介護福祉士の「再就職準備金」に10億円の補正予算!"潜在介護福祉士"復職に必要な支援とは
出産・育児、体調不良などで離職した介護福祉士。復職のカギは、勤務体制などの労働条件
「潜在介護福祉士」とは介護福祉士資格を持っていても介護施設に就職しない人のことです。
2012年の介護福祉士登録者数は約108万人ですが、実際に介護福祉士として職務に従事しているのは約63万人。
約45万人が介護福祉士として登録しながらも、介護職として働いていない現状があります。
こうした介護に関する専門知識を有した人材が介護業界に就職すれば、介護業者にとっては、一定の教育、研修が省けるなどのメリットもあります。
ここからは、社会福祉士、介護福祉士および精神福祉士の登録機関である公益財団法人社会福祉振興・試験センターが実施した「社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」を読み解きながら彼らの現状を見ていきましょう。
まず、介護福祉士資格を持ちながら現在仕事をしていない理由から確認します。
その理由は「出産・子育て」がトップで、「病気・体調不良(腰痛を除く)」「定年退職したため」「家族等の介護・看護」が続きます。
この調査に回答した介護福祉士の約8割は女性であることから、このような結果となったと考えられます。
現在仕事をしていない理由(有資格者のみ)
回答した介護福祉士の割合 | |
---|---|
出産・子育て | 31.6% |
定年退職したため | 16.5% |
病気・体調不良(腰痛を除く) | 16.2% |
家族等の介護・看護 | 15.6% |
希望に合う求人がない | 14.3% |
腰痛 | 10.0% |
働く必要がない | 8.0% |
就職先が見つからない | 6.4% |
子育てや介護などが落ち着いた介護福祉士のなかには、いったん介護職を離れたものの、復職した人も当然います。
その主な理由を尋ねると「生活費を稼ぐ必要があったから」「この仕事が好きだと思った」「労働日・時間・通勤等の希望になった職場が見つかった」などが上位に来ています。
さらに、その職場を選択した理由について尋ねると、上から「通勤が便利」「やりたい職種・仕事内容」「労働時間・休日、勤務体制が希望に沿う」などが挙げられていました。
過去働いていた介護事業所を辞めた理由を見ると、「出産・育児と両立できない」がトップ。
次いで「業務に関連する心身の不調(腰痛を含む)」「法人・事業所の理念や運営の在り方に不満があった」などが続きます。
出産、育児などのライフイベントや体調不良に直面するなかで、離職を余儀なくされ、現在も就労していない介護福祉士がいるとわかります。
復職しない介護福祉士の理由。男性は「給与」、女性は「仕事と家庭の両立」
介護職に復職する人がいる一方で、そうでない介護福祉士もいます。資格を持っているにもかかわらず、なぜ介護職に戻らないのでしょうか。
主な理由は「仕事と家庭の両立が難しそうだった」「仕事がきつく、体力に不安があった」「給与・諸手当が低かった」などです。
男性は「給与・諸手当が低かった」が、女性は「仕事と家庭の両立が難しそうだった」がそれぞれトップに来ており、性別によってその理由が異なっているとわかります。
現在の職場として福祉・介護・医療分野を選択しなかった理由
回答した介護福祉士の割合 | |
---|---|
仕事と家庭の両立が難しそうだった | 15.2% |
仕事がきつく体力に不安があった | 6.9% |
給与・諸手当が低かった | 6.2% |
業務の負担や責任が重すぎる | 5.4% |
夜勤や休日出勤など不規則だった | 3.5% |
仕事にやりがいがないと感じた | 1.7% |
仕事に適性がないと感じた | 1.7% |
社会的な評価が低いと感じた | 1.3% |
正規職員としての採用がなかった | 1.0% |
昇進等、将来の見通しがなかった | 0.8% |
現在介護業界で働いていない介護福祉士でも「条件が合えば働きたい」と考えているのは約半数いた一方、「働きたくない」と回答した介護福祉士は約2割いました。
