 | |
学童保育 (放課後児童健全育成事業) |
||
子ども会・こどもクラブの組織化・ 運営支援 |
||
児童館・児童センターの運営 | ||
その他 | 小規模作業所等の運営 | |
移動支援事業(地域生活支援事業) | ||
高齢者、障害者等を対象にした 悪質商法防止のための活動 |
||
食事サービス | ||
移送サービス |
近年の市区町村社協の事業を見ると、趣向を凝らした事業が増えているとわかります。
佐賀県上峰町社協は、地域住民とともに認知症で徘徊する高齢者を見守る「上峰町高齢者SOSネットワーク」を立ち上げました。
ネットワークの運営は、同協議会が担い、徘徊で行方不明になる可能性がある高齢者や家族に事前登録してもらう方式。
三重県名張市社協では、今年2月から買い物支援ボランティアの派遣事業を試行、2016年度内を目処に本格始動させる予定です。
借入金、補助金に依存する社協。自主財源である会費は減少傾向にある
地域独自の事業を行うと言っても、財源がなければ絵に描いた餅に過ぎません。社協には、どのような財源があるのでしょうか。財源構成を見ていきましょう。
下記の円グラフは、横浜市社協の収入状況です。
借入金収入が44.6%と約半分を占め、次いで補助金収入が24.3%、介護保険収入が9.5%となっています。
社協は、「民間組織」と定義されているものの、自主財源等はわずか1.7%に過ぎず、補助金の大半が人件費に充当されているのが現実です。
つまり、自主財源で職員を雇用し、事業を行うのは困難な状況と言えます。
財源ごとの構成割合
補助金収入(24.3%) | |
介護保険収入(9.5%) | |
受託金収入(7.5%) | |
自主財源等(1.7%) | |
貸付事業収入(8.3%) | |
借入金利息補助金収入(0.7%) | |
借入金収入(44.6%) | |
その他の収入(3.2%) |
一般的に、この自主財源のなかで最も比率が大きいのは、「会費」です。社協の活動趣旨に賛同する人なら誰でも会員になることができます。
社協によって、賛助会員、普通会員、一般会員などさまざまな名称があり、一口300~5,000円/年間。
別途、法人会員(一口1万円/年間)を設けている社協もなかにはあります。
下記の表を見ても分かるように、静岡県磐田市社協の過去4年間の会費納入実績は横ばい傾向にあります。
社協会費収入 実績(単位:円)
区分 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 26年度 |
---|---|---|---|---|
一般会費 | 22,891,891 | 22,752,438 | 22,685,660 | 22,698,850 |
賛助会費 | 3,630,000 | 3,585,000 | 3,385,880 | 3,388,000 |
合計 | 26,521,418 | 26,342,438 | 26,071,540 | 26,086,850 |
実は、大半の社協の会費収入は横ばいまたは漸減傾向にあり、全国的にも大きな課題になっています。つまり、会員数の減少に直面しているのです。
会費制度の意義を新たに定義するものの、地域住民の理解は深まらず
なぜ、会員数は減少しているのでしょうか。さまざまな資料を見ていくと、社協の会費制度の性格や狙いがはっきりしていないことが一因と推測されます。この事態を重く見た東京都社会福祉協議会は、「新しい会員・会費制度」の構築に着手しています。
社協に会費を納めるということは、「社協のサポーターになる」ことを本来意味します。
しかし、ほとんどの社協における会費は、単に「社協事業や地域福祉に対する財政的な支援をお願いするもの」に留まり、会費納入者が地域福祉に自主的に参画する意識の醸成まで至っていません。
新宿区社協では、従来の会員制度とは別に「社協地区パートナー制度」を導入しています。
「社協地区パートナー制度」とは、「新宿のまちと住み慣れた地域をよりよくしていくための“住民主体”の活動を支援する新たな会員制度」です。
従来の会員制度が、本来「参加」を目的としていたのに対し、「賛助」という性格が強まってきたため、この新会員制度を導入したといいます。
計画段階では両制度の統合を目指しているものの、現在のところ、両制度が併存している状況。
賛助会員が減少するなか、住民からは「地区パートナー制度の内容がそもそもわかりにくい」とか「位置づけがあいまい」など厳しい意見が出ており、継続した改善が求められています。
自治会や町内会の加入率が低下するなか、若い世代を中心に社協の認知度は低迷している
社協の会員募集は通常、毎年4月に自治会や町内会等を通じて全世帯に通知されるものです。現状、都市部を中心に、自治会や町内会の加入率は低下しており、特に「若い世代」や「一人暮らし世帯」「居住年数が浅い世帯」ではその傾向が顕著になっています。
未加入世帯ほど「地域活動に関心のない」傾向が見られるといい、社協の会員募集にとって逆風が吹いていることがわかります。
以前は、会員募集のために全戸訪問も実施していたという社協。現在は、オートロックのマンションが増えたことも影響して、そのような勧誘方法は取ることができず、ジリ貧を余儀なくされています。
こうなると、社協の存在を周知徹底する“情報発信”が重要な施策になってきます。
我孫子市社協による住民アンケートで、「我孫子市社協についてご存知ですか」という質問に対し、「知っている(よく知っている+何となく)」と回答した住民は60歳以上では70%を超えているものの、39歳以下の若年層における認知度は20%程度に留まりました。
続いて「なぜ我孫子市社会福祉協議会を知っているですか」という質問には、「あびこ広報」「地区社協の広報」(を通して)という回答が大半を占め、社協のイベントや事業、ボランティアなどをきっかけに社協を知った人は少ない実態が浮き彫りになりました。
「寝たきり社協」「寝たふり社協」と揶揄され、地域住民との連携、協働が進んでいない
会員数の減少や各種アンケート結果から推測する限り、地域住民と社協の連携、協働は今のところあまり進んでいないようです。このような状況を揶揄した表現が「寝たきり社協」「寝たふり社協」。
「寝たきり」とは、地域福祉活動を実行しようとしても障害があってできない(やらない)、「寝たふり」とは、仕事には身を入れずやり過ごす姿を示しています。
この原因はさまざまですが、「理事会の形骸化」や「OB職員の存在」「定型業務に安住する職員の多さ」などが挙げられます。
残念ながら、そのような社協もあるものの、上述した佐賀県上峰町や三重県名張市のように、独自に福祉事業を立案し、地域の福祉振興に尽力する社協があるのも事実。
今後、超高齢社会に突入するにあたり、地域福祉を広範囲に支える社協の存在はより重要になっていくかもしれません。
「財政難」「会員減」は、社協を語るうえで必須のキーワード。かつてのように会員数が増えない時代にあって、逆境にどのように対処していくのか。事業によっては、民間に門戸を開くなどタブーを恐れない改革が必要かもしれません。
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2020年9月7日 制定