「生涯活躍のまち」構想の制度化を図るために「地域再生法の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。
「生涯活躍のまち」構想とは、都市部から移住する高齢者の生活拠点を地方に作ろうという官民一体の事業計画です。
企業、社会福祉法人、大学などが事業主体となり、大都市から移住する高齢者が地域と交流できる共同体を作り、高齢者の移住をサポートするのが目的です。
2015年6月、民間有識者でつくる日本創成会議は、「東京圏高齢化危機回避戦略」と題する提言をまとめています。東京を中心とする首都圏では、介護施設が2025年に13万人分不足すると予測されています。
介護施設不足の打開策として提言されたのが、介護施設や人材面で受け入れ状態が整っている全国41地域への首都圏からの移住です。移住候補地は生活の利便性なども考え、過疎地域は除いて候補地選定を行ったといいます。
高齢者移住・候補地域
北海道 | 室蘭市、函館市、旭川市、帯広市、釧路市(北見市) |
---|---|
東北 | 青森市、弘前市、秋田市、山形市(盛岡市) |
中部 | 上越市、富山市、高岡市、福井市(金沢市) |
近畿 | 福知山市、和歌山市 |
中国 | 岡山市、鳥取市、米子市、松江市、宇部市(山口市、下関市) |
四国 | 高松市、坂出市、三豊市、徳島市、新居浜市、松山市、高知市 |
九州・ 沖縄 |
北九州市、大牟田市、鳥栖市、別府市、八代市、宮古島市 (熊本市、長崎市、鹿児島市) |
※ 地名は地域の中心都市。かっこ内は介護施設の追加整備で受け入れ可能になる準候補地域。
当時の安倍晋三首相は、日本創成会議の提言を受けて、2015年7月記者会見で「大都市圏から地方への移住の必要性」を何度も繰り返しました。
首都圏の高齢者問題が待ったなしの逼迫した状況にあり、早期に解決しなければならない問題になっていますが、なぜ過疎化が問題となっている地方に、あえて首都圏の高齢者を移住させるのでしょうか。
一見すると地方の高齢化問題を悪化させるだけのようにも感じる政策を後押ししているのは、急速に進む人口構造の変化です。
国の統計によれば、2010年からの30年間で75歳以上の後期高齢者は約800万人増えます。
しかし、「団塊の世代」が75歳前後となる2025年を過ぎると高齢者数も減少するようになり、日本は人口自体が減少します。

問題となっているのは、この2010年からの30年間で増加する高齢者800万人の半数以上が首都圏、大阪圏、名古屋圏に住んでいるということです。
高度成長時代、地方で暮らす若者は東京に移住してきました。
1955年から1970年の間に移住した若者の数は、約800万人。
今後、首都圏、大阪圏、名古屋圏で増加すると予測される高齢者数とほぼ同数です。

若者が移住したことで起こった地方の過疎化と高齢者問題は、まもなく地方の高齢者の減少によって変わってくると予測されています。その後、訪れるのは、地方から移り住んだ世代の高齢者問題です。
また、一斉開発が行われたベッドタウンでは、居住している住民の年齢層が近く、高齢化も一気にやってきます。
医療需要が急速に高まり、介護施設への入居も狭き門となるでしょう。
病院が多くあり医師不足が深刻ではないと思われている23区内。
しかし、介護施設は十分にはありません。
首都圏の高齢者の大多数が、介護難民になる可能性が考えられます。
地方移住を考える上でのメリット、デメリット。するならいつがいいのか…
これからそう遠くない未来、首都圏に住む高齢者が「介護難民」となることは、高齢者数と介護施設の数を比較すれば、明らかです。
また、慢性的な介護業界の人手不足を考えると、新しい施設を作ることも難しいでしょう。
では、介護が必要になる前の50代60代で地方に移住することは可能なのでしょうか?
政府が推進している「生涯活躍のまち」構想では、高齢者移住を「日本版CCRC」と呼び、定年退職後の新しい人生をアクティブに過ごす地域づくりを目指すとしています。

CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは米国で普及している高齢者コミュニティのこと。
自立しているうちにコミュニティーに入居して、介護が必要になっても継続して暮らし続ける仕組みを指す言葉です。
50代の元気なうちに移住することによって、地域に馴染んで前向きに生活できるというメリットがあります。
地域移住のメリットは?
・土地代や家賃が安い
自宅を購入するにせよ賃貸するにせよ、首都圏よりは地方のほうが土地代も家賃も安いです。同じ値段であれば、広い家に住むことができます。庭を持つことも可能になるので、家庭菜園やガーデニングなどの趣味を持つことも可能。
・介護施設の入居費用が安い
人件費や地価が安いので、入居費用は首都圏や大都市圏よりも安く設定されているところが多いです。広い敷地を有している介護施設も多くあります。いろいろな施設を比較して選べるメリットがあります。
・便利に暮らせる
今回、移住先に選ばれた地域は、地方の中核都市がほとんどです。主要都市に家を持てば、スーパーやショッピングモール、映画館などが、徒歩圏にあります。大都市圏に比較すると、いろいろなものが集約して駅近くにあるので、車がなくても十分に生活を楽しめます。
・自然が豊か
自分の好みやライフスタイルに合わせて、居住エリアを選ぶことができます。趣味が釣りであれば海のそばへ、トレッキングであれば山のそばで暮らすことができます。観光地の近くに暮らすことも可能です。
地域移住のデメリットは?
・知人や親族と離れて暮らすことになる
独立した子ども世代が都市圏に家を持っている場合は、離れて暮らすことに。孫の運動会や、ちょっとしたお祝いに出かけるにも一苦労かも。
・地域に馴染めない可能性
移住ということは、家から友人関係から、すべてが新しく始まります。環境の変化になれない方や、新しいことに馴染みにくい人は、注意が必要です。
現在の「姥捨て」と酷評されることもある高齢者の地方移住。大都市圏で介護施設不足が深刻化している今、前向きな気持ちで移住を決断する高齢者がどのぐらいいるのか今後も目が離せません。
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2020年9月7日 制定