復職意欲のある人に希望する雇用形態を尋ねると「非正規職員」が約4割、「正規職員」が約3割と二分する結果に。
さらに、希望する勤務形態を尋ねると「常勤(夜勤・早朝勤務なし)」が45.6%でトップ、次いで「非常勤(33.5%)」となっています。
多くの介護事業所が求めるであろう「常勤(夜勤・早朝勤務あり)」を希望した介護福祉士は7.1%しかいませんでした。
「潜在介護福祉士」は、仕事と家庭の両立を重視し、夜勤・早朝勤務がない職場を望んでいることがわかります。
復職する際に重要視することを尋ねた設問では「労働時間・休日、勤務体制が希望に沿う」がトップに来ており、ここでも仕事と家庭の両立を求める姿が垣間見えます。
次点に来ていたのが「職場の雰囲気が良い」。
時間や給与など労働条件に関する内容が主でしたが、ここに来て職場環境に関連するキーワードが出てきました。
復帰意欲がある人で再就業する際の希望雇用形態
全体 | 福祉介護医療分野以外で働いている者 | 現在就労していない者 | |
---|---|---|---|
回答数 | 5,799 | 1,450 | 4,349 |
正規職員を希望 | 31.7% | 46.1% | 26.9% |
非正規職員を希望 | 40.7% | 28.8% | 44.7% |
派遣職員を希望 | 1.9% | 1.4% | 2.1% |
公益財団法人介護労働安定センターの「平成25年度介護労働実態調査」によると、「直前の介護の仕事をやめた理由」で最も多かったのが「職場の人間関係に問題があったため」。
この結果から考察すると、人間関係に問題を抱え介護職を離れたケースも往々にしてあると見られ、職場の雰囲気改善も「潜在介護福祉士」を呼び戻す一助となるかもしれません。
人材確保が困難な地域に限り上限額40万円に引き上げられた「再就職準備金」
厚生労働省が介護人材の確保に躍起になるなか、その呼び水のひとつとして掲げているのが「再就職準備金」。
先月24日に閣議決定された今年度の第二次補正予算案に、その原資として10億円を新たに計上しました。
「再就職準備金」の対象となるのは、介護職員として1年以上働いた経験がある離職者で、介護福祉士など一定の知識や技術を持っている人です。
都道府県社会福祉協議会が運営する福祉人材センターへの登録が必須要件となっています。
実施主体は、都道府県または都道府県が認める団体です。貸付回数は1回で、貸付上限額は20万円となっていますが、“人材の確保が特に困難な地域”に限り貸付上限額は40万円となります(第二次補正予算により決定)。
貸付金は「子どもの預け先を探す際の活動費」「介護に係る軽微な情報収集や学び直し代(講習会、書籍等)」「被服費等(ヘルパーの道具を入れる鞄、靴など)」「転居を伴う場合の費用(敷金礼金、転居費など)」「通勤用の自転車、バイクの購入費など」に使うことができます。
再就職後、2年間介護職員として勤務すると返還義務は免除されます。
上限額を40万円とする“人材の確保が特に困難な地域”は今のところ、まだ決まっていません。東日本大震災や熊本地震の被災地のほか、有効求人倍率の高い地域(介護職の有効求人倍率が3倍超である東京都や愛知県などが有力)が選ばれる予定です。
「再就職準備金」による「潜在介護福祉士」の復職支援は有効?
これまで見てきた通り、「潜在介護福祉士」は「仕事と家庭の両立」と「職場の雰囲気」を復職の際に重視しているといえるでしょう。つまり、介護事業所の労働条件や職場環境を改善していくことが介護人材確保のための早道だと推測できます。
そう考えると「再就職準備金」による復職支援が適切な施策であるかどうかは疑問に思えます。
なぜなら、「潜在介護福祉士」は、短期的に得られるお金ではなく、安心して働ける職場を求めているからです。
「再就職準備金」に補正予算で10億円を投じるなら、介護職員や職場環境の改善などに使ってほしいと考える人もいるはずです。
いずれにしても、介護人材確保は喫緊の課題。即戦力となり得る「潜在介護福祉士」が復職するかどうかは、介護人材確保の試金石となるでしょう。
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2020年9月7日 制